小特集 8. 眼球運動と頭部運動を活用した高臨場感映像の評価

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高臨場感映像・音響が創り出す新たなユーザ体験の評価技術

小特集 8.

眼球運動と頭部運動を活用した高臨場感映像の評価

Evaluation of the High Definition Image by Eye Movement and Head Movement

山田光穗

山田光穗 正員:シニア会員 東海大学情報通信学部情報メディア学科

Mitsuho YAMADA, Senior Member (School of Information and Telecommunication Engineering, Tokai University, Tokyo, 108-8619 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.101 No.8 pp.818-824 2018年8月

©電子情報通信学会2018

abstract

 高臨場感映像は人の目を通して脳に届き処理される.網膜で最も視力の高い場所である中心窩に,広視野から見たい情報を結像させるために眼球運動は重要な役割を持っている.まず眼球運動の性質と広視野からの情報受容に欠かせない頭部運動の性質について述べる.次にハイビジョンに至るまでにこれまで行われた眼球運動に関わる研究成果について紹介する.更に4K・8K超高精細映像を近距離から広画角で視聴する際に生じる頭部運動について,視聴位置と視聴距離を変化させて行った最近の実験結果を紹介する.

キーワード:眼球運動,頭部運動,視聴位置,視聴距離,近距離視聴

1.は じ め に

 日本におけるテレビの本放送は1953年2月に開始された.1960年には走査線525本インタレース方式を用いた「NTSC方式」によるカラーテレビ放送の本放送がスタートし,1964年の東京オリンピック,1970年の大阪万国博覧会を契機としてカラーテレビの普及が進んだ.ハイビジョン(高精細テレビ)の研究はNHK技術研究所にて1964年から始まっている.1965年には新たにNHK放送科学基礎研究所が発足した.NTSC方式によるカラーテレビ放送開始時には,十分には検討されていなかった人間の視覚の基本特性について詳細に調べ新たな放送技術に役立てようというのが設立の目的の一つであった.その中から渡部らによる眼球運動を用いて行われた革新的な研究を紹介する.更にハイビジョンとNTSC方式視聴時の眼球運動の比較について述べる.これらの研究結果を踏まえ,4K・8Kの超高精細テレビを近距離広視野で視聴する際に生じる視線の動き,すなわち頭部運動と眼球運動について新たな研究を紹介する.

2.眼球運動と頭部運動

 画像評価に特に関係する眼球運動と頭部運動について説明する.まず眼球運動の代表的な3成分である固視微動(Miniature Eye Movement, Physiological Nystagmus),追従眼球運動(Smooth Pursuit Movement),サッカード(跳躍運動,Saccade)について説明し(1),その後,両眼間の眼球運動,及び眼球運動と頭部運動の関係について説明する.

2.1 眼球運動成分:固視微動

 興味のあるものを注視するとき,眼球は一点に静止しているように見える.しかし,実際には絶えず小さく動き厳密には静止していない.眼球は眼窩内で6本の眼筋で支えられており,眼窩自体も頭部で支えられている.姿勢の揺れなどに対し,注視維持のために眼筋の制御が行われているが,完全に静止させることは困難である.この動きは固視微動と呼ばれ不随意運動である.振幅角が15秒程度で30~100Hzの周波数成分の不規則運動(Tremor)と,振幅角20分程度,30ms~5s間隔で不規則に生じるステップ状あるいはパルス状の運動(Micro-Saccade),ドリフト(Drift)と呼ばれる偏位角5分以下の遅い運動がある.固視微動は注視点の維持という本来の意味に加え,注意の指標としても注目されている(2).固視微動を補償し網膜への提示画像を静止させると,視力向上とは逆に網膜像が消失していくことが知られている(3).静止網膜像と言われ,網膜に入る画像情報を固視微動が常にリフレッシュしていることを示唆している.


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