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タイトル2-1 2. エッジコンピューティング応用技術

量子エッジコンピューティングと分散処理技術

Quantum Edge Computing and Distributed Processing Techniques

橘 拓至

橘 拓至 正員:シニア会員 福井大学学術研究院工学系部門

Takuji TACHIBANA, Senior Member (Faculty of Engineering, University of Fukui, Fukui-shi, 910-8507 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.109 No.8 pp.–000 2026年6月

© 2026 電子情報通信学会

量子エッジコンピューティングは,量子コンピューティングとエッジコンピューティングを統合した新しい分散計算基盤として注目されている.量子コンピュータの計算能力とエッジ環境の低遅延処理を組み合わせることで,IoTやモバイル環境における大規模データ処理やリアルタイム最適化の高度化が期待されている.本稿では,量子エッジコンピューティングの基本概念,システムアーキテクチャ,及び分散処理技術について概説する.更に,6Gネットワーク,量子機械学習,量子連合学習などの応用分野を紹介し,研究動向と今後の技術課題について整理する.

キーワード:量子エッジコンピューティング,量子ネットワーク,量子テレポーテーション,量子機械学習,分散処理技術

1. は じ め に

ユーザ近傍でデータ処理を行うエッジコンピューティングは,自動運転や,スマート工場,スマートシティ,医療,産業IoTなどの低遅延アプリケーションを支える基盤技術として利用が進んでいる.今後は,これらのアプリケーションの高度化や大規模化に伴い,走行経路制御や生産スケジューリングなどの最適化処理をエッジコンピューティング環境でリアルタイムに実行することが求められる.しかし,これらの問題は組合せ最適化問題として定式化されることが多く,既存のエッジコンピューティングで行われる古典計算では,問題規模の増大に伴い計算コストが急激に増加してリアルタイム処理が困難になる.

このような課題を解決する新しい計算基盤として,量子コンピュータをエッジコンピューティング環境に導入する量子エッジコンピューティングが期待されている(1),(2).量子コンピュータは,量子重ね合わせや量子もつれなどの量子力学的性質を利用することで,組合せ最適化問題などの特定の問題に対して古典計算よりも効率的な計算処理を実現できる可能性を有する.そのため,量子エッジコンピューティングは,エッジコンピューティング環境におけるアプリケーション高度化を支える基盤として注目されている.

また,エッジコンピューティングでは多数のユーザ端末やIoTデバイスが通信ネットワークに接続されるため,データの安全な伝送と処理の実現も課題となる.量子エッジコンピューティングでは,量子状態の不可複製性などの量子力学的性質を利用した量子通信技術によって,高い安全性を有する通信を実現できる可能性がある.そのため,量子エッジコンピューティングでは,安全で高信頼なデータ処理基盤の構築にも寄与することが期待されている(3)

更に,量子エッジコンピューティングは,将来の量子技術の発展に伴う新たな利点も有している.現在,量子重ね合わせや量子もつれなどの量子力学的性質を利用して高精度な物理量計測を実現する量子センシング技術の研究開発が進んでいる.この技術が普及した場合,量子センサから取得される情報が量子ビットとして生成される可能性がある.このような量子ビットを,古典ビットへ変換せずに量子ビットとして直接処理できればより高度な情報処理を効率的に実現できる可能性がある(4).そのため,量子センシングと連携した量子データ処理の観点からも,量子エッジコンピューティングの重要性が高まると考えられる.


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