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Vol.109 No.6 (2026/6) 目次へ

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編集長退任にあたって

笹瀬 巌

1. は じ め に

私はこれまで電子情報通信学会において,通信方式研究専門委員会委員長,ネットワークシステム研究専門委員会委員長,通信ソサイエティ会長,100周年記念実行委員会委員長,会長などの役職を務めてまいりました.会長就任直前の2020年4月7日には,新型コロナウイルス感染症拡大に伴う「緊急事態宣言」が発出され,会長としての1年間は,オンライン化への移行・拡大を精力的に推進し,学会活動の遂行に支障が生じないよう全力で取り組みました.2021年6月に会長を退任した後もコロナ禍は続いており,ポストコロナのデジタル社会に向けて,引き続き社会に貢献したいという思いを抱いておりました.そうした折,2021年秋に当時の田中編集長から編集長就任のお話を頂きました.本務である慶應義塾大学において,理工学メディアセンター(図書館)所長を7年半務め,図書・出版・編集関連の業務に携わっていたこともあり,この機会を大変ありがたく思い,お引き受け致しました.

編集長としての4年間(2022年6月~2026年6月)は,編集出版における電子化・グローバル化・オープンアクセスを含むビジネスモデルの課題に対し,高村・佐波・橋本・山里・柏野各編集理事,各編集委員会の幹事・委員の皆様とともに懸命に取り組みました.また,鈴木様,稲川様をはじめとする編集関連事務局の皆様からは,常に力強い御支援を頂きました.皆様のお力添えのおかげで,何とか役目を果たすことができ,私にとって大変貴重で心温まる経験となりました.ここに,関係者の皆様に心より深く感謝申し上げます.

2. 2022~2025年度の編集出版関連の主な活動

本会の主な編集関係委員会としては,(i)会誌編集を担当する「会誌編集委員会」,(ii)各ソサイエティの論文誌に関する協議を行う「編集連絡会」,(iii)専門書等の企画・出版を担当する「出版委員会」,(iv)技術ニュースの解説記事を編集する「ニュース委員会」などがあります.この4年間に実施した主な活動を表1にまとめました.本稿では,会誌及び論文誌に関する活動について簡単に御紹介します.

2022~2025年度の編集出版関連の主な活動

2022~2025年度の編集出版関連の主な活動

2.1. 会誌

会誌は学会のアイデンティティを形づくる重要な出版物であり,最も基本的な会員サービスの一つです.幅広い会員の皆様に読んで頂けるよう,要点をすぐに理解できる平易で分かりやすい記述を心掛けてきました.分野横断型のホットトピック,最先端技術,社会との関わりに着目したテーマなど,会員の関心が高いと考えられる題材を選定して特集・小特集を企画し,当該分野を先導する研究者の方々に分かりやすい解説をお願いしました.また,特集に加えて,注目度の高いテーマに関する技術解説記事の掲載や関連ニュースの紹介を行い,質の高い正確な情報提供に努めました.将来の会誌の在り方を見据え,本会ホームページにおけるオンライン版の拡充及び会誌アプリの提供を進め,電子化を推進してまいりました.あわせて誌面レイアウトの継続的な改善を図り,特集内容の一層の充実と記事間の重複回避に配慮し,バランスの取れた誌面構成に努めました.その結果,スマートフォンでも移動中に気軽に閲覧でき,読みやすく親しみやすいとの評価を頂いています.

2.1.1. 特集企画について

主な分野横断型ホットトピックの特集企画は以下のとおりです.


・ 2022年8月 (別冊)特集「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のテクノロジーとイノベーション」

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会から,本会を通じて大会の技術成果を広く発信したいとの申し入れがありました.これを受け,会誌別冊として特集号を発行し,あわせて英訳版を会誌オンライン版にも掲載致しました.

・ 2023年4月 知識ベース「知識の森」会誌連載開始

知識ベース「知識の森」の会誌連載を開始致しました.

・ 2024年3月 1200号記念特集「100年後の情報通信が支える未来予想図」

小学生・中学生・高校生及び20歳以下の学生を対象に,作文や絵画・イラストを募集致しました.その結果,応募作品66件の中から,最優秀賞1件,優秀賞6件を選定致しました.本記念特集号が100年後の人々にどのように受け止められるのか興味は尽きませんが,子供たちが夢と希望を感じられる社会が実現していることを願っております.

・ 2025年2月号小特集 「機械と情報通信の双方から考えるサイバーフィジカル融合社会」

本会企画戦略室による日本機械学会との連携企画として掲載致しました.

・ 2025年5月号特集 「未来を創る情報通信エンジニアリング」

社会生活を支える情報通信インフラを総合的に運営(設計,工事,運用,維持管理)する情報通信エンジニアリング活動について,ソサイエティに相当する組織として企業から特別会員を募り,情報通信インフラにおける課題と解決策を議論する部会を立ち上げました.

