巻頭言 何をしていいのか分からない混乱の時代こそ学問(技術)をやる

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Vol.101 No.12 (2018/12) 目次へ

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巻頭言

何をしていいのか分からない混乱の時代こそ学問(技術)をやる Encouragement of Learning企画理事 山中直明

 人工知能によりなくなる職業,日本産業の世界競争力の喪失.毎日のように,不安になる言葉が新聞をにぎわしています.シニアな人は,視野の中に将来のゴールが見えますが,若い人は,40年先まで活躍することを考えると,安心できる分野がありません.そのため,「安定した大企業を選べばどうにかしてくれる」とでも思い,就職を決める学生.「きっと会社はどうにもしてくれないよ!」と教えてあげたいのですが,学生は他の手段も思い付かないので,みんなが行くところを選んでいます.

 5Gネットワークを用いて,エッジコンピュータで,他の自動車や信号,混雑状況をM2Mで制御するコネクティッドコミュニティの研究を,日米の共同研究で行っています.先日,文系の先生と学内のシンポジウムでお話をする機会があり,いずれ実現する自動運転に関して議論をしました.「技術の進化と実現の可能性」を担当しましたが,それに対して,社会学者からは「社会としてのメリットと寛容性」「産業の成長と政策」といった観点から意見が出ました.

 簡単に言うと,2点です.一つは,事故の責任であり,それに躊躇する日本の社会.自動運転だから,事故が起きた場合,「設計者,所有者,運転者(これはいないので同乗者)」の責任であるか? ですが,もちろん,バグやエラーでない場合でも回避できない事故はあり,それを技術者の責任とすれば,イノベーションへの躊躇やとんでもないコストアップになります.原発問題のときに「事故は起きない.想定外の事故」という言葉を使わざるを得なかったのと同じかもしれません.一方,社会的なメリットは,事故率は1/100とも1/1,000とも言われ,そもそも事故が少ないのだから,早く実現した方が社会的にメリットは大きい,という考えです.もちろん,所有者,運転者の責任とするにも無理があり,一人100円を出して保険で社会がカバーするという考えにも至ります.(これは法学の先生はモラトリアムを生むと強く否定していた.)もう一つは,産業としての自動車です.今現在95%の車が駐車場にとどまっており,自動運転になると「ボタン一つで車が家の前に来る」,「ドライバー自身が運転しないので面白くない」という理由で保有台数が90%減少するという評価もあります.自動車産業はどうなるのか? 一方で,利用ビジネスとしての自動運転は,極めて大きいのです.宅配便や出前が効率化され,より一層e-コマースへのシフトも予想されます.40年先まで活躍しなくてはいけない学生が,「単に車を作ればいいのではないのですね?」と言いました.そう,技術の進化やトレンドをしっかり理解して,同時にそれが社会にどのようなインパクトを与え,ビジネスチャンスはどこにあるかを自分で理解して考えないと,技術者は,ただ大きくする,速くする,安くするでは,自分自身がじり貧になりかねません.リベラルアーツの大切さです.

 LSIの性能や光ファイバによる通信技術の進展の中に,ハードとしての売上げよりも,GoogleやFacebookといった,それを利用した産業が著しく成功しています.変化の大きい時代,本会を利用して,自分のやっている仕事以外も,勉強する.無線技術は? AIは? 量子コンピュータは? そして,どう変化し,社会に,産業に,インパクトを与えるかを考えることが必要だと思うのです.我が師の福澤諭吉は,社会がどうなるか分からない明治維新の混乱期に最後に自身に残るものは学問であると考え,分からない時代こそ学問をやりなさいと弟子たちに言っています.小生自身も,祖父,父とお世話になった本会に,もう40年近くお世話になってきましたが,職場以外の人材と出会える唯一のチャンスであり,古い言葉ですが,生涯学習をやり続ける絶好の場でもあります.皆さんにも新しいことや別な分野を是非勉強して頂きたいと思います.


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