小特集 1.【総説】デザインからデザイン思考へ――技術,商業,文化の共進化――

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Vol.100 No.7 (2017/7) 目次へ

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デザインイノベーション――専門や業種を超えた課題解決に向けて――

小特集 1.

【総説】

デザインからデザイン思考へ

――技術,商業,文化の共進化――

From Design to Design Thinking: The Co-evolution of Technology, Commerce, and Culture

Barry M. KATZ(著) 石田 亨(訳)

Barry M. KATZ カリフォルニア芸術大学

石田 亨 正員:フェロー 京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻

Barry M. KATZ, Nonmember (Department of Industrial Design, Department of Interaction, California College of the Arts, California, 94107 U.S.A.), tranlated by Toru ISHIDA, Fellow (Graduate School of Informatics, Kyoto University, Kyoto-shi, 606-8501 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.100 No.7 pp.610-614 2017年7月

©電子情報通信学会2017

abstract

 近年,「デザイン思考」と呼ばれる概念が,ビジネス界,学界,更に政府機関,財団,職能団体の関心を集めている.消費者のための製品開発を行っていなかった業界でさえ,デザイナーが何をし,どのように考えるかに興味を持ち始めている.そこで本稿では,デザイン思考の魅力を調査し,歴史的な経緯と基礎的な考え方について述べるとともに,デザインの専門内外で関連して生じている事項を解説する.

 デザイン思考が広汎に適用されたのは比較的新しく1990年代から広まり始めたが,その起源は更に古い.そこで,まずデザイン思考の起源を明らかにし,次に,工学,企業,金融,教育等の多様な分野におけるデザイン方法論の適用を含め,デザイン思考への関心が急激に上昇した軌跡をたどる.

 デザイン思考を単純な線形プロセスとしてみなすことが一般的になりつつある.初学者に「観察(observe),生成(synthesize),プロトタイプ(prototype)」と説明するウィキペディアのページさえある.しかし,現実は,はるかに多様であるので,デザイン思考は「方法論(methodology)」というより「思想(philosophy)」と捉えた方がよいだろう.

キーワード:デザイン,デザイン思考,イノベーション,デザインスクール

1.は じ め に

 デザインに敏感な企業の目覚ましい成功,つまり,1970年代のHewlett Packard,1980年代のソニー,今日のApple,Google,Amazonの成功が,消費材の開発にデザインが重要な役割を果たすことを示した.かつては単なる支援機能(技術部品の適当な外装)にすぎなかったデザインが,現在は,機能的に同等と思われる製品間での戦略的な差異化要因として認識されている.その結果,デザインの分野も外装から進化し,製品と人間の相互作用の全てを包含するようになった.自動車のダッシュボードのナビゲーションシステムや,企業のITシステムのクラウド管理ソフトウェアにとっても,デザインは,工学的要件を満たした後に体裁を繕う以上のものだという認識が広まっている.故スティーブ・ジョブズの的を射た指摘のように,「デザインとはどう見えるか,どう感じるかではなく,どう働くかだ」.

 しかし,これはほんの始まりにすぎない.ここ数年,これまで顧客志向の製品開発に経験のない組織(金融機関,経営コンサルタント会社,病院,財団法人,そして政府機関でさえも)が,製品を見るだけでなく,そのデザインプロセスで用いられたツール,方法,そして精神習慣(mental habit)に注目しつつある.デザイン方法論が,幅広い分野の実践者により幅広い分野に適用できるという「デザイン思考」のアイデアが世界を席巻し始めている.


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