記念特集 2-2-22 人工知能ブームを超えて

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Vol.100 No.10 (2017/10) 目次へ

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鹿島久嗣 京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻

Hisashi KASHIMA, Nonmember (Graduate School of Informatics, Kyoto University, Kyoto-shi, 606-8317 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.100 No.10 p.1087 2017年10月

©電子情報通信学会2017

 目下,第三次人工知能ブームである.人工知能にまつわるニュースや議論が新聞やニュースをにぎわせ,各所で「人工知能で何とかなりませんかねぇ」と,まるで魔法のように人工知能という言葉が使われていることだろう.今回の人工知能ブームの立役者は機械学習,特に深層学習と呼ばれるものであり,その研究開発のスピードは年々加速している.幾つかの計算機科学分野の研究がそうであるように,機械学習の主戦場も論文誌よりも速報性が高い国際会議であるが,年に数回の国際会議でもスピードが追い付かず,重要な研究成果が直ちに論文アーカイブ等を通じて公開され,正式な論文が国際会議や論文紙上で出版・発表されるころには,既に後続研究論文から引用されていることもしばしばという,やや異常な事態も起こっている.産業界からの注目も熱く,ビッグプレーヤが競って研究開発に力を注いでいる.

 さて,IBISML研専では,人工知能の基盤となる,機械学習,統計学,情報理論などに基づく理論的な研究とともに,医学,生物学,脳科学,化学,材料科学などのサイエンス分野や,経済・社会・ビジネス現場への応用的な研究についても,国内における中心的な発表・議論の場として,機械学習関連分野の発展に貢献してきた.以前は機械学習関連分野の研究者が中心であった参加者の顔ぶれも,他分野の研究者や企業の技術者らが加わりコミュニティが大きく拡大している.年に一度,IBISML研専が共同開催している情報論的学習理論ワークショップでも,参加者数は増加の一途をたどり,ここ数年は会場のキャパシティが追い付かず,参加をお断りせざるを得ないような状況が続き,この分野の盛況ぶりを感じている.

 ここ数年で国内でも情報通信研究機構,産業技術総合研究所,理化学研究所などで人工知能の大きな研究拠点が立ち上がっている.特に,理化学研究所革新知能統合研究センター長に就任した杉山将氏は,世界をリードする機械学習研究者の一人である.国際競争力という面において,杉山氏をはじめとする国内の機械学習コミュニティは決して弱くはない.ただし,人も含めた物量という要素が多分に重要である深層学習において正面から勝負を挑むには,圧倒的不利と言わざるを得ない.しかし,杉山氏の言葉を借りれば「正攻法を避ける」ことで,まだ我々が国際的プレゼンスを示していくことは可能であろう.

 これまでのところ,深層学習の研究はトライアルアンドエラーで,どういう状況でどうやればうまくいくかという経験的知見を蓄えている状況であり,理論的には分かっていることはまだ少ない.理論研究は個人プレーの要素が大きく,我が国の研究者が重要な役割を果たすことができる.また,深層学習もあくまで機械学習の一分野であり,国際会議等において深層学習が支配的なトピックかというとそういうわけでもない.深層学習が必ずしもうまくいかない領域や日本が国際的に強い領域,これまでに機械学習がまだ適用されていなかった,大量なデータが存在しない領域や,暗黙知や文脈依存性が高く人間との協調が必要な領域において,まだまだチャンスは残されている.

 深層学習は間違いなく大きな可能性を持った技術であるが,現在のブームはやや過熱気味,いわゆるお祭り状態であり,研究開発も浮き足立っている面もある.IBISML研専は,この大きな波に乗って国内発の機械学習研究が一層の勢いを増していくために力を尽くす一方で,エキスパートとして冷静に現状を捉え,その議論を導いていくのもまた,我々が担っていくべき重要な責務であると考える.

(平成29年5月16日受付)

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鹿()(しま) (ひさ)()

 平11京大・工・数理卒.平13同大学院修士課程了.平19同博士課程了.平13日本アイ・ビー・エム株式会社入社.機械学習,データマイニングの研究に従事.現在,京大大学院情報学研究科教授.


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