
電子情報通信学会 電磁界理論研究専門委員会
マクスウェルグリッド方程式と有限積分法(FIT)
川口秀樹(室蘭工業大学)
kawa@muroran-it.ac.jp
本会ハンドブック「知識の森」
1.マクスウェルグリッド方程式と有限積分法とは
携帯電話,GPS等の電磁波伝播,ICカード,IHコンロ等の電磁誘導加熱,モーター・発電機等の電磁力応用など,実際の電磁場現象を解析し,定量的に,信号の強度,消費エネルギー,電磁トルク力を評価する場合,理論的・解析的に計算できる場合は多くなく,ほぼすべての場合に数値的な解析が必要となる.一般に,電磁場に現れるような偏微分方程式を数値解析する場合,大別して,差分法(FDM),有限要素法(FEM),モーメント法(MoM)・境界要素法(BEM)などの数値解法が用いられるが,有限積分法(Finite Integration Technique : FIT)は,このうちの差分法に分類される.ただし,後述するように,FITは,1977年,T. Weilandによって提案されたマクスウェルグリッド方程式(MGE)の概念に基づき (1),(2),(3),(4),電磁場の物理法則に忠実に準拠する数値計算法であるため,媒質境界での境界条件,プラズマとの連動解析などの際,非常に見通しよく具体的に適切な定式化を見出すことができる.本稿では,まず,このMGEの概念から説明する.
2.マクスウェルグリッド方程式(MGE)
よく知られているFDM, FEM, MoM/BEMなどの数値解析法では,ポアソン方程式,ヘルムホルツ方程式などの支配方程式を,直接,グリッド空間で離散化したり,変分原理にしたがって汎関数を離散化表現したり,積分方程式に変換して離散化して計算するなどし,数値的にシミュレーションを行う.
一方,FITでは,まず,空間をグリッド状に離散化し,その上で,積分形のマクスウェル方程式を構成する.具体的には,図1のようなグリッド空間中のあるグリッドを取出し,その底面A-B-C-D-Aにおいて,各辺に沿った電圧降下を,この面を貫く磁束数を
と定義すると,積分形のファラデー電磁誘導則,

(但し,は面を貫く磁束数)は,
となる.ただし,左辺各項は電場強度ではなく,それを線積分した電圧降下,右辺は磁束密度ではなく,それを面積分した磁束数であることに注意する.同様に考えると,面,
面では,それぞれ,
となる.いま,グリッド空間中の各辺の方向の電圧降下,各面の磁束数をすべてまとめて,それぞれ,
とベクトル表記すると,式(3),式(4),式(2)を全グリッド空間でまとめると図2のような行列表現となる.このとき,この係数行列の成分は,1,-1,0のいずれかとなり,図2は,
と表現できる.また,積分形の磁場のガウスの法則,
は,図1(b)では,
となる.そして,式(8)を全グリッド空間でまとめると,図3の行列表現となる.図3の係数行列の成分も1,-1,0のいずれかとなり,図3は,次のように表現できる.


一方,図1(b)のグリッドに対し,図4のような,それから,方向に半グリッドずれたグリッド
を考える.これをデュアルグリッドと呼ぶ.この
では,積分形のアンペールの法則,
を構成する.ただし,,
は面を貫く電流,電束数.すなわち,図4の面A’-B’-C’-D’-A’において,各辺に沿って磁場を線積分した値(電場とのアナロジーで,この量をmagnetic voltage dropと呼ぶ)を
,この面を貫く電流,電束数を
,
と定義すると,式(10)は次のようになる.

同様に, 面,
面では,それぞれ,
となる.いま,の各辺
方向のmagnetic voltage drop,各面電束数,電流を全てまとめ,それぞれ,
とベクトル表記し,式(12),式(13),式(11)を全デュアルグリッド空間でまとめると,図2と同様な行列表現となり,この係数行列を と表記すると,
と表現できる.また,積分形のガウスの法則,
は,図4の 中の電荷量を
として,
となる.そして, 中の電荷量をまとめ,
とベクトル表記し,式(17)を全ての でまとめると,図3と同様な行列表現が得られ,この係数行列を
と表すと,
と表現できる.容易に想像できるように,式(6),式(9),式(15),式(19)は,それぞれ,積分形のマクスウェル方程式の式(1),式(7),式(10),式(16)の微分形,
に対応している.これら式(6),式(9),式(15),式(19)を,マクスウェルグリッド方程式(MGE)という.
本来,電場強度,磁場強度
は,線積分される物理量であり,グリッド空間では辺上で定義され,一方,磁束密度
,電束密度
は,面積分される物理量であり,グリッド空間では面上で定義されると考えると,構成方程式,
で関連付けられると
,
と
は,たとえば,真空中では,スカラー係数だけで結びついており,上述のように,片方は辺上,もう片方は面上で定義されるという性質がお互いに相いれないことになる.これを,うまく解決するのが,図4のように,
と
は,グリッドG上,
と
は,デュアルグリッド
上で定義するという,2重グリッドの概念である.また,MGEに現れた係数行列の間には,たとえば,
なる恒等式が成立つことが直接の計算でわかるが,これは,ベクトル解析の任意のベクトルVに対する公式,
に対応する.(その他,×(
)=0に対応する恒等式や
と
が満たす特別な関係式
などもある)
3.有限積分法(FIT)とその特徴
有限積分法とは,まさに,グリッド離散化された空間で定義された,式(5),式(14),式(18)の電磁場の量を,式(6),式(9),式(15),式(19)に基づいて計算する数値計算法である.ただし,式(5),式(14)の全ての物理量を未知量とすると,式(6),式(9),式(15),式(19)では方程式が不足するため,式(21)を離散表現した,
により,未知量を,
のみにすることにより,電場,磁場が数値的に求められる.したがって,MGEは,静電場・静磁場,渦電流場,電磁波など全ての電磁現象をカバーしている.特に,電磁波を扱う場合の具体的な数値計算のスキームは,FDTD法と全く同じものになる.
このとき,FITで重要な点は,グリッド離散化された空間で論じてはいるものの,MGEの式(6),式(9),式(15),式(19)は,あくまで厳密な式であり,どんな近似も含まれていない.一方,式(24)はそれぞれ両辺が別の物理量であり,離散化された時点でこの部分に近似が含まれることになる.逆に言うと,と
との間で式(24)を如何に正確に適切に構成するかによって,FITの精度,さらに,計算の安定性が決まることになる.実際,この指針でFITを定式化することにより,サブグリッド技法 (5)や曲線境界モデルを非常に安定に計算することができる.
文 献
(1)T. Weiland, Electron. & Communication, 31(1977), pp. 116.
(2)T. Weiland, Int. J. of Num. Modelling, 9(1996), pp. 295-319.
(3)T. Weiland,日本AEM学会誌,10[2](2002), pp. 159-168.
(4)川口,日本AEM学会誌,10[2](2002), pp. 154-158.
(5)P. Thoma, T. Weiland, Procs. 25th European Microwave Conf., 2(1995), p. 770-774.
(2025年12月12日受付 2026年3月4日最終受付)

