教育優秀賞贈呈

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Vol.106 No.7 (2023/7) 目次へ

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2022年度 第7回 教育優秀賞贈呈(写真:敬称略)

 本会選奨規程第29条(電子工学及び情報通信並びに関連分野における教育実践(学会,教育機関,企業等での教育の実践)において顕著な成果を挙げ,当該分野の教育の発展に寄与した個人)に基づき,下記の3名を選び贈呈した.

情報技術人材の育成拠点(enPiT)の構築と普及

受賞者 井上克郎

 井上克郎君は,1984年に大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程を修了し,大阪大学助手,同助教授,同教授を経て,2022年から南山大学理工学部教授に就いています.この間,ソフトウェア工学,特に,プログラム解析技術のソフトウェア開発支援への適用において多くの成果を挙げています.

 文部科学省の実践的教育プログラムenPiTは,情報技術を活用して社会の具体的な課題を解決できる人材の育成機能を強化するため,産学協働の実践教育ネットワークを形成し,課題解決型学習(PBL)などの実践的な教育を推進し広く全国に普及することを目的とし,第1期(2012~2016年度)と第2期(2016~2020年度)に分けて実施されました.

 enPiTの第1期は大学院修士課程学生を対象に,クラウドコンピューティング,セキュリティ,組込みシステム,ビジネスアプリケーションの四つの分野で,15大学が中心となりPBLを中心とした情報技術教育を行い,全120大学,133企業と連携し,合計1,742名の修了生を輩出しました.また,第2期として学部学生を対象とした新たなプログラムを設定し,第1期と同様の4分野において,45大学が中心となって全116大学,167企業と連携し,合計4,154名の修了生を輩出しました.このような大規模なネットワークを構築するためには,参加する教員の間の十分な意思疎通,緊密なコミュニケーションが必要ですが,同君は,定例の運営委員会,幹事会,セミナー,分野を束ねたワーキンググループ会議,シンポジウムなどを設計・実行し,実効性の高い教育ネットワークを構築されました.enPiTの教育的効果に関しても,各学生の情報技術力の向上のほか,PBLのグループ学習の効果により,対人基礎力,対自己基礎力,対課題基礎力などの項目において,プログラム受講前に比べて受講後は向上することが示されています.

 同君は,enPiTの代表者を当初から務め,その設立,教育フレームワークの設計・実施,教育効果の評価法の開発・実施,実施状況のモニタリング,教員や連携企業とのネットワークの構築などに尽力され,enPiTの成功に大きく貢献しており,本会の教育優秀賞を受賞するにふさわしいと確信し,推薦致します.

区切


数理・データサイエンス・AI教育プログラムの開発および実践

受賞者 小田まり子

 小田まり子君は,教育工学を専門分野とし,佐賀大学から博士(工学)の学位を授与されています.現在は,久留米工業大学工学部情報ネットワーク工学科教授兼AI応用研究所副所長を務めており,数理・データサイエンス・AI教育の責任者として中核的役割を担っています.

 政府の「AI戦略2019」では,リテラシーレベル:年間約50万人,応用基礎レベル:年間約25万人というAI人材の育成目標が掲げられています.このような社会ニーズに応えるために,久留米工業大学AI応用研究所では,同君がリーダーとなり,実践的なAI教育プログラム「地域課題解決型AI教育プログラム」を開発し,そのコア科目として,2020年度に「AI概論(リテラシーレベル)」,2021年度に「AI活用演習(応用基礎レベル)」を必修科目として開講しています.「地域課題解決型AI教育プログラム」は,これらのコア科目に,数学,データサイエンス,バーチャル留学などの関連する科目が統合されたものです.特に,「AI活用演習」の受講者の中から各学科から推薦を受けた学生を受講者とする「地域課題解決型PBL」は,地域の教育,街づくり,農業,地域特産品の生産・販売,社会福祉等の地域課題の解決にAIを活用することを目的としており,この選抜クラスの受講希望者は開講2年目には倍増しました.

 久留米工業大学の「地域課題解決型AI教育プログラム」は,令和3年度文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)プラス」,令和4年度文部科学省「同教育プログラム(応用基礎レベル)プラス」に選定され,高い評価を得ています.また,同君は,文部科学省「同教育プログラム認定制度」説明会における事例報告やその他の講演等の活動を通じて精力的に情報発信を行っています.そのため,本教育プログラムには,大学をはじめ産業界,研究機関,自治体などの関係者が高い関心を寄せています.

 このように同君の工学教育における優れた実践と実績は,本会の教育優秀賞に値するものであり,同君をその受賞者として推薦します.

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信号処理技術の実践的教育並びに効率的な論文執筆法の開発と普及

受賞者 杉山昭彦

 杉山昭彦君は,2018年まで日本電気中央研究所で通信機器,半導体,パーソナルコンピュータ,携帯電話などの製品に直結した信号処理技術の研究開発に,2019年からはヤフーで信号処理技術の研究に,従事している.1998年には東京都立大学から,適応信号処理アルゴリズムの研究に対して論文博士を授与された.

 同君は,直属の部下だけでなく広く社内の技術者教育に貢献し,また70人を超える世界中のインターンシップ学生を積極的に指導した.学生や初級技術者が効率的に報告書や論文を執筆できるように,3点分析とスライドファーストに基づく独自の論文執筆法を開発し,普及に貢献してきた.3点分析は,研究成果の「価値」,価値を達成するための「工夫」,解決した「課題」を明確化する.「研究の成果(math価値)が課題を解決しない」という初心者によく見られる矛盾を回避し,明快な論理構造を確立することができる.更に,3点分析結果に基づいた口頭発表用スライドを大活字で作成し,論文の骨格とする.スライド各ページを論文のパラグラフや節に発展させたものが,論文の原稿となる.時間がかかる論文題名決定は,「価値」と「工夫」を用いてほぼ一意に決まる方法を示している.原稿執筆で最も難しい概要とまえがきは,例文とともに,書くべき内容をパラグラフ単位で明示している.3点分析による明快な論理の設計,スライドによる論理構造の視覚化,明示された手順による作業中の迷い低減が,従来の論文執筆法に対する最大の特長である.国内5大学での授業に加えて,29回の海外招待講演を通じて,その効果は広く認知されている.

 同君は,IEEEのSignal Processing SocietyとConsumer Technology SocietyからDistinguished Lecturerを,更に前者からDistinguished Industry Speakerを委嘱されて,世界31か国87都市で174件の招待講演を実施した.これらの講演,20年にわたる大学での非常勤教師としての教育,及び書籍に執筆した17章を通じて,信号処理技術の産業応用に関する理解促進に貢献した.

 このように独自の論文執筆法の開発や国際招待講演,並びにインターン学生の指導を通じた実践的教育は,信号処理技術の理解に対する貢献が顕著であり,本会教育優秀賞にふさわしいものである.

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