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情報論的学習理論と機械学習(IBISML)研専は2010年に発足した,機械学習・データマイニングの理論と応用に関する専門研究会である.本研専は1998年から19年間にわたり毎年開催された情報論的学習理論ワークショップ(通称IBIS)を母体とし,発展したものである.まずはIBISの歴史を語ろう.
1980年代末から,米国を中心に人工知能の学習機能にフォーカスした学問分野が登場した.国際会議で言えば,COLT,ALT,ML(後のICML)などが主な舞台であった.筆者は当時,COLTを活動の中心としていた.ここは計算論的学習理論を粛々と育てている学会で,機械学習の数学的な限界と可能性を主に計算論的観点から追求していた.今思うと,後の常識となる知識が次々と湧き出るように発見され,数理研究者には夢の舞台であった.
上記のような学会や分野の魅力につかれた筆者は,竹内純一氏(当時NEC,現在九大)と中村勝洋氏(当時NEC)と日本発の独自路線で「学習」に関する学会をオーガナイズできないかと考えた.そして,従来にはない「情報論的」な学習理論の学会を旗揚げしてはどうかと考えた.そこで立ち上げたのが,情報論的学習理論ワークショップである.「情報論的」とは,「学習」をデータからどれだけ情報を引き出せるかという視点で考えることを意味している.当時は,情報理論のMDL原理(記述長最小原理)と学習が緊密に結び付くことが明らかになってきた時期であったので,これで行こうと考えた.
そこで困ったのがネーミングである.知人のPaul Vitanyi(当時CWI)と4時間余り議論して,収束したのがIBIS(Information-Based Induction Sciences)という名前である.IBISは鳥の朱鷺(トキ)を意味する.正に絶滅寸前のニッチな研究者集団を守る活動の場に付けられたような名前である.そんな自虐的なネーミングの下で恐る恐るIBIS第1回を1998年10月に開催した.蓋を開けると100名以上が参集して度肝を抜いた.
そこに登壇したのは,甘利(理研),上田(NTT),樺島(東工大),神嶌(産総研),下平(東工大),鈴木(阪大),竹内(NEC),福水(理研),松島(早大),村田(理研),本村(産総研),山西(NEC)等といった面々だった(敬称略,所属は当時).以来,IBISはAnnual Workshopとして開催される.それは,情報論的にとどまらず,統計,物理,数理,計算科学,応用諸分野を「学習」を通じてつなげる学際的会議に発展することになる.
初回の成功を機に,会を重ねるごとに,IBISは集客力を増やし,国内最大の機械学習コミュニティとして成長した.J. Rissanen, V. Vapnik, D. JC. McCkayらの海外の著名研究者が招待された.一方で,機械学習分野は,経済の冷え込みの中で辛い時期もあったが,何とか持ちこたえ,2010年には本会の第一種研究会に仲間入りさせて頂いた.新制IBISML研専のスタートである.
IBISML研専では,IBISの名を残しながら,ML(Machine Learning)を表に出して,機械学習の研究会であることにアイデンティティを見いだした.筆者は初代委員長を拝命し,年1回のIBISワークショップを残しつつ,定期的な研究発表の機会を設けた.ディープラーニングの発展で,本分野が注目されるに至った現在,絶滅の危機にひんしている集団でスタートしたのが嘘のようである.本研専は,急速に展開する機械学習技術の最先端トレンドをキャッチアップし,啓発していく中で,国際会議発表のための準備会,報告会としての役割が強くなった.そこではIBISのれい明期における,新しい分野の出現に伴う興奮や感動はもう味わえないのかもしれない.しかしながら,IBISML研専は,機械学習の数理的基盤技術を醸成する国内で最も手堅い研究会としてますます発展するものと期待している.
(平成29年4月25日受付 平成29年5月30日最終受付)
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