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会誌電子化版と新たな学会活動
――EPUBによるスマートフォン等へのPush型トライアルサービス――
会誌電子化版トライアルサービスの狙い,内容,操作法について述べる.近年,スマートフォンを常時携帯してコミュニケーションを図るといった新しいライフスタイルが広まっている.このようなライフスタイルにマッチした新たな会員サービスに電子情報通信学会として先駆的に取り組み,定期的にユーザに所望のコンテンツを届けるPush型サービスの会誌電子化版トライアルを開始した.本トライアルではEPUBというリフロー型のデバイスの種類に自動的にマッチングさせる形式により,またSNS的に,記事に対して実名による意見やコメント,追加情報を載せられる双方向性を持った新しいコミュニケーション媒体化を目指している.
キーワード:EPUB,電子書籍,会誌,Push型サービス,SNS
2015年から,iPhone,iPad等,iOSを対象として開始した会誌電子化版トライアルサービスに続き,本年10月からAndroid OSにも対応した会誌電子版のPush型サービスを開始した.現在ほとんどのユーザが常時スマートフォンを持ち歩き,多くの情報の取得やコミュニケーションをSNS等で行っている.このようなライフスタイルの変化に伴い,“電子情報通信学会”として,会員の利便性向上のみならず,若者の紙媒体離れや,学会活動離れに対して,ICT技術を研究するコミュニティとしての学会活動の在り方を模索することを目的としたトライアルサービスを開始した.本稿では,狙いとサービスの内容,及び操作方法について述べる.
今回の会誌電子化版は,単に紙のコンテンツをPDF化してWeb上に掲載した従来形態とは大きく3点異なる部分がある.1点目は,従来のPDFではなく,スマートフォンから大画面のPCまで自由に書式を変えられる,ユーザの閲覧のチャンスを広げることができる,最新のEPUBと呼ばれる技術を先行して採用していることである.2点目は,Push型サービスとしていることである.従来は,本会のホームページに行き,ターゲットをダウンロードするサービスであったのに対して,定期的に,ユーザの希望するものに対してPush型のサービスを実現している.将来は,キーワードを入れておくと,本会から関連コンテンツが自らの端末にPushされるといったサービスへの発展も可能である.3点目は,双方向性の実現である.学会の本質的な機能として,会員が研究会などで発表のみではなく,議論やサジェスチョンをもらうことが挙げられる.今回のトライアルでは,記事に対して会員が実名でコメント等を記入できるSNS的な機能を実装した.上記3点に加えて,更に,「お気に入り」と呼ばれる個人別の本棚の機能の実現である.この機能により,例えば「無線技術」とか「教育」とか自分でカテゴリーを作って整理することが可能となり,個人向けに再整理できる電子化の利点を生かすことができる.表1にトライアルの特徴を整理する.
本会は,イノベーションの源泉であり続けるために,持続的発展が必要である(1).人口減少や高齢化,若者の技術離れもあり,会員数は約3.5万人(2007年)から約3万人(2015年)と減少を続けている.短期的には,団塊の世代のリタイヤメントによるものであるが,中長期的な会員減少はそれ以外にも多くの原因が考えられる.例えば,インターネットの登場で,「情報の取得」としての学会の意義は減少し,講演や学会発表に参加することで情報を取得するといった方法から,インターネットを検索する回数の方がはるかに多くなった.また,自分の研究や開発の成果についても,発表の方法は多様化した.今回のトライアルサービスは,学会としてこのようなコミュニケーションスタイルの変化に応えるとともに,自ら最先端ICTを活用していくことにより,ICTに携わる多くの方々が集う場となるよう学会活動の活用機会を増やすことを狙いとしている.
本サービスでは会誌オンライン版として配布されているPDF形式に加えて,EPUB形式の記事を用意している.次にEPUBについて簡単に解説する.
EPUBは民間のコンソーシアムIDPF(International Digital Publishing Forum)(2)が仕様の策定と普及活動を行っている電子書籍の標準フォーマットの名称である.EPUBフォーマットは,個人用途・商用問わず,誰でも,特定の団体や個人に許諾を得る必要なく,自由に,無料で利用できる.
