講演 会長就任あいさつ

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Vol.101 No.7 (2018/7) 目次へ

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講演 会長就任にあたって 新しいスタートへのシステムグランドデザイン 安藤 真

安藤 真 名誉員:フェロー 独立行政法人国立高等専門学校機構

Makoto ANDO, Fellow, Honorary Member (National Institute of Technology, Hachioji-shi, 193-0834 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.101 No.7 pp.656-666 2018年7月

©電子情報通信学会2018

1.は じ め に

 電子情報通信学会は100周年を迎えた.

 情報通信技術分野は,指数関数的な発展を遂げ,本会はこれを先頭に立って切り開いてきた.この分野で基礎から装置,システム,ネットワーク,サービスに至る幅広い分野をカバーする歴史ある学会である.Industry4.0,Society5.0など広範なICT技術による大変革が起こりつつある今日,30年前の1987年に時代を予見する形で「電子情報通信学会」と改名した本会の役割は広がる一方である.今日の急速な科学技術の発展は,無限と思われた資源の有限性をあらわにし,悠久とも思われた地球環境に無視できぬ影響を及ぼすレベルに到達した感がある.この状況において,国連が人類の幸福や環境の維持までを考慮に入れた調和ある開発の目標として2030年に向け17の目標「持続可能な開発のためのアジェンダ2030(Sustainable development Goals-SDGs)」を定めた(1).2017年は世界的にこの目標への関心が急速に高まった年と言える.これらはいずれも,科学技術はもちろん,政治や社会,経済など人間の営みも合わせ達成すべき複雑な目標であり,人類が国や文化の違いを超え,また科学技術も分野を超えて協力しなければ解決しない課題ばかりである.学術界でも国際科学会議(ICSU)と国際社会科学協議会(ISSC)の歴史的な統合が7月に予定されている.

 日本国内でも,立ち上がりは遅れたものの,経団連がSDGsを前提に企業行動指針を改定し,内閣府も地方創生の文脈で自治体にSDGs推進を支援する概算要求を行うなど,国レベルでの関心の高まりは驚くべきものがある.

 日本における研究環境を考えると,財政赤字,学術研究の停滞が叫ばれ,政府の第5期科学技術基本計画では,「世界で最もイノベーションに適した国」となることが宣言され,研究者や学会の責任や,政治と産業界との関わり方にも変化が生じている.科学技術の競争的資金の評価指標としても,自然科学と社会科学の協調と融合領域研究の必要性,研究成果の社会貢献の評価や環境への影響の予測などが,SDGsに呼応する持続可能性の証左として明示されるようになっている.社会実装を前提として,個人の研究アプローチばかりでなく,政治や産業界など様々なステークホルダーの出会いの場としての学協会の姿勢にも,影響の大きな要求が出現している.近年は,研究不正の防止と研究倫理の重要性,公共財としての研究成果とその推進方策としてのオープンアクセス,オープンデータ議論など,研究者個人の姿勢と学会の果たすべき役割がうたわれている.

 SDGsの多くの目標がICT技術を前提としていることは本会発展の好機であると言えるが,皮肉にも,インターネットの普及やオープンサイエンスの広がりは,一般的な立場での参加を容易にしており,従来の専門家集団としての学会から離れる動きも進み,会費収入減の観点で財務の改善が急務となってきた.学会にとって変革とも言うべき時期に会長に就任することとなり,重責に身の引き締まる思いである.100周年を迎えその誇るべき実績を踏まえつつ,2018年は,時代の変化に対応した学会の持続可能な体制,システムの構築にまい進してゆきたい.

 電子情報通信学会の強みは,そのカバー領域の広さ(基礎理論からハード・ソフト,ネットワークシステムまで)であるが,SDGsを実現するにはまだ狭く,また分野間の交流が不足している.まさに本会がその地力を発揮するためにも,inter-trans-disciplinaryな領域の開拓と異分野協働を実現し,学会の社会貢献の指標として「イノベーション創出に最も適した学会」としなければならない(2).本会は,研究活動の活性化を目的にソサイエティの独立,独立採算化を推進してから10年以上たち,独立の弊害も散見している.融合的,学際的な研究領域の創生や,オープンアクセスに代表される学会サービスの変貌,学会運営の効率化と財務の健全化などの観点で,電子情報通信学会としての独立性と一体性の在り方を再検討し,最適化を始める年としたい.

