小特集 3. フォトニクス技術を用いた超広帯域テラヘルツ通信

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Beyond 5Gを支えるフォトニクス技術とその展望

小特集 3.

フォトニクス技術を用いた超広帯域テラヘルツ通信

Ultra-wideband Terahertz Communications Enabled by Photonics

永妻忠夫

永妻忠夫 正員:フェロー 大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻

Tadao NAGATSUMA, Fellow (Graduate School of Engineering Science, Osaka University, Toyonaka-shi, 560-8531 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.106 No.6 pp.470-478 2023年6月

©電子情報通信学会2023

Abstract

 本稿では,通信波長帯のフォトニクス技術を活用したテラヘルツ無線技術の最近の進展と今後の展望について述べる.まず,100GHz~1THzにおける無線周波数の選択について,電波伝搬と電波行政の観点から解説する.次に,テラヘルツ無線のための送受信システムの構成技術とそれを支える電子デバイス並びに光デバイスの動向と,フォトニクス技術を用いたシステムの実現例について紹介する,最後に,実用化に向けた課題について議論する.

キーワード:テラヘルツ,フォトニクス,無線通信,送受信システム

1.は じ め に

 テラヘルツ(THz)波とは,おおむね100GHz~10THzの電磁波のことを指す.1980年代に始まるTHz技術の研究は,フェムト秒パルスレーザを光伝導素子や非線形光学結晶に照射することによる,THzパルス波の発生と検出技術に基づいていた.また,同年代は,化合物半導体を主軸とする超高速エレクトロニクスの研究が興隆を極めていた.

 1990年代には,上述のTHzパルス波を使った,時間領域分光(TDS: Time Domain Spectroscopy)(1)とイメージングへの応用が提案されるや否や世界の注目を浴びた.これをきっかけに「THz波」や「T-ray」という呼称が,本来,当該周波数帯に与えられていた「ミリ波」(30~300GHz),「サブミリ波」(300GHz~3THz)よりも広がっていった.同年代,後述する光電変換素子の一つである単一走行キャリヤフォトダイオード(UTC-PD: Uni-Traveling-Carrier Photodiode)(2)や,高強度CWレーザ光と非線形光学結晶であるLiNbO3を用いた,THzパラメトリック発生器(TPG: Terahertz Parametric Generator)(3)が,我が国から生まれ,現在もTHz波応用をけん引している.

 2000年代になり,THz波の無線通信応用に向けた研究開発が始まった.また,上記の分光システムやイメージングシステムの商品化が活発に進められた.更に,正にフォトニクス技術からのアプローチと言える,量子カスケードレーザ(QCL: Quantum Cascade Laser)(4)が生まれ,後に,分光・分析技術への用途が広がっていく.

 2010年代になると,THz帯で動作する半導体電子デバイスと集積回路の研究が活発になり,化合物半導体はもちろんシリコン半導体トランジスタを用いた送受信回路技術が長足の進展を果たした.これを支えたのは,ネットワークアナライザやスペクトルアナライザといった計測技術の商用化である.

 そして,いよいよ2020年代,第5世代に入ったTHz技術は,移動体無線通信技術の次の世代,すなわちBeyond 5G/6G時代を支える有望技術として注目されるようになった(5).具体的には,100~300GHz帯の電波を用いた,「100Gbit/s」を超えるスループットの無線通信の実現である.これを可能にしているのは,10~数十GHzに及ぶ広い帯域幅が使えることにある.もちろん100Gbit/sを実現するためには,広帯域化だけでなく,多値変復調技術や空間多重技術も不可欠である.


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