解説 生体情報活用の現状と課題

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 解説 

生体情報活用の現状と課題

New Gains from Wearable Physiological Signal Monitoring

早野順一郎

早野順一郎 (株)ハートビートサイエンスラボ

Junichiro HAYANO, Nonmember (Heart Beat Science Lab, Co., Ltd., Nagoya-shi, 466-0844 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.106 No.6 pp.496-501 2023年6月

©電子情報通信学会2023

A bstract

 ウェアラブル機器の発展により,日常生活下の長期生体情報の連続モニタリングが急速に普及しているが,そのデータの活用法や解析法の進歩が追いついていない感がある.医療や健康科学の分野では,日常活動下のデータに対し,検査室用機器の規準値や判定法による信頼性の確認に重点が置かれ,ウェアラブル機器ならではの特性の活用法や解析法に期待される発展が見られない.本稿では心拍情報を中心に,日常活動下のデータに検査室の測定値の判定規準を安易に転用することの問題点と,ウェアラブル機器でしか得られない情報の活用法について述べる.

キーワード:ウェアラブルデバイス,アロスタシス,心拍変動,睡眠時無呼吸,日々変動

1.は じ め に

 生体センサの発展により,ウェアラブル機器による日常生活下の生体情報の長期間連続データ(長期生体情報)の取得が普遍的な技術となった.心拍数や身体加速度は,腕時計型や指輪型,あるいは胸に貼る長さ数cmのシールで連続測定され,クラウドに蓄積されていく.これらの長期生体情報は,記録が長期間であるという量的な点のみでなく,日常活動下で記録されているという点で,一定条件で記録される病院や健康診断のデータ(短期生体情報)とは質的に異なる.しかし,ウェアラブル機器の普及に比べて,長期生体情報の解釈や解析法の進歩がそれに追いついていないこともあり,短期生体情報で構築された解析法や解釈が,測定条件の違いを考慮せず,無批判に長期生体情報に適用されている場合も見られる.その結果,誤った解釈が導かれるリスクばかりでなく,長期生体情報に含まれる貴重な情報が抽出されず,情報価値が過小評価されるリスクも生じ得る.本稿では,筆者が専門としている心拍データを中心に,長期生体情報に短期生体情報のために構築されたフレームワークをそのまま当てはめることの問題点と,ウェアラブル機器でしか得られない長期生体情報の活用法について述べる.

2.生体情報の取得

2.1 測定条件による生体情報の分類

 生体情報は,それがどのような測定条件で得られたものであるかによって分類される.体表面から記録される心電図を例にとると,短時間心電図(5分以内),負荷心電図,長時間心電図(24時間以上)に分けられる.短時間心電図と負荷心電図は,人為的にコントロールされた環境(空調された検査室など)で,前者は定常状態(仰臥位安静,起立位安静など),後者は運動負荷や薬物負荷に対する反応過程として測定される.これに対して,長時間心電図は,測定時間が長いということだけでなく,多くの場合,ウェアラブル心電計を用いて自由行動下で記録される.そのため記録中の被験者の測定環境や状態がコントロールされない.生体情報の分析法及び解釈のフレームワークは,測定条件に応じて,適切に選択されなければならない.


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