講座 電子デバイス技術者のための量子論入門――不確定性原理を中心に――

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講座

電子デバイス技術者のための量子論入門

――不確定性原理を中心に――

Introduction to the Quantum Theory for Electron Device Engineers, Using the Uncertainty Principles

水野皓司

水野皓司 正員:フェロー

Koji MIZUNO, Fellow.

電子情報通信学会誌 Vol.101 No.6 pp.597-602 2018年6月

©電子情報通信学会2018

1.はじめに,高周波電子デバイス技術者と量子論

 スマートフォンの普及などに見られるように,情報通信技術ICTの発展は近年目覚ましいものがあります.

 Society 5.0という言葉を御存じでしょうか? これは,第5期科学技術基本計画で使われている超スマート社会の実現を表す言葉で,情報社会を基に人間中心の豊かな社会を目指すものと説明されています.ここで,重要な基盤技術の一つは高周波デバイス技術を中心にするものだと思われます.そしてデバイス技術で扱う電磁波の周波数は,年々より高い方向に向かっています.情報量の増加に対応するためです.そのためにミリ波を使う通信も現実の技術として考えられ始めました.ミリ波通信はこの何十年か,次世代の通信こそはと言われ,しかし現実化していなかったものです.

 さて,電磁波は波と粒子の両方の性質を持っている,とはよく言われることです.波としての性質は,私たちデバイスあるいはマイクロ波技術者にとって身近なものです.しかし,粒子の方はどうでしょう.電磁波が粒子とはどういうことでしょう.実はこの場合の粒子とは,電磁波の形が粒状のものであるということではなく,そのエネルギーに素量があるということを表しています.周波数mathの電磁波のエネルギー素量は,mathmathはプランク定数)です.したがってあるモードの電磁波は,素量の整数倍mathのエネルギーを持つ,ということになります(注1).この意味で,電磁波はエネルギー素量を持つ粒子(光子,あるいは光量子)の集まりと考えることができます.私たちデバイス技術者は,これまで電磁波を粒子つまり光子として扱う必要性は,ほとんどありませんでした.ところが,周波数が高くなるに従って,電磁波は光子としての性質をよりはっきりと現わしてきます.それは高い周波数になるほど光子のエネルギーが大きくなるからです.光子のエネルギーが大きくなってくると,量子論というこれまで私たちとは余り関係のない分野での取り扱いが必要となってきます.

 もっとも,量子論,というよりは量子力学はトランジスタをはじめとする多くの半導体デバイスで使われているバンド理論を生んだものです.そして,バンド理論を用いて開発された多くのデバイスは,種々の微細加工技術の進展に伴って,より高い周波数での動作が確保されてきています.

 それで多くの皆さんはきっとこう思われるでしょう.より高い周波数を扱うようになっても,これまでのやり方の延長で十分ではないか,と.ところが,量子効果は意外に身近なところで,今まで私たちが使ってきたのとは違うやり方で効いてくる例があります.本稿でこの後見ていくように,ある種の電子デバイスは,3THz,波長で言うと0.1mm辺りで量子効果が効いてきて動作できなくなります.これはどうしてでしょう.3THzというのは,テラヘルツ波帯の入り口で,ミリ波帯のすぐ近くと言ってもよい周波数です.量子力学を用いた計算(2)の結果は,この場合電子は電磁波というよりは光子と,それも非常に少ない数の光子と相互作用していることを示しています(3),(4)


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