会誌電子化版で採用しているEPUBは2011年10月に標準になったEPUB3である.EPUB2は欧米で,ソニー,アップル,アマゾンなどが採用しておりデファクト標準になっていた.EPUB3になって,日本語のルビや縦組に対応できるようになったことで,日本でも急速に普及した.ソニー,アップル,アマゾンほか,楽天Kobo,Google Playブックス,hontoなど多数の電子ブックストアがEPUB3を扱える.
EPUB3では,Webページ記述の標準であるHTML5形式で文書の内容を記述する.会誌のEPUBでは図版や表はイメージ画像で,数式はベクトル画像で表している.スパインというファイルにHTMLの閲読順序を規定する.レイアウトはCSSで指定する.こうして作成した全てのファイルをZIPで圧縮して1ファイルとしたものがEPUBである.EPUBはWebページに似ている.相違点はWebページはオンラインで閲読するのに対して,EPUBはダウンロードしてオフラインで読むことである.
EPUBの表示は,ブラウザでWebページを見るのと似ている.テキストはディスプレイ上で任意の大きさのウィンドウ幅で折り返して表示する.これをリフロー表示という.リフロー表示だと,画面の小さなスマホでも読みやすい.また,文字の大きさを自由に変えられるので視力の弱い人でも読みやすい.
EPUBの第2のメリットはWebとの親和性である.世界中の全てのWebページはリンクによってつながっている.会誌電子化版EPUBでは記事のURLにリンクを設定しているので,リンクをたどって外部のWebページをすぐに閲覧できる.会誌の記事を関連情報へのインデックスとしても役立てられる.
本サービスを使うには,スマホやタブレットの上で動作する会誌記事閲読用のプログラム「会誌アプリ」を入手して端末にインストールする必要がある.会誌アプリは,現在,iPhone,iPad用のiOS版とAndroidスマートフォンやタブレット用のAndroid版の2種類を提供している.iOS版はiOS 7.0以降で動作するもので,App Storeから配布している.Android版はAndroid OSバージョン5.0以降が推奨である.Google Playから配布している.両方とも誰でも無料でダウンロードして使える.会誌アプリホームページからリンクしている.
会誌アプリを起動するとトップ画面に会誌リストが図1のように表示される.
会誌リストには各号の表紙のアイコン,「Vol.」と「No.」,小特集のタイトルが最新号から順に並んでいる.毎月1日に,新しい会誌が発行されると,会誌アプリは目次を自動的に取得し,会誌リストの一番上の行に最新号を追加する.会誌リストは2014年1月号(Vol.97,No.1)まで遡ることができる.会誌リストで読みたい号を選択してタップすると各号の目次画面となる.
目次から記事を選んでタップすると記事の概要画面となる.記事の本文を読むにはEPUBまたはPDFをダウンロードする必要がある.会誌アプリはデフォルトでEPUBをダウンロードするが,PDFをダウンロードするように設定を変更できる(4.3.1参照).
フリーの記事の本文は誰でもダウンロードできるが,会員向けの記事をダウンロードするには会員としてログインする必要がある.会員としてログインするにはログイン画面から会員番号とパスワードを入力するので,本会ホームページのマイページでパスワードをあらかじめ取得しておく必要がある.ログイン画面は次のように表示する.
(1) 会誌リスト画面や目次画面の左上アイコンをタップして表示されるメニュー(図2)から「会員としてログイン」を選ぶ.(Android版のみであるが,近くiOS版にも用意する.)
(2) 「会誌アプリ設定」を選んで表示される会誌アプリ設定画面の端末管理操作から「ログイン」ボタンをタップする.(Android版とiOS版共に有効である.)
なお,ログイン状態の保持期間は,本会の会員認証システムによって規制されているため,一定期間を過ぎると,毎回,再ログインが必要である.
記事概要及び記事のページイメージを図3に示す.記事本文のダウンロードは以下の方法がある.
