解説 やさしい日本語による定住外国人への情報提供

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解説

やさしい日本語による定住外国人への情報提供

Information Service to Non-native Japanese Speakers in Simplified Japanese

田中英輝

田中英輝 日本放送協会放送技術研究所

Hideki TANAKA, Nonmember (Science & Technology Research Laboratories, Japan Broadcasting Corporation, Tokyo, 157-8510 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.101 No.2 pp.198-205 2018年2月

©電子情報通信学会2018

abstract

 やさしい日本語を使った定住外国人への情報提供の現状を紹介し,情報を提供する際に検討が必要になる三つの課題,「やさしい日本語の設計」,「伝達手段」,「運用体制とシステム開発」について述べる.続いてNHKのやさしい日本語のニュースサービスサイトNEWSWEB EASYを例にとり,三つの課題への対処法を解説した後,今後の「やさしい日本語の基準」と「自動書換え技術」の開発に期待される自然言語処理技術を説明する.最後に,やさしい日本語の情報提供は日本語の学習,教育との関連が深いこと,やさしい日本語を「ろう者」への日本語教育,知的障害者へのコミュニケーション支援に展開しようとする研究が始まっていることを報告する.

キーワード:やさしい日本語,ニュース,定住外国人,支援システム

1.は じ め に

 国内の外国人に「やさしい日本語」で情報を伝える(注1).近年実践が広がるこの考えは1995年に発生した阪神・淡路大震災に端を発する.当時,被害の大きかった神戸には多数の外国人が暮らし,とりわけニューカマーと呼ばれる来日して日の浅い外国人は,日本語が不自由で,避難所や救援物資の情報をスムーズに得られず,日本人以上に大きな不安を抱える日々を過ごすこととなった.

 外国人の困窮の問題に対して,佐藤らは災害時のコミュニケーションの問題に着目し,外国人にも分かるやさしい日本語(減災のためのやさしい日本語)で情報を伝えることを提唱した(1).背景には災害発生直後の混乱時は日本語での情報伝達もままならず,多言語の使用は一層困難になるという事実,やさしい日本語は日本人であれば少しの訓練で書けるようになり,災害時にも使える可能性が高いだろうという考察がある.佐藤らの提案以後,減災のためのやさしい日本語は継続した研究,実践により東日本大震災などの災害時に外国人支援に使われるようになっている(注2).一方,やさしい日本語は災害時だけでなく,自治体などの公的文書への応用(2),NHKのニュースへの応用などが提案,実践され(3),適用先は多方面に広がりつつある(注3)

 しかし,やさしい日本語で新たに情報発信を始めるのは容易ではない.なぜなら2.で述べるような課題の解決が必要だが,参考にできる前例がほとんどないからである.

 本稿では,やさしい日本語でNHKのニュースをインターネットで伝える筆者らの試み,NEWSWEB EASYを例にとり,三つの課題の解決方針を紹介する.更に今後のやさしい日本語の更なる拡大に期待される自然言語処理技術について述べる.

2.やさしい日本語の検討課題

 やさしい日本語で情報を発信しようとするとき,目的に合わせた「やさしい日本語の設計」,「伝達手段の決定」,「体制とシステム開発」の三つを検討しなくてはならない.以下ではそれぞれについて解説する.

2.1 やさしい日本語の設計

 やさしい日本語で何かを伝えようとする場合,汎用のやさしい日本語といったものはないため,伝える分野や目的に合わせたやさしい日本語を作らなければならない.では,分野や目的に合わせたやさしい日本語とはどのようなものだろうか.一例として減災のためのやさしい日本語を例に説明しよう(4).まず,原文となるニュースを示す(注4)


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