
エレクトロニクスシミュレーション研究専門委員会
トポロジー最適設計
本会ハンドブック「知識の森」
1. トポロジー最適設計とは
トポロジー最適設計とは,構造最適設計において設計者があらかじめ用意した構造の寸法や外形状のみを変化させるのではなく,構造のトポロジーまで含めて(内部構造まで含めて)最適な構造を創出する最適設計法である.
トポロジー最適設計法はまず構造力学の分野で発展し,様々な分野に応用が広がっている.初期の重要なアイデアはBendsoeとKikuchiが提案した均質化法 (1)に基づく方法で,その後,密度法の一種であるSIMP法(Solid Isotropic Material with Penalization Method)が開発された (2).密度法では,材料の有無を0~1の連続的な密度値で表現し,設計空間内の密度分布を最適化する.密度が高い領域に材料が割り当てられ,低い領域には材料を割り当てない.密度法ではペナルティを課すことで中間状態(グレイ領域)の出現の抑制を目指すが,完全にグレイ領域を抑圧することは一般に難しい.この問題を解決する一つの方法として,レベルセット法に基づくトポロジー最適設計法が開発された (3).レベルセット法では,レベルセット関数の正負により材料を割り当てるかどうかを決めるので,グレイ領域は現れず明確な材料境界を表現できる.レベルセット関数を基底関数の重ね合わせで表現するパラメトリックレベルセット法も開発されている.トポロジー最適設計法は電子工学を含む広い分野で研究が進んでいる (4),(5),(6),(7).
図1に光導波路曲がりの場合を例に,寸法最適化,形状最適化,トポロジー最適化の違いを示す.寸法最適化では基本構造を決め,各部の寸法を設計変数として最適化する.形状最適化も同様に基本構造を用意し,その境界上に制御点を起きその座標を設計変数として最適化する.寸法最適化よりも自由な構造表現が可能であるが,構造のトポロジーが変化することはない.一方,トポロジー最適化では設計空間内全体が設計対象であり,構造のトポロジーが自動的に変化しながら最適な材料分布を導き出す.例では,導波路幅を=0.7 µm,コアとクラッドの屈折率を1.45,1.0とし,設計領域サイズは4 µm×4 µmとしている.それぞれ透過率は図の左から順に61%,88%,97%であり,トポロジー最適化で得られた構造は寸法最適化や形状最適化で得られた構造よりも飛躍的に高い透過率を実現していることが分かる.

トポロジー最適設計の基本的な考え方は,設計領域を設定し,その内部の構造を数値パラメータ(設計変数)で表現する.その後,数値解析による特性評価に基づき設計変数の更新を繰り返し,目的の特性を達成する素子構造を得る.以下に構造表現の方法と設計変数の最適化の方法について記す.
2. 数値パラメータによる構造表現
トポロジー最適設計法で用いられる代表的な方法である密度法とレベルセット法の違いを図2に示す.光導波路デバイスを考えた場合,その構造は比誘電率の異なる材料の分布と考えることができる.密度法では,特性解析を有限要素法で行う場合,密度パラメータを要素ごとに割り当て,番目の要素の材料定数(比誘電率)を密度パラメータ
を用いて
と表す.,
は設計に用いる2種類の材料の比誘電率であり,
は0~1の間で変化する非線形関数である.

一方,レベルセット法ではレベルセット関数を用いて設計空間内の材料定数を
と表す.はヘビサイド関数あるいは修正ヘビサイド関数である.レベルセット関数の設定には幾つかの方法が提案されている.また,これらの方法は3媒質以上を用いる場合への拡張も行われている.
3. 設計変数の最適化方法
設計変数の最適化には多数の方法が提案されている.図3にその一例を示す.勾配法を用いる場合には設計変数の微小変化に対する特性の変化量(感度)を効率的に求める必要がある.トポロジー最適設計では,効率的な感度解析の方法として随伴変数法が定式化されている.
有限要素法を用いた数値解析では,素子特性は以下の線形方程式を解くことで得られる.

ここには有限要素行列,
は設計変数ベクトル,
は離散化された電磁界からなるベクトル,
は入射条件からなるベクトルである.このとき,入出力特性を表すSパラメータの感度は
であり,は出力
番ポートの固有モードからなるベクトルである.各出力ポートに対して一度だけ随伴変数ベクトル
を求めておけば,後は単純な行列ベクトル積により全ての設計変数に対する感度を効率的に計算できる.ここでは,有限要素法を例に随伴変数法の定式化を示したが,FDTD法やビーム伝搬法などに対しても定式化が行われている.
4. トポロジー最適設計への期待
トポロジー最適設計法は最適設計法の中でも自由度が高く,設計者の事前の知識なしに最適な構造を得ることができ,時にこれまで考えられたことのない新たな発見をもたらす.ここではページの都合で記載できなかったが,実際の作製条件を含めた設計や複数の特性を考慮した多目的設計など,様々な改良がなされており,トポロジー最適設計を活用することで,エレクトロニクス分野の様々な素子の特性が飛躍的に高められることが期待されている.
文 献
(1)M.P. Bendsoe and N. Kikuchi, “Generating optimal topologies in Structural design using a homogenization method,” Comput. Methods Appl. Mech. Eng., vol. 71, no. 2, pp. 197-224, Nov. 1998.
(2)M.P. Bendsoe, “Optimal shape design as a material distribution problem,” Struct. Optim., vol. 1, no. 4, pp. 193-202, Dec. 1989.
(3)J.A. Sethian and A. Wiegmann, “Structural boundary design via levelset and immersed interface methods,” J. Comput. Phys., vol. 163, no. 2, pp. 489-528, Sept. 2000.
(4)M.P. Bendsoe, O. Sigmund, Topology Optimization : Theory, Methods, and Applications, Springer, 2004.
(5)西脇眞二,泉井一浩,菊池 昇,トポロジー最適化(計算力学レクチャーコース),一般社団法人日本計算工学会(編),丸善出版,2013.
(6)五十嵐 一,電磁界解析による最適設計:トポロジー最適化の基礎から機械学習まで,森北出版,2023.
(7)
寧英,“トポロジー最適化法による光デバイス設計,”信学誌,vol. 106, no. 9, pp. 834-840, Sept. 2023.
(2025年10月7日受付)

寧英