(1) 目次から記事を選んで記事ごとにダウンロード
(2) 1号分の記事を一括ダウンロード
(3) 目次からお気に入りの記事をチェックし,お気に入りの記事をまとめてダウンロード
第1は,目次で関心のある記事の見出しをタップすると(記事の本文が未ダウンロードのとき)概要画面が表示されるので,概要画面の右下の「開く」ボタンをタップする.会員としてログインしていれば,会誌アプリが記事本文をダウンロードして内容を表示する.読み終えた後,ダウンロード済みファイルを端末に保存するには,右下の★マークをタップして「お気に入り」に登録する.図4に「お気に入り」の設定と確認の方法を示す.「お気に入り」に登録しない記事は,表示画面を閉じるか,次の記事に進むときに削除される.なお,会誌アプリ設定画面で記事閲覧時の「お気に入り」操作を「閲覧した場合『お気に入り』にする」に設定しておけば,ダウンロードした記事は常に「お気に入り」に登録される.ただし,こうすると読み終えた記事が全て端末に保存されるので,スマホの保存用メモリの容量に注意する必要がある.
第2は,会誌リストの右側か目次画面の左上のボタンをタップして表示されるメニューで「会誌をダウンロードする」を選択する.これにより1号の全ての記事を「お気に入り」にして一括ダウンロードできる.一括ダウンロードでは通信の時間が掛かり,また,全ての記事が「お気に入り」に登録され,端末に保存されることに注意してほしい.
第3は,目次で気に入った記事を選んで「お気に入り」に登録してから,「お気に入り」画面の左上メニューで「未ダウンロード記事を取得」する方法である.目次で気に入った記事を選べる場合は,この方法が一番効率的である.
記事本文をダウンロードするときのファイル形式はデフォルトではEPUBとなっている(図5).タブレットの場合はPDF,スマホの場合はEPUBといった使い分けもできる.PDFをダウンロードしたいときは,会誌アプリ設定画面で標準利用の記事ファイル形式を「PDF形式」に変更する.
会誌電子化版アプリは全体として既成の機能を使ってローコストで開発しており,EPUBの閲読は端末のOSに内蔵されるブラウザで,PDFは端末OSに内蔵されるPDFリーダで表示している.これを簡易リーダと呼んでいる.
スマホで使えるEPUBまたはPDFリーダアプリケーションは複数種類ある.自分でいつも使っている・好きなリーダで記事を読みたいときは,ダウンロードしたEPUBファイルまたはPDFファイルを会誌電子化版アプリから外部リーダにエクスポートする.簡易リーダの表示画面下のメニューバーのアイコンをタップすると,端末にインストールされているリーダアプリの一覧が表示されるので,アプリを選択してファイルをエクスポートする.
iOSの外部アプリではアップルのiBooksが一番ポピュラーだろう.Android版ではまだ一番と言えるものはないが,EPUBではソニーの電子書籍ReaderやGoogleのPlayブックスなどが多く使われている.PDFであればアドビのPDFリーダもよい.
EPUB簡易リーダで表示画面の下メニューバーのをタップすると図6のように「フォントサイズ変更」ダイヤログが表示され,文字の大きさを変更できる.図表が小さくて読みにくい場合は,iOS版ではピンチアウト操作で,Android版は画面右下に表示されるのマークで図表を拡大して表示できる.
EPUBの記事の中では,①図表の参照元から図表へのリンク,②参考文献,用語,注の参照元から参照先へのリンクを設定している.リンク先へジャンプした後,元に戻るには表示画面下のメニューバーでをタップする.また,元の記事にインターネット上のURLへの参照があるときは外部へのリンクを設定している.リンクをタップすると外部のWebページを表示する.リンク先がPDFのときは,PDFをダウンロードして表示する.会誌アプリ設定画面のブラウザ標準設定で,外部のURLをブラウザで開くか,OS内蔵のブラウザ(簡易表示)で開くかの切換ができる.簡易表示は簡易リーダと一体化しているので操作性は良いが,外部Webページで文字コードの符号化方法が正しく宣言されていないと文字化けするなどの制約がある.ブラウザは文字コード符号化方法を推定して表示している.