・ 2026年1月号特別小特集 「(電子・情報・通信で)子供と遊ぼう」

子供たちの理数系分野に対する苦手意識を払拭し,本会の扱う分野に興味を持って頂くことを目的に企画致しました.「QRコードを支える技術」では,発明者である原 昌宏氏に御解説頂き,QRコードを用いたクイズも掲載致しました.また,「超人スポーツ―未来をつくる新しい遊びと競技―」では,誌面のQRコードから各競技の紹介ページにアクセスできるよう工夫致しました.

2.1.2. 会誌記事の英訳(多言語訳)について

海外会員の減少への対応及び海外会員向けサービス向上を目的として,多言語プラットフォームを活用し,2024年4月号掲載分から毎月数件の会誌記事の英語版掲載を開始致しました.また,機械翻訳機能を活用し,16か国語での提供も実現致しました.まず,会誌編集委員から推薦のあった記事の中から編集長・編集理事が選定し,著者の内諾を得た上で掲載手続きへと進め,次に,会誌アプリで提供されるEPUBデータを基に機械翻訳により英語版HTMLを作成し,著者の確認を経た上で掲載しております.

2.1.3. アウトリーチ活動

科学新聞社に会誌及び会誌目次書誌情報を送付し,「マガジンラック」欄において,他学会誌と同様に会誌目次を掲載して頂いております.

2.1.4. 会誌の表紙デザインについて(図1)

4年間の会誌表紙

表紙のテーマ及びデザインの選定は編集長の役割であるとの位置付けの下,以下のとおり選定致しました.


・ 2023年:「多極真空管」(本会100周年記念事業マイルストーン選定)

前任の田中編集長が真空管を表紙に採用された経緯も踏まえ,継続性を考慮し,歴史的かつ画期的な国産電子デバイスとして,安藤 博氏が1919年に世界に先駆けて発明した「多極真空管」を選定致しました.本会は1917年創立の電信電話学会を起源としており,その発明とほぼ同時期に誕生しております.この発明により無線通信技術は飛躍的に向上し,ラジオ,更にはテレビジョンの時代へと大きく発展致しました.

・ 2024年:小型純電気式計算機「14-A」/カシオトロン

歴史的・画期的な国産電子機器として,カシオ計算機株式会社の製品を選定致しました.前者は演算素子に継電器(リレー)を使用した世界初の商用小型純電気式計算機であり,後者は世界初のオートカレンダー機能を備えた腕時計です.

・ 2025年:CDプレーヤ「DP-80/DC-81」/プリアンプ「C-2800」

極めて高品質な音楽再生を実現した国産電子機器として,アキュフェーズ株式会社の製品を選定致しました.世界初のディスクリート方式D/A変換器を採用したCDプレーヤと,16個の電流スイッチの組合せにより音量調整を行うプリアンプです.

・ 2026年:「西洋事情初編(福澤諭吉著)」/「グーテンベルク聖書」

慶應義塾大学が所蔵する希少本を選定致しました.前者の挿絵には,「蒸汽済人電気伝信」の文字が掲げられ,北半球の地図を鎖で囲み,電線上を洋装の飛脚が走る姿が描かれています.電信しか存在しなかった150年以上前に,今日のインターネット社会を想起させる構想が示されている点には驚かされます.後者は15世紀にグーテンベルクが印刷した西洋初の活版印刷聖書であり,ルネサンス期の三大発明の一つとして宗教改革や科学革命を促す原動力となりました.いずれもデジタルアーカイブ化され,無料で閲覧可能です.

https://www.lib.keio.ac.jp/collection/index.html

2.1.5. 会誌の将来検討

2027年度に公益目的支出計画が終了することを見据え,会誌の収支改善及びより読まれる会誌へのリニューアルを目指し,2025年7月に会誌将来検討アドホック委員会を設立し,検討を開始致しました.

2.1.6. 広告施策

近年,広告媒体の重点がWebへと移行している状況を踏まえ,2022年から同封サービス及びメールヘッダマガジン施策を開始致しました.その結果,クリック数の増加など一定の効果が表れております.同封サービスでは,会誌送本時に広告チラシを同封することで,会員の目に触れやすい工夫を行っております.また,メールヘッダマガジンでは,毎月1日に会員へ会誌目次をメール配信する際,冒頭に広告を掲載することでアクセスしやすい構成としております.

2.1.7. 正確で分かりやすい重要技術ニュースの早期紹介

ニュース委員会は,最も開催回数の多い委員会の一つです.委員の皆様の多大な御尽力により,重要な技術ニュースを可能な限り早期に,かつ正確かつ分かりやすく会誌で紹介しております.これらの取組みは,企業の広報活動にも貢献しております.

