特別小特集 2-1 第四次産業革命下における我が国の知的財産戦略――データとAI利活用社会に関する施策を中心に――

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特別小特集 2-1 第四次産業革命下における我が国の知的財産戦略

渡部俊也 東京大学政策ビジョン研究センター

Toshiya WATANABE, Nonmember (Policy Alternatives Research Institute, The University of Tokyo, Tokyo, 113-0033 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.1 pp.11-16 2019年1月

©電子情報通信学会2019

1.は じ め に

 いわゆる知的財産という用語は,一般的には特許などに代表される「法律で規定された権利」や「法律上保護される利益に係る権利」を指す.一方,第四次産業革命と呼ばれる大きな産業構造の変化の中で,必ずしも従来の知的財産制度の保護に対象ではない「データ」や「AI(人工知能)による生成物」などが,事業上重要な価値を有するようになった.その結果,新たな知的財産の一種として,データ等の取扱いについて盛んに議論されるようになった.我が国の知的財産戦略の策定をつかさどり,その施策を推進するために設けられた知的財産戦略本部においても,データやAI生成物の保護や,契約による円滑な利活用などが論じられてきた.

 元々知的財産戦略本部は知的財産基本法の規定に基づき,知的財産の創造,保護及び活用に関する施策を集中的かつ計画的に推進するため,2003年5月に内閣に設置された機関である.本部長は内閣総理大臣が務めている.設置当時の施策は「知的財産の創造,保護及び活用に関する推進計画」としてまとめられている(注1).ここで知的財産の創造,保護,活用と進むプロセスを「知的創造サイクル」と称して,知的財産政策の要と位置付けた.すなわち「知財立国」を実現するための推進力として,産業を活性化する手段として「知的創造サイクル」を早く大きく回すことを,施策の基本的方向性として位置付けたのである.この「知的創造サイクル」は特許権の実務などにはよく当てはまったことから,当時の実務者にはよく浸透したものと思われる.その後,「創造」においては発明を生む研究開発の強化や大学における知財管理体制などが,また「保護」については特許の権利付与の短縮化や,医療分野などにおける強い権利の付与などが具体的な施策となり,「活用」においては大学や企業の特許を流通させる特許流通促進事業などが実施された.

 この当時の知財政策は,また別の言葉でプロパテント政策(特許重視政策)とも言われた.プロパテント的な政策を志向する政府文書が散見されるようになった時期は1990年代半ばに遡ることができるが,その当時の産業界の関心はそれほど高いものではなかった(注2).と言うと企業が特許出願に関心がなかったのかというとそうではない.日本経済は安定成長期終えん後である1991年から実質経済成長率が5%以下の低成長となったが,日本特許庁に対する特許出願はバブル崩壊期を除いて常に増加傾向にあり,2005年に約43万件まで増加した.この背景としては,元々欧米の技術導入によって戦後再スタートした日本の産業は,高度経済成長を経て,米国企業から多くの特許訴訟を提起され苦しい防戦を経験したことがある.特許権侵害は事業の差止請求権を有するため,その取扱いを間違えると事業自体の存続が危ぶまれることにもつながる.この際相手企業に対して,自社が保有している特許侵害を提起できれば,相手企業も差止めのリスクを被ることになる.その場合少なくともクロスライセンスに持ち込むことができる可能性が出てくる.このように,特許出願を強化することは,自社製品の,相手企業の特許権の侵害の有無に影響するものではないが,差止請求権を伴う攻撃が可能になる可能性が高まる.1990年代までの日本企業が特許出願数を増加させたのは合理的な戦略であったと言える(1)


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