小特集 4. 光を用いたリザバーコンピューティングの最新研究動向

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リザバーコンピューティング

小特集 4.

光を用いたリザバーコンピューティングの最新研究動向

Recent Progress in Photonic Reservoir Computing

内田淳史 菅野円隆

内田淳史 正員 埼玉大学大学院理工学研究科数理電子情報部門

菅野円隆 正員 埼玉大学大学院理工学研究科数理電子情報部門

Atsushi UCHIDA and Kazutaka KANNO, Members (Granduate School of Science and Engineering, Saitama University, Saitama-shi, 338-8570 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.2 pp.127-133 2019年2月

©電子情報通信学会2019

abstract

 本稿では,光やレーザを用いたリザバーコンピューティングに関する近年の研究動向を紹介する.特に時分割多重方式と空間並列化方式の特徴について述べ,最新の研究進展状況やリザバーコンピューティングの小形化の研究状況について詳細に述べる.

キーワード:リザバーコンピューティング,レーザ,非線形素子,光集積回路,ダイナミクス

1.は じ め に

 近年,リザバーコンピューティング(またはリザーバコンピューティング)と呼ばれる新たな情報処理方式が注目を浴びている(1),(2).リザバーコンピューティングとは,自己フィードバックを有するリカレントニューラルネットワークの一種であり,過去の入力に依存した情報処理に対して優れた特性を有している.しかしながら従来のリカレントニューラルネットワークでは,学習によりネットワークの結合強度(重み)が変化するため,重みの最適化のために計算量が膨大となることが欠点であった.一方でリザバーコンピューティングは,入力とネットワーク間及び,ネットワーク内の結合強度を固定し,出力の結合強度のみ学習を行うため,学習によるネットワークの最適化が不要となる.したがって,学習の簡素化が可能であり,これがリザバーコンピューティングの大きな長所となる.

 非線形素子と遅延ループを用いたリザバーコンピューティングが2011年に提案され(3),更に2012年には光を用いたリザバーコンピューティングが初めて報告された(4),(5).それ以降,ニューラルネットワークの枠組みにとらわれずに,様々な物理媒質をリザバーとして用いた実装方式が提案されている.本方式は時間遅延ループを有する非線形素子を利用し,時間遅延ループ内の複雑な振動出力波形をある一定の間隔で区切り,各点での出力をネットワークのノード状態とみなして仮想的なネットワークを構成する手法である(3).(時分割多重方式と呼ばれる.)つまり,ニューラルネットワークのように複数の非線形素子を多数結合する必要がなく,単体の素子と時間遅延ループのみで実装できる点が大きな長所である.このような実装の容易性により,光の分野においては,非線形光学素子やレーザのダイナミクスを用いてリザバーを実現する研究が盛んに行われている(4)(8)

 また一方で,従来のリザバーコンピューティングのように,多数の非線形素子を空間並列化してリザバーを実現する手法も近年提案されている(9).このような空間並列化は実時間での処理に適しており,空間光変調器や光集積回路を用いた実装が進展している.

 ここで光を用いる利点としては,高速化と並列化,更には低消費電力化が挙げられる.従来の機械学習はGPUが用いられて高速化が進んでいるものの,その処理速度はコンピュータの動作速度に制限される.一方で光リザバーコンピューティングでは,リザバーの過渡応答はGHzを超えており,高速な処理が実現できる可能性を秘めている(7).更に光の波長多重性,空間並列性などを積極的に活用することで,並列化の実現も可能となる.加えて,光集積回路やシリコンフォトニクスの最先端技術を活用することで,低消費電力での処理が可能になると期待できる.


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