 創立100周年の記念事業として,サービスの充実,財政面,運営体制の強化を目指し自身の足腰であるICT基盤システム構築のためグランドデザインを開始している.2018年は千載一遇とも言うべきチャンスであり,このシステムを活用し,指摘されながらも長年議論にとどまっていた学会全体の変革を実行する.学会の課題を改めて共有し,優先して取り組むべき幾つかの課題について,構想と方向性をまとめてみる.

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2.科学技術を取り巻く世界の動向

2.1 SDGsをめぐる世界の動き

 開発途上国を対象とした社会経済,開発の援助であるミレニアム開発目標MDGsに続き,2015年に人類の幸福well beingへ向けて,2030年までの行動計画として,図1に示す17の目標,169のターゲットから成る指標「持続可能な開発のためのアジェンダ2030(SDGs)」が,全ての国とステークホルダーを対象として定められた(3)

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 これらの目標は,環境,経済,社会のくくりで,経済学,技術革新(医学,薬学,環境学),政治学,社会学とこれらを融合(Trans-Inter-disciplinary)したものとなっている(4).立場も利害も異なる多くの関係者(Multi Stakeholder)の参画を促すため,法的拘束はなく進捗状況をモニタリングし,支援機関を結び付けるオンラインプラットホームを構築する形で推進するものとなっている(5).逆に眺めると,人類の活動が地球システムを操作できる時代,影響を与えるまでに拡大した時代を印象付けるものである(3)

 また国,政治家,企業家,文化人から若い学生に至る様々な関係者(Multi Stake Holder)が集い未来を語る中で世界の経済潮流を決める,世界経済フォーラム(World Econic Forum)でも,SDGsは議論の中心となっている.ICSUやWEFの会議でも,オープンサイエンス,ビッグデータ科学の前提であるCODATA,Future Earth,Resilienceなどが現在の中心題材であり,組織的研究,コンソーシアムを動かす活動が必須となっている.SDGsは立案段階から実施段階,更に段取りのロードマップ作成へ移行するが,有限の資金,人的組織的資源を前に,目標間の相乗効果,利益相反(トレードオフ)があらわになり,科学技術による正確な評価が必要とされている(6).SDGsの難問の具体的な解決には,もちろん科学技術の破壊的なブレークスルーが必要であることを,主催者も強く意識し,サマーダボス会議を中国大連に定め開催するなど,アジア特に日本の大学,企業にも議論と具体的な取組みへの参加を強く求めている.

 今や,学術活動,政治,企業活動も,社会に賛同を得るにはこのゴールを表題に掲げなければいけない時代へ変わった.挑戦的な表現ではあるが,学問が社会貢献するのなら,SDGsのターゲット達成のために何ができるか? が第一歩(3).「ハイテクとは先端技術だけではなく,SDGsへの貢献で技術を評価すべき」(6)との論調もあり,大企業は今や深い洞察なしには投資家の支援を得られない.研究者も産学連携による外部研究資金獲得にはこれらの観点を踏まえたシナリオ作りが求められる.

2.2 学会を取り巻く日本の状況と100周年宣言

 SDGsの広範な課題の中には,例えばエネルギー,災害問題,高齢化少子化,過疎過密など,正に日本自身の直面するものが多い.一方SDGsの国際舞台では,日本の姿が見えないということから(5),JSTでは,日本の取組みのベストプラクティス,ステークホルダーを急ぎまとめ,2017年秋の国連でのSTIフォーラム(4)で紹介している.図2は,その出版物と,ステークホルダーとしての多彩なメンバーを示す(5),(7)

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 また,内閣府は,自治体SDGs推進のための概算要求を行っており,支部活動の参考になるかもしれない(3).日本学術会議第三部では,2011年になるが「理学工学分野における科学・夢ロードマップ」を以下に著わしている.

