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会員に対する本会の役割が変わってきていると言われる.筆者が大学院生であった30数年前,筆者やその周辺の研究者らは,研究を開始するにあたり,まずは学会誌等の技術動向をまとめた記事で勉強を始めた.研究成果がまとまってきたら,全国大会で発表し,次いで研究会で発表し,一回くらいは国際会議でも発表し,最後は本会論文誌で発表して研究のライフサイクルが回るという感じであった.本会は研究発表の場の中心であった.それが今は,例えば情報収集はインターネットを利用すれば容易であり,最新の原著論文でも研究動向をまとめた記事やスライドでも簡単に見つかる.研究発表に関していうと,研究者評価を取り巻く状況が良くも悪くもグローバル化し,著名国際ジャーナルやトップ国際会議論文でなければ,予算獲得・就職・昇進等において効果が薄く,必然的に研究者の目指す発表先もこうした場に傾きがちである.旧来,本会が研究者の活躍の場そのものであったのに対し,最近は研究者の戦う場は一足飛びに世界になってしまった.これはまるで,研究者が丸裸で世界に放り出され,さあ成果を出せと言われているようなものではないか.このような状況に対し,本会のような日本を基盤とする学会は,世界で戦う研究者の鎧になり,あるいは世界で活躍する研究者の能力拡張をするような貢献をするのに最適ではないかと考えている.
例えば研究の遂行・成果の発信において,情報収集はインターネットを使って制限なく行えるし,研究アイデアの立案・実装・実験もできるし,論文執筆もできる.しかし,特に著名国際ジャーナルやトップ国際会議を狙おうとすると,研究内容はもとより,その論文としてのプレゼンテーションに特別の技量を要する.これを適切にサポートすることを目的とし,特に学生や若手研究者を対象とし,経験豊富な研究者が適宜助言を与えてくれるようなメンターシップ活動が幾つかの研専で行われており,情報・システムソサイエティではこうした活動を支援するような取組みを始めつつある.
一方,国際ジャーナルや国際会議も,基本的には研究者間の互助により成り立っており,国際ジャーナル・国際会議から査読依頼も来るし,エディタ就任依頼も来るし,更には国際会議運営の打診も来る.本会はこうした事柄に対するサポートもできるのではないか.今般,2023年7月に浜松で開催されるMVA(International Conference on Machine Vision Applications)という国際会議について,パターン認識・メディア理解研究専門委員会を開催母体,本会を主催として実施しようとしている.MVAは30年以上の歴史がある国際会議だが,本会主催による実施は初の試みである.日本人研究者を主な運営委員としているこうした国際会議の運営において,本会が一助となれば大変うれしいことである.
この一年ほど,国内外を問わず,学会への実参加を再開している.オンラインでの聴講も聞きやすいし便利でよいが,やはり実際にその場に行っての聴講,研究者らとの顔を合わせての議論に勝るものはないとしみじみ思っている.特に,国内の研究会等で,たまたま居合わせた研究者仲間と,ふわっとしたアイデアについて議論をするのは,いろいろな人からいろいろな視点からの意見がもらえて,大変に役に立つ.研究立案において,やはりこういう経験が大変重要と思っている.
資源が足りなかったり,時間がなかったりして,ちょっと無理かなと諦めかけていたようなこと.それが,学会のそういうサポートがあるならやってみようかなと思わせてくれるようなサービス.そんな,本会会員の「拡張」を実現するようなサービスを期待したい.
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