オピニオン 「なじみ」について考える

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.106 No.6 (2023/6) 目次へ

前の記事へ次の記事へ


オピニオン 「なじみ」について考える Adaptation from Diverse Perspectives

福田 収一 慶應義塾大学 システムデザインマネジメント研究所 

1.は じ め に

 本稿では「なじみ」の重要性について考察する.ここで「なじみ」とは,機械やシステムを反復して利用し,ユーザが自分の手足のように自在に操作できるようになった感覚を言う.システムが自分に「なじんだ」動きをすると,人は達成できたというSelf-Determination Theory(SDT)の指摘する満足感を得る.したがって,システムの信頼性・トラストは,このような「なじんだ」段階になって本当に評価される.また,「なじみ」は,人と人とのコミュニケーション,音楽などの芸術鑑賞の文脈にも一般化できる.人は,観測された情報と自らの予測の差異から「なじみ」の程度を測り,日常の判断や意思決定を行っていると考えることができる.このように「なじみ」は人々のEmotional Platformの構築に非常に重要であり,これからのEmotional Societyに大きな役割を果たす.

2.「人」であるとは?

 DeciとRyanは自分が望むことを自分なりに意思決定をして実行したときに最高の満足感,達成感を得ることを指摘し,更にそれが人間の成長に不可欠であることをSDTで指摘している(1).システムが自分に「なじんだ」動きをすると自分の思いが達成できたという感覚が生まれるが,SDTは自己(Self)に注目し,その持つ意味を解明したと言えよう.

 彼らの40年ほど前にMaslowが人間の欲求について「動機」という視点から論文を発表している(2)(図1).

図1 Maslowの人間の欲求(出典:福田収一“一杯のコーヒーから,”機械の研究,第74巻,第7号,p.573,2022.)

 彼は,最初は人間も他の動物と同じように,食料や外部からの保護という物的な要求を求めているが,時間の経過に従い,物的要求から精神的な欲求へと移行し,最終的に「自己実現」を求めることを指摘した.

 人間が他の動物と異なるのは,人間は将来を考えることができることである.人間は夢を見ることができる.それがEngineeringである.すなわち,人間は「明日に向けて生きる」ことができるが,動物は「今に生きている」.


続きを読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録

  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。