解説 未来を切り開く光――ライダ技術の最前線――

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Vol.108 No.7 (2025/7) 目次へ

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 解説 

未来を切り開く光

――ライダ技術の最前線――

Light Unveiling the Future: The Forefront of LiDAR Technologies

張 超

張 超 正員 工学院大学工学部電気電子工学科

Chao ZHANG, Member (Faculty of Engineering, Kogakuin University, Hachioji-shi, 192-0015 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.108 No.7 pp.681-686 2025年7月

©2025 電子情報通信学会

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 ライダ(LiDAR: Light Detection And Ranging)は,光を利用して距離を測定し,高精細な3D点群を生成する画期的な技術である.本稿では,車載ライダに焦点を当て,その歴史と市場をはじめ,ライダ用光源,ビーム走査技術,相互干渉の回避手法等について解説する.

キーワード:ライダ,3D計測,レーザ,自動運転,ビーム走査,相互干渉

1.は じ め に

 近年の産業用ロボットや自動運転車等に,ステレオカメラ(1),レーダ(2),構造化照明(3),ライダ(Light Detection And Ranging)(4)等の3D計測技術が導入されている.この中で,ライダはmm級の精度で物体の位置を把握でき,構成次第で360°の視野で車両周囲をカバーし,照明条件に左右されず暗闇でも正確に機能する.ライダ開発の発端は1961年にHughes Aircraft Companyが開発したライダの最初のプロトタイプである(5).これはT.H. Maimanが694nmでルビーレーザの発振(6)に成功した直後のことであった.そして,1960年代初頭にMITの研究者らがルビーレーザ光を月面に送り,そのエコー信号を検出したことが報告された(7).1971年には,NASAがアポロ15号により月面レーザ測距反射器(LRRR)(8)を月に設置し,ライダを用いて地球―月間の測距に使用した.その後,火星や水星に向かう宇宙船に使用が拡大された.上述の先駆的研究により,レーザを対象物に照射し,そのエコー信号を収集することで,高精細な3D点群を構築する可能性が示された.以降,気象学,海洋,地形測量,自動運転等にライダを適用する試みが始まった.本稿では,車載ライダ技術の進展について解説する.

2.自動運転と車載ライダ

2.1 自動運転

 近年,自動運転技術の進歩は目覚ましいが,実はその歴史は比較的長い.アダプティブクルーズコントロール(ACC)(9)は車間距離を一定に保ちながら,車速を自動調整する技術であり,現在は先進運転支援システム(ADAS)(10)中の代表技術である.このACCの歴史は1950年代に遡る.1956年にR. Teetorがクライスラーのために最初のクルーズコントロールシステムを開発した(11).本提案は磁気センサを用いて車速を一定に保つ技術であった.その後,1995年に三菱のディアマンテにライダが導入された(12).当時は,レーザを使うと低コストで測距できるとされていた.ところが,モノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)(13)が低コスト化されると,レーザは霧環境で測定困難であるとか,飛行時間(ToF)方式ライダによる相対速度を測るのに最低2パルス必要で時間がかかる等の理由が付けられ,これ以降ACCからレーザは淘汰されるようになった.2000年代に入ると,米国国防高等研究計画局(DARPA)が主催する自動運転技術コンテストDARPA Grand Challenge(12)が注目を集め,出場を目指して車載ライダの開発が活発化した.この中で,VelodyneがDARPA Grand Challenge 2007用に開発したライダが一躍脚光を浴びた(12),(14).Velodyneは元来米国のオーディオメーカで,ライダ開発は社長の趣味として始まった.当該分野で成功を収めた後,オーディオ部門を売却し,ライダに特化したVelodyne LiDARが設立された.

2.2 車載ライダ

 レーダは安価で相対速度を有効に測定できるが,分解能が限定的である.一方,ライダは対候性やToF方式における相対速度測定に課題があるものの,高精細で暗闇でも安定した性能を発揮する.特に,自己位置推定と環境地図作成を同時に行うSLAM(14)において,360°走査可能なVelodyne LiDARが威力を発揮し,車載ライダの開発が再び注目されるようになった.このような背景から,ライダをルーフに搭載したGoogleカー(現Waymo)(15)が登場した.ルーフ搭載は一般乗用車への適用が難しいものの,世界的に注目され,車載ライダの開発がますます活発化した.レーダは分解能が低く,物体形状や詳細位置の把握が難しいため,L3以上の自動運転ではライダの重要性が増した.そして,2010年代からライダは商用自動車に導入され始めた.例えば,Audi A8にはValeo LiDARが搭載され(16),L3で初めて量産車にライダを提供するメーカとしてValeoは一躍有名になった.当時はL3で走行する法律が整備されていなかったため,技術報告のみであったが,後にホンダがレジェンドにValeo LiDARを搭載し(17),車載ライダの商用化が進んだ.2020年代には,車載ライダは高級EVで人気を博している.レーダは上述以外に一般道におけるマルチパスの課題(18)もあり,ライダはこのような環境でも有利である.また対候性に関しては,ライダは雨の影響は少ないものの,雪には課題があるが,積算によるデータ処理等で対処し,対候性への懸念は薄れてきている.近年ではInnoviz LiDARがBMWやVWに採用され(16),40億ドルの巨額契約が結ばれている.


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