巻頭言 科学技術研究開発の自給率の向上

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Vol.107 No.5 (2024/5) 目次へ

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巻頭言

科学技術研究開発の自給率の向上 Raise Self-sufficiency Rate of Science and Technology R&D監事 河東晴子

 新型コロナウイルスの感染拡大,ロシアによるウクライナ侵攻,イスラエル・パレスチナ紛争など,この数年で世界の情勢はこれまでにない変化を遂げました.それに伴い,日本国内でも歴史的な物価高など,長い間変わらなかった人々の生活に変化が生じました.欧州ではウクライナの食糧やロシアのエネルギーの輸入が滞り食糧・電力等の価格上昇が発生しましたし,日本でも非常時に備え食料やエネルギーなどの自給率の保持・向上が必要なことが認識されました.輸入品の方が安いからと言って安易に輸入品ばかり使っていると,社会情勢の変化などで輸入ができなくなったとき,困ってしまいます.急に代替の国産品を使おうとしても,価格が高かったり,供給ができない場合もあります.国産品の製造者が,輸入品に市場を奪われて廃業してしまう場合もあります.

 自給率の保持・向上が必要なのは,食糧やエネルギーだけではなく,工業製品,科学技術にも当てはまります.近年,国際的経済構造を鑑み,国の安全を経済面からの確保する経済安全保障の考慮がうたわれるようになりました.サプライチェーンの確保の重要性も認識されてきました.2022年に成立した経済安全保障推進法では,国民の重要物資の安定的な供給,基幹インフラの安定的な提供,安全保障上機微な特許の非公開とともに先端的な重要技術の研究開発の促進とその成果の適切な活用のための開発支援について述べられています.

 国の安全を守るのは,武力だけではありません.経済力と科学技術力の保持は非常に重要です.米国,ロシア,中国等と違い,天然資源や広大な土地から収穫される農産物に乏しい我が国では,科学技術力の確保は一段と重要です.工業製品の製造はもとより,本会に関係の深い研究開発についても,自給率の向上は必要です.

 国の安全と技術開発に関しては,2017年に日本学術会議の軍事的安全保障研究に関する声明で,軍事目的のための科学研究を行わないという1960年代の声明を継承しました.本会でも,論文誌の対象分野には軍事研究・開発を目的とするものは含まないとするなどの方針が示されています.一方,米国防総省のARPANETを起源とするインターネットの発展など,防衛研究の民需への活用は数多くあります.要素技術の研究開発は目的を限定しないもので,ほとんどの技術は民需・防衛デュアルユースとなっています.例えば米国の国防総省予算は,れい明期の宇宙開発,ネットワーク技術開発等,直近の実現性が明らかでない先進的な研究開発に投資し,成果を上げました.日本では,このような研究への投資がおろそかにされがちです.

 世界中から優秀な人材が継続的に流入し,国防総省予算等で先進的な研究開発を進めてきた米国のまねをして,日本でも短期的な成果で研究の成果を評価するのは短絡的です.それに加えて長期的視野,チャレンジングな研究の支援が必要です.また新しい技術だけでなく,地味で地道な技術の継続的な研究開発の支援も必要です.経済安全保障推進法の先端的な重要技術の研究開発の取組みの拡大などにより,技術者・研究者が落ち着いて各々の研究開発を推進できる環境の整備が望まれます.これがひいては日本の科学技術研究開発の自給率を向上し,国の安全を守ることにつながると思います.


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