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-h132-00.pdf

 一方,政府が定めた第5期科学技術基本計画では,ICTの進化により大変革時代が到来するとし,Society5.0を示した.図3に示すように,社会の営みの多くを,これまでの情報社会で課題であった,サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)の連携システムとしてモデル化し,両空間をセンサ情報,人工知能(AI)とビッグデータ処理でつなぐ取組みにより,社会的問題を解決し,経済発展を実現するとしている(8)

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 情報通信技術をけん引し産業へ貢献する本会では,これに先立ち2011年にロードマップ委員会を設け,2030年/2050年に向けてのソサイエティ,グループの到達目標を基に,ロードマップ作成を行った.図4は,2013年に発表した未来像であるが,いつでもどこでも,必要な誰とでも何とでもつながる「コミュニケーション基盤」を構築し,これにより,環境を守り,災害に備え,ITセキュリティを高めた「持続可能な社会」を実現し,「少子高齢化社会」に備え,あらゆる人に健康と自立,豊かな人生を提供し,情報処理技術を核として新たな働き方や人間の気付きを促進する「知識社会」へと導くと予想した.「コミュニケーション基盤」のための人とのインタフェース,「持続可能な社会」のために環境保全,建物・交通・物流におけるエネルギー管理,防災減災のためのセンサやモニタリング,「少子高齢化社会」における人の生活支援ロボット,移動支援,ヘルスケアなどを主たるサービスとして具体的なICT技術課題を列挙している.これらは,その後広がりを見せたSDGsの目標にも整合した未来像となっている.

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2.3 創立100周年宣言

 2017年に出された本会の創立100周年宣言では,これらの社会情勢,電子情報通信学会の歴史を俯瞰し,以下の柱を掲げている.

・新たな学術領域

・課題解決とビジョン作成

・技術倫理の向上と社会への発信

 記念事業の一つの柱として,電子・情報・通信の学問分野,産業領域における偉業を242件選定し顕彰した.基礎・境界44件,通信98件,エレクトロニクス52件,情報・システム48件と,重要な分野を包含する形でまとめられたが,ものつくりを通して国の発展に貢献した輝かしい歴史がまとめられている.同様な趣旨で電気・電子分野の世界の偉業を選定している米国IEEEも歴史の評価を加味した産業貢献の偉業としてマイルストーン選定を行っているが,これまでに188件の認定の中で33件が日本における電気・電子の業績から選ばれている.創立100年宣言は,このような100年の実績を自信に,勇気を持って次の100年を目指し,学会のあるべき姿へ変身してゆくことを宣言したものであり,持続的発展は過去を守るのではなく,むしろ変わる世界観,価値観に向かって常に変革を求める思いが込められている.SDGsやSociety5.0と同様,人文科学,社会科学までも含めた幅広い知と融合を図り,政治や産業発展,学際領域と人材の育成を図ること,人類の福祉と環境の持続の目標から求められる短期的,長期的課題に科学技術を駆使し解決に貢献すること,社会と人類の幸福(well being)を科学技術の探求における目標と据え,技術倫理を高め,研究成果と併せてその意義を発信する.この責務を果たすために学会はその存続を懸けた改革に臨むこととなる.

3.電子情報通信学会の課題と持続可能なシステムへの変革の方向性

3.1 財務の分析とシステムグランドデザイン

 本会は現在移行法人としての一般社団法人であり,公益目的支出計画として会誌出版・選奨事業への支出(毎年1.3億)をほぼ予定どおり実行中であり,公益目的財産額は2012年の20.9億から2018年度末で12.58億まで減り,2027年度にはほぼ全てが,制約のない財産に置き換わる予定である.単純な計算では,正味財産を維持した形で事業を継続し推移できれば,年間の事業規模の1.5倍程度の資産を留保した健全な形で,完全な一般社団法人としての運営に移行できる.表1には法人移行前後の学会の財務状況を示すが,近年特に会員数減などに加え,I-Scoverの繰上げ減価償却の影響などで,正味財産は,一般社団法人化時に比べ2億円ほど目減りしている.財務に限らず,少子高齢化やオープンサイエンスの流れ,皮肉にもインターネットの普及による情報入手手段の変化など,会員の学会離れを加速する要因は急速に増えており,学会運営の改革は待ったなしの状況となっている.Society5.0を標ぼうする日本の隆盛を担う学会として,コスト削減と財産の維持には務めるものの,社会貢献をより強化することが主目的であり,その結果として持続可能に十分な収益を得ることが肝要である.この目的を達成するため,2017年の創立100周年記念事業の重要な果実としての募金を含む創立100周年記念事業積立資産から1億円を充てて,学会の基礎体力をつけるためのグランドデザインを行うこととなった.この貴重な資産を生かし,学会が機能を倍増し見える形で社会貢献を果たすために,提供するサービスを中心に,学会のグランドデザインを進めることとした.図5にはサービス委員会を中心として描いた学会の各種活動やこれを所掌する組織の連携を表し,創立100周年を契機に学会のシステム化に所掌を特化し時限で立ち上げたグランドデザイン検討WGの位置付けも示した.図6には,本WGのミッションとして,コンテンツの活用,会員増強に加え,大会や国際会議,研究専門委員会における研究活動と,これを支える事務局業務を総合的に支援するための,システム改革をデザインしている.

