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本稿では「なじみ」の重要性について考察する.ここで「なじみ」とは,機械やシステムを反復して利用し,ユーザが自分の手足のように自在に操作できるようになった感覚を言う.システムが自分に「なじんだ」動きをすると,人は達成できたというSelf-Determination Theory(SDT)の指摘する満足感を得る.したがって,システムの信頼性・トラストは,このような「なじんだ」段階になって本当に評価される.また,「なじみ」は,人と人とのコミュニケーション,音楽などの芸術鑑賞の文脈にも一般化できる.人は,観測された情報と自らの予測の差異から「なじみ」の程度を測り,日常の判断や意思決定を行っていると考えることができる.このように「なじみ」は人々のEmotional Platformの構築に非常に重要であり,これからのEmotional Societyに大きな役割を果たす.
DeciとRyanは自分が望むことを自分なりに意思決定をして実行したときに最高の満足感,達成感を得ることを指摘し,更にそれが人間の成長に不可欠であることをSDTで指摘している(1).システムが自分に「なじんだ」動きをすると自分の思いが達成できたという感覚が生まれるが,SDTは自己(Self)に注目し,その持つ意味を解明したと言えよう.
彼らの40年ほど前にMaslowが人間の欲求について「動機」という視点から論文を発表している(2)(図1).
彼は,最初は人間も他の動物と同じように,食料や外部からの保護という物的な要求を求めているが,時間の経過に従い,物的要求から精神的な欲求へと移行し,最終的に「自己実現」を求めることを指摘した.
人間が他の動物と異なるのは,人間は将来を考えることができることである.人間は夢を見ることができる.それがEngineeringである.すなわち,人間は「明日に向けて生きる」ことができるが,動物は「今に生きている」.
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