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巻頭言は会誌を一層親しみやすく,有意義なものとするために,執筆者が日頃考えていることを自由に執筆することになっています.なぜこのようなことを書くかというと,会誌編集委員会のメンバーとして,このコーナーの魅力をいかにアップするかが重要な役割と考えているからです.以前,山中会長から,巻頭言は現在の本会の課題に熱心に立ち向かっている役員の姿勢を反映してすばらしい内容が書かれているが,そういったことに集中し過ぎると広がりが少なくなるのではないかというコメントを頂き,ハッとしたことがあります.そこで,お叱りを覚悟で,できるだけ巻頭言の内容の敷居を下げるべく「しょうもないこと」を書くことが自分の役割だと考え,記事を書いてみたいと思います.タイトルをつけるとするなら「アイデア増幅器は作れるか?」です.
世の中にはアイデアプロセッサと称されるものがあります.多くはアイデアや情報を何らかの形で整理し関連付けて構造を持たせ,更にそこから連想されるアイデアを付け加えていくツールがほとんどではないでしょうか.最近はAIと連携しているものもあり,率直に言ってとてもすばらしいツールになってきています.これもアイデア増幅器と言えるかもしれませんが,何かが足りないと感じます.仕事や役割としてアイデアを出すように求められることがありますが,考えても考えてもアイデアが思いつかない場合は苦しんだり,その仕事を引き受けた自分の軽率さを悔やんだりすることもあります.その中でアイデアが思いつくと,自分の中で「こんなこと考えた!」とうれしさが込み上げてくるのを感じます.アイデアプロセッサではこの「こんなこと考えた!」という思いが増幅されにくいのではないでしょうか? その理由については,増幅形態の観点で考えてみるとよいかもしれません.アイデアプロセッサは,アイデアを基にどんどん知識(情報)を付け加えていくオープンループ増幅的な方法のように思われます.特にAIと連携したアイデアプロセッサは,まさに雪崩的に情報が増幅されるのです.一方で,「こんなこと考えた!」の増幅は思いを増幅する必要があるため,帰還増幅的でなくてはなりません.なぜなら,思いの所在は自分自身であり,自分に返ってこなければ増幅できないからです.では,どうやって自分に返すのでしょうか? 一つは,内省によってアイデアを深く考えることです.自分の考えに凝り固まってしまわないように気を付ける必要がありますが,自分を信じることができれば,これは有効な方法だと思います.もう一つは,他の人とアイデアを共有し,他人を介してフィードバックを受けることです.これは自分をあまり信じられない私のようなものにとっては,大変強力な方法です.更に言えば,自力では難しくても他の人が増幅してくれたり,論理的に確たるものとして返してくれたりします.
さて,本会では論文や学会発表を通して多くのアイデアが発表されています.しかも,学術界のみならず企業などの様々な分野の多くの会員が,システムやサービス,材料や素材,数理科学や生命現象のような複雑系を含む実に幅広い分野のアイデアを持ち寄っています.そしてそのアイデアに対して,コメントや質疑のようなフィードバックだけでなく,アイデアプロセッサでは決して得られない関心を持った多くの人々の反応をフィードバックとして受け取ることができます.読者の方は既に,あるいは最初から気付いていたかと思います.ここでいう「アイデア増幅器」というのは,正に本会そのものであり,ツールでは得られない「こんなこと考えた!」という思いに対するフィードバックがそこにあります.本会を利用しない手はないのではないでしょうか.
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