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 これまでも学会では経常的な赤字削減のため様々な改革案やアイデアが提案されてきた.技術研究報告のアーカイブ化やオープンアクセス,大会における企画など,施策ごとに研究専門委員会単位,ソサイエティ単位での短期的な試行も進められている.しかし制約の多い現状のシステムでは検証すら容易ではなく,また組織ごとの独立性が時には障害となり,それぞれの経験や実績をベストプラクティスとして共有することは十分にできていなかった.

 本来,会員数の減少対策やコンテンツ活用や大会運営,その財務影響の評価などは密接に関係があり,いずれも学会全体としても扱うべき中核的で長期的な課題である.また改変による効果や財務への影響の検証にも複数年を要するものが多い.長期的視点で改革を主導すべき理事会も,定常的な運営の責務を持ちながら毎年交代するため,学会全体での統一性のある改革は進まなかった.

 2018年を,100周年を機に巡ってきた好機と捉え,学会としての統一的なサービスポリシーを確立した上で,ソサイエティなどが独立に先行して試行を進めてきた取組みの成果をベストプラクティスとして統合し,学会の新しいシステムを完成させたい.

 一般社団法人化以降の財務の変遷を総括すると,おおむね公益目的支出計画どおり推移している中で,I-Scoverの繰上げ減価償却の影響などで,正味財産は,法人化時に比べ2億円ほど目減りしたこと,創立100周年記念事業積立資産から約1億円を充てて学会の基礎体力をつけるためのグランドデザインを行うこととなったことの2イベントは,正味財産の捉え方の変更のみでなく,学会の方向性の意味で大きな決断であった.コンテンツ活用,会員増強,国際化,研究会/大会/国際会議,支部活性化,業務効率化/本部体制など,互いに密接な因果関係で結ばれた要因を,持続可能性の観点から常に最適化する必要があるが,グランドデザインはいろいろなアイデアを実施する基盤としても活用して行きたい.一例として私見を述べると,学際領域の拡充や研究の組織化の要請を考えると,学会横断的な情報検索機能を先取りしたI-Scoverは,強化されたシステムの上で,財務も含めたサービス体制,ビジネスモデルとコンテンツのオープン化の体制がそろった段階でより強化された形で再具備されることも期待される.

 新しいシステムは2018年度に稼動開始を予定しており,これまで,議論と試行にとどまっていたアイデアや施策を,まさに実行開始する年としたい.オープンアクセス化に伴う投稿料,購読料の価格設定など,エビデンスを伴った議論が残される部分はあるが,財務への影響を見つつ将来の修正も視野に入れた,柔軟なスタートを方針としたい.

3.2 会員数の減少と施策の方向性

 学会の会員数の減少が叫ばれて久しい.図7は,本会の個人会員数の推移を示す.ピーク時に比べ2割ほど低下し,2.8万人となっている一方,内数としての海外会員数は,おおむね増加しており,全体の1割で3,000人を超える数となっている.前会長が指摘されたように,年平均で700人程度の減少の主因は企業会員が離れていることであるが,社会の情報の多くがインターネット経由で取得でき,オープンアクセス化,機関リポジトリーの普及に伴い論文情報までも読める時代となり,学会の会員であるメリットが見えなくなっていること,産業界で求められる情報が専門知識より一般的で解説的なものが増えていることなど,学会の存在意義,ポリシーそのものにも関わる要因でもあり,企業人から見た魅力の向上策として多くの仮説を立て試行を計画している.