「お気に入り」は気に入った記事を登録するマイ本棚機能である.4.2.2で説明したように,気になった記事を「お気に入り」のリストに入れておき,後でまとめてダウンロードできる.また,複数の端末を使っているときは「お気に入り」のリストを複数の端末で共有できる.一つの端末で「お気に入り」に登録あるいは削除した後,別の端末でログインして「お気に入り」画面右上の「同期」ボタンをタップすると,その端末の「お気に入り」リストも更新される.
トップ画面下のバーで「お気に入り」をタップすると「お気に入り」画面となり,現在「お気に入り」に登録されている記事の一覧が表示される.「お気に入り」画面では,記事を分類して登録したり,記事を一括して削除したりできる.「お気に入り」画面左上のメニューで「一括操作」を選び,操作したい記事を選択してから,画面右上の「操作」をタップすると,メニューに「お気に入り」解除(削除),カテゴリー,未ダウンロード記事を取得のメニューが表示されるので,行いたい処理を選択する.カテゴリーで記事をタグ付けして分類表示できる.
トップ画面下のバーでダウンロード済みをタップするとダウンロード済み画面となり,端末にダウンロード済みの記事のリストを表示する.ダウンロード済み画面左上のメニューで「一括操作」を選び,操作したい記事を選択してから,画面右上の「操作」をタップすると,メニューに「お気に入り」解除(削除),カテゴリーのメニューが表示されるので,行いたい処理を選択する.
会員はEPUBの簡易リーダで記事に付けられたコメントを読んだり,コメントを記入することができる.記事を最後まで読むと末尾にコメント用のボタンが付いている.コメントを読むには会員としてログインしている必要がある.コメントを記入するには,コメント機能ログインのボタンで実名を登録してからコメントを記入する.
EPUBによる会誌電子化版は更なる発展の可能性を持っており,引き続きニーズと効果を踏まえて検討していく.例えば関連性の高いコンテンツのお薦め機能,自動分類やキーワード,更に自己学習機能による重要情報の自動入手等,ユーザ機能の充実には,最新の会員の研究成果の適用も考えられる.双方向性においても,単にテキストのみではなく,科学技術のSNSやバーチャルな研究会の実現も可能である.より多くの方に利用して頂き,フィードバックを得ながら運用していきたい.
学会モデルとして,図7に示すプラットホームとアプリケーションによる学会活動の2階層化が考えられる.プラットホームとは学会活動を支える基盤システムである.論文投稿システム,会員認証システム,査読システムや今回のPush型配信システムがある.一方,アプリケーションは,ソサイエティ研究会,コンファレンスといった実際の技術やコミュニティによる学会活動そのものである.人口減の中で多くの学会は会員数の劇的増加は困難な状況にある.また利用技術の多様化により技術分野間のコラボレーションが重要となってきている.今後はプラットホームの連携及び共通化によりコラボレーションを推進することが日本全体としての研究開発力強化の観点で重要であると考える.所属学会によらず,ユーザにとってアプリケーションインタフェースは仮想化されており,発信及びPushされる情報は相互に共有される環境実現が重要であると考える.
EPUBによる会誌のPush型トライアルサービス開始にあたり,その狙いや発展性,サービスの概要や使い方について解説した.
会誌電子化版トライアルはこれまで会員の方々から頂いた御意見に基づき,使いやすくなるよう改善するとともに,新しい機能を追加してきた.今後も御意見が貴重な情報となる.是非御意見・御感想をお寄せ頂きたい.また,会誌電子化検討委員会のメンバーには会誌電子化版アプリの改良点や本サービスについて様々な御意見と示唆を頂いたことに感謝する.
(1) 佐藤健一,“会長就任にあたって――イノベーションの源泉であり続けるために――,”信学誌,vol.99, no.7, pp.630-636, July 2016.
(2) http://idpf.org/
(平成28年10月7日受付)
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