2.2. 論文誌

論文誌に関しては,基本的にソサイエティの論文編集委員会の責任の下で,それぞれの特徴を生かした取組みが行われており,編集連絡会では情報共有や意見交換を行っています.主な取組みを表1にまとめましたが,近年幾つか特徴的な変化が見られますので,簡単に御紹介致します.

一つ目は,論文誌への投稿促進に関する取組みです.2023年4月から和文論文誌Cにおいて研究会論文の同時投稿制度が施行され,更に2024年12月からは和・英論文誌Dにおいてシンポジウム論文の同時投稿制度が施行されました.このように,論文誌への投稿を促進する制度整備が進められています.

二つ目は,論文の流通拡大に向けた施策です.2023年10月号からComEXが,2024年2月号から英文論文誌Bが,いずれもIEEE Xploreに掲載されるようになりました.また,2024年8月にはNOLTA誌がDOAJ(Directory of Open Access Journals)に収録され,更に2025年4月からはScopus(エルゼビア社が提供する世界最大級の学術文献データベース)にも収録されました.これらにより,本会論文誌の国際的な可視性と発信力の向上が図られています.

三つ目は,多言語化への取組みです.2024年4月号から,EA,EB,EC,ED,ELEXを対象とした多言語翻訳プラットフォームのトライアル公開を開始しました.更に2025年4月からは,英文論文誌(EA,EB,EC,ED)について,従来の公開サイト(search)から多言語翻訳プラットフォームヘ移行し,本会英文論文誌の公開サイトとして一元化を行いました.加えて,2025年11月からは一定の料金を支払うことで過去のクローズド論文をオープンアクセス化できる遡及的オープンアクセス制度を開始しました.同月には論文誌競争力強化サブワーキンググループを立ち上げ,本会英文論文誌のインパクトファクタ向上について議論を行っています.

3. 今 後 に 向 け て

このように,編集出版関連の各委員会では,様々な施策を講じながら,時代の変化に対応した活動へと変革を続けています.今後のより良い編集出版活動に向けて,幾つか私見を述べさせて頂きます.

会誌に関しては,2025年7月に会誌将来検討アドホックが設立され,検討が進められています.私は,速報性が重視されるコンテンツについてはWeb閲覧の提供だけで十分だと思いますが,最先端技術やその動向を解説する正確で質の高いコンテンツは,アーカイブとしての価値も高いため,紙媒体とオンラインの併用が望ましいのではないかと考えます.

また,注目度の高いテーマに関する質の高い技術解説特集に加え,本会主催の国際会議・シンポジウム・研究会における基調講演や優れた招待講演等についても,会員以外は有料で閲覧できるビジネスモデルの検討は意義があるものと考えます.電子化を着実に進めるとともに,Webならではの魅力的な機能を付加しながら発展させていくことが重要です.

論文誌は学会の価値そのものでありますが,最先端技術やその動向を正確かつ詳細にまとめた解説論文や,網羅的で分かりやすいチュートリアル論文は,研究開発に携わる技術者や学生にとって極めて有益な教材となります.このような論文の掲載が一層促進されるよう,具体的な施策を御検討頂ければと存じます.

更に,企業からの論文投稿が少ない現状は,企業所属会員の減少とも関連している可能性があります.通信エンジニアリング活動,ベンチャー企業の研究開発,特許化や標準化動向など,より社会と結び付いた活動に関する発表機会を拡充するための積極的な取組みを期待しております.新たな流れを積極的に取り入れることにより,研究会やシンポジウムでの議論も一層活発になるものと考えます.

なお,論文執筆や研究活動におけるChatGPTをはじめとする生成AIの利用は急速に広がっております.便利で有用な側面がある一方で,剽窃(盗用)やオリジナリテイの担保,著作権や引用の不明確さ,内容の正確性・信頼性・研究倫理の観点,更にはデータ取り扱いに伴うリスクなど,様々な問題や懸念も指摘されております.これらを踏まえると,論文の査読や研究成果の評価においても,従来以上に慎重かつ厳格な対応が求められると考えております.

4. お わ り に

至らぬ点も多々あったことと存じますが,関係者の皆様の惜しみない御貢献のおかげをもちまして,編集長としての4年間を無事に務めさせて頂くことができました.特に,会長をはじめとする理事の先生方が執筆された会誌巻頭言を拝読し,その高い見識と深い洞察力に感銘を受けるとともに,特集や解説記事を熟読することにより,世の中の技術動向を的確につかむことができたことは,望外の喜びでございました.私の後任の佐波編集長は,学会の編集関係の経験が豊富であり,グローバルで広い視野を持って課題解決を図って頂ける逸材であり,安心してお任せできることをうれしく思います.今後とも,本会が生み出す正確で質の高い情報を世の中に広める役割を担い続けて頂けることを願っております.皆様,誠にありがとうございました.


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