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 一方,新たな視点として,海外及び若手の会員の増強の観点で述べてみたい.図8は,海外会員の推移とその中の学生員の推移を示したものである.また,会員増強に重要な入会者情報として図9に示すように,本会に学生員として入会する数は修士課程に相当する年代22~25歳に集中し,年に2,500人ほどである一方,正員としての入会は,26~28歳をピークとするも55歳程度まで幅広い年代にわたって,1,000名に満たない.しかも多くは学生員からの継続加入と思われる.一方,ネガティブな数字として,未納による資格喪失者と退会者の和を見ると本会は年4,000名ほどが会員資格を失っている.修士課程卒業時を中心として3年程度の世代に集中して,2,500名ほどが退会している.その後退会する会員は各世代にわたり合わせて1,000名ほどにはなるが,この学生員に焦点を当て,会員継続の魅力となる施策を考えてみたい.

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 23歳前後という学生員の比率に着目してみる.海外会員の1/3の1,000名は学生である.東京を除く支部における学生員の割合も約1/3と高く3,000名に上る.したがって,この世代への施策は,海外を含めた支部に向けた会員増強策の色合いが強く,この年代の入会者及び,900名弱の退会者に向けた施策となる.つまり,2,500名ほどの入会学生員の増強を図る,及び数年で退会する900名ほどの会員の継続を図ること,世代と地域(支部)を絞った施策である.現在,学生員は正員へ移行後2年間の会費半額割引が,更にアジア・アフリカ・中南米会員には海外会員優遇制度(OMD)があるが,これらの活用も含め,提供できるサービスの充実とともに,会員継続を促す方策をとりたい.将来を担う若手,海外会員の増進が,また多くの学生員を擁する地方支部の取組みは,国際化,会員の高齢化対策の観点でも意味があると既に述べた.

3.3 研究会,大会,国際会議活動

 本会の研究活動の三本柱は,研究会,大会,論文誌と考えている.いわゆる第一種研究会は,世界には類を見ない本会の特長でもあり,構想段階の研究発表や大学院学生の教育の場としても,極めて重要な場を提供してきた.研究専門委員会の数と延べ参加者数,収入の目安としての予約購読数の推移を図10に示す.

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 発表件数は共催の重複を含めると約1万件を維持している.一方,会員数の減少にもかかわらず,研究専門委員会の数が85となるなど分野の細分化が進んでいる,複数の研究会の共催はあるものの内容の専門化が進み,「他の発表を聴講するより講演する場」として活用されている様子がうかがえる.技報の予約購読は貴重な収入源ではあるが,コンテンツ活用の観点での位置付けも変化しており,そのまま活動の衰退を表しているとは考えていない.

 次に,総合大会を例に,参加者数と講演件数の推移を図11に示す.ソサイエティ大会,FITなどの数字も含め5年ほどの推移を見ると,参加者数より講演件数の減が目立つこと,大会参加者からは,「パラレルセッションが多く,興味があってもプログラム上聴講できないものが多い」という意見をよく聞く.企画セッションやチュートリアルセッション,パネルセッションなど,時代の流れを反映した,研究専門委員会やソサイエティをまたがる横断的,学際的分野を扱う「企画セッション」は50程度にも増えてきているものの,各研究専門委員会ごとに構える300もの「会場別セッション」と並列でのプログラム編成は過密を極める.大会参加者数の減少,小分けの部屋に分割されたパラレルセッションで少数の専門家が議論する状況は,研究専門委員会と差異が少なく,分野融合や異分野との情報共有という大会ならではの特徴が消される.例えばHCGなどは技術分野よりも適用分野のくくりであり,課題解決や異分野との交流の意味で大会の意味は大きく,またその存在は大会の他の参加者にとっても大きな魅力となるはずである.もちろん,大会には,学問の深化,学生の発表の場としての役割もあるので,一律の議論は危険ではある.また,直近では特に学生の参加者数講演者数の減が深刻ではあり,若手育成の点では注意深く見る必要がある.

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 これらの動向を分析し,今後の活性化について私見を述べる.学会の伝統的な使命である学問の深化と,最近のSDGsやSociety5.0に見られる融合・学際領域の分野の重要性,課題解決型研究の広まりを勘案すると,研究会と大会の特徴分けも一考に値する.研究専門委員会ごとの専門分野の深化を主とする研究会と,より広い分野の交流や融合の場としての大会という差別化は可能だろうか? 主に研究専門委員会の判断によるとは思われるが,広範な技術分野をカバーする電子情報通信学会の特長を生かすには,学会レベル,ソサイエティレベルでの議論も欲しい.なお,大会は広い分野の人が集まるので,人材流動,就職,ベンチャー創出のための情報交換の場として,格好の場であろう.

 研究専門委員会などが主催する第二種研究会は,本部からの支援がない代わり,参加費徴収も含め財務や企画も柔軟に行える集会として,定期的な開催の第一種研究会とは明確な差別化がされていた.しかし近年は第一種研究会も参加費徴収や技報アーカイブシステムの導入など形も変わり,両者の定義の差は小さくなってきている.更に,研究活動の国際化を狙い,研究会の海外開催や国際会議化も増えてきている.開催までの承認手続きや財務の条件を精査し,第一種研究会,第二種研究会や国際会議などの定義と取扱いの整理も今一度議論する必要がある.研究活性化,運営側/発表者/聴講者それぞれの面での利便向上の議論が重要である.

3.4 論文活動

 学会の看板とも言うべき出版事業の中核が論文出版である.アクティブ会員にとっては,論文の評価,具体的には引用数や雑誌のインパクトファクター,出版の迅速さ,投稿料などが,魅力を決める重要な因子となる.国際的な比較にさらされる英文論文誌4誌の掲載件数の推移を図12に示す.年間約1,200編の英文論文を掲載しているが,採択率は約50%である.日本の学会として,和文論文も重要な成果であるが,掲載数は年に400編,採択率は57%となっている.注目すべきは,和文論文のダウンロード数であり,英文のそれを総数で上回る.過去の歴史,コンテンツの量に違いがあるものの,単純な比率では3倍の頻度で読まれていることになる.その他の英文誌(ELEX,ComEX,NOLTA)は,無料公開を行っているが,掲載件数は,和文誌とほぼ同じ年に400編である.

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 インターネットに掲載される情報は,数において爆発し,オープンアクセスの深化により,論文を読む形態,費用も様々になるが,その中で内容の信憑性を担保する意味で,学会の論文誌採択は,特別の意味がある.日本の査読者の質は,査読の正確さ,迅速さで,世界的にも有名であり,電子情報通信学会の誇るべき強みでもある.これは,国際会議開催の際の査読にも当てはまる特長であり,世界の学会,国際会議から注目される強みである.本会の査読委員を務めることが,研究者の評価を上げることにつながればすばらしいと思う.

 論文出版は学会の国際評価を決める重要な指標,看板である.学会の運営を国際化する狙いでは,「国際会議―特集号発行―外国人エディター,査読者の活躍」というモデルが,既に複数例存在する.定例での会議開催の場合には,この形で学会活動の国際化が見える化され,国際会議ばかりか,学会や論文誌の国際的評価,アーカイブスによるコンテンツ活用にもつながる.ベストプラクティスとして学会内に広げる価値がある.一例として,日本発の国際会議ISAPを米国APS,欧州EUCAPと並ぶアジアの回遊会議に育て,多くの特集号に海外から編集長,査読者を招き,本会の国際会議プロシーディングスアーカイブにコンテンツを公開している,アンテナ・伝播研究専門委員会の記事を図13に示す.

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3.5 オープンアクセスとコンテンツの活用

 本会の学術成果であるコンテンツの公開状況を表2に示す.20万件を超す成果が蓄積されているが,その公開状況は様々で,会員や外部のユーザに十分に活用されているとは言えない.学術界でのオープンサイエンスへの国際的潮流はますます勢いを増している.背景には,SDGsにも示される人類の共通課題は複雑で複合的な問題であることから,従来の単独での研究開発(自前主義)では知恵,資金,人材に限界があること,異なる組織,国,分野,立場の人間が協働しなければ解決のシナリオすら書けないこと,研究活動における無駄な重複の削減,世代を超えた継承が可能になる期待などがある.この動きは,持続可能な開発のためのアジェンダへの取組みとともに,学術界,企業などにも受け入れられてきた.学術成果については,オープンアクセス,つまり,研究成果が全ての人にアクセス可能となるよう互いに公開することで,人類共通の財産として共有,活用することが,研究者,組織,そして学協会へ要請されるようになっている.オープンアクセス化は,異分野の協働も促進され,公平性や研究倫理の点でも,正しい研究,進歩へつながる.コンテンツは,従来,多くの学会にとって会費収入と連動した収入源であったことから,学会にとって機関リポジトリーの許可と併せて,大きな検討課題となっている.電子情報通信学会においても,論文誌オープンアクセス化検討タスクフォースにおいて,投稿者及び読者の利益及び学会への財務的影響の観点から議論が行われている.これまで述べた社会の要請に応える方向で統一性のあるオープンアクセス導入を実施すべきとの基本合意の下,現状既にソサイエティごとで行われている,オープン化への取組みサービスあるいは試行の趣旨と目的を損なわぬよう柔軟な設定を模索している.

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 論文誌オープンアクセス化検討タスクフォースの議論の方向性は,論文誌に関しては,ハイブリッド方式(オープンかクローズドかは著者が選択),オープンの場合,追加OA化料金(1年後に再議論の余地)を課するが,できればこれも学会で統一のものとする.招待論文の費用扱いは各ソサイエティに一任することとしている.

 なお,著作権を本会が保持した形でより広いサーキュレーションを得ることはこれまでも議論されたが残された課題であり,使用権としてIEEE Xploreへの掲載を学会として交渉することも課題と考えている.関連する話題として,国際会議のプロシーディングスアーカイブについての議論も詰めを迎えている.IEEE Xplore掲載が,参加者を集める要件となっている場合も多い.著作権を保有しながら,IEEE Xploreへ掲載の可能性も探る.これとは逆に,著作権を保有せずに,IEICEが共催した会議のプロシーディングスをアーカイブするケースもあり,本会のプレゼンス向上,会議活動促進,財務負担の観点からの多角的な議論が必要である.

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3.6 政府・省庁・自治体との対話,情報の発信と収集

 学会の本来果たすべき役割である社会貢献には,社会課題の解決に科学技術で貢献すること,更に進んで学会の科学技術的知見から,解くべき課題や政策を提案することがある.前者は正にSDGsを背景とした企業の課題や国の研究開発予算に応え,学会の総合力を結集しプロジェクトやチームで研究開発を推進することであろう.一方,研究を推進すべき分野や課題を提案する活動としては,学会をベースに例えば科研費の新学術領域研究を推進することや,省庁や自治体,場合によっては政治家に対し施策や政策の提案を行うことであろう.現在電子情報通信学会は理事会を中心に,主に前者の目的で,IoT技術を主に所管する総務省と情報交換などを行っているが,今後は後者の目的で電子情報通信学会としての専門知識に基づく,関係省庁への政策の提言などにも,力を入れてゆく必要がある.これらの情報は研究者や若手,支部の会員にとっても有用なものであると思われ,大会などに場を設けることも考えたい.

文     献

(1) “Global sustainable development report (GSDR 2015),” The Economic and Social Council, United Nations, 2015.

(2) 篠原弘道,“会長就任にあたって―これから100年の成長のために―,”信学誌,vol.100, no.7, pp.583-589, July 2017.

(3) 蟹江憲史,“SDGs (持続可能な開発目標)の特徴と意義,”学術の動向,vol.23, no.1, p.8, Jan. 2018.

(4) 大竹 暁,“特集の趣旨,”学術の動向,vol.23, no.1, p.7, Jan. 2018.

(5) 倉持隆雄,今林文枝,“SDGsと日本のベストプラックティス,”学術の動向,vol.23, no.1, p.87, Jan. 2018.

(6) 沖 大幹,“SDGsと学術,科学技術,”学術の動向,vol.23, no.1, p.16, Jan. 2018.

(7) Book of Japan’s Practices for SDGs 2015, 2017JSTプラットフォーム型情報収集と発信,
http://www.jst.go.jp/EN/about/sdgs/doc/book_of_practices_for_SDGs_201709.pdf

(8) 内閣府,科学技術基本計画,
http://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html, https://orange-operation.jp/posrejihikaku/business-app/13317.html


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