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コンピュテーション研専は理論計算機科学に関する最新の研究成果を議論する場として国内の情報科学技術の発展,ひいては現代の情報化社会の基盤を支えてきた.理論計算機科学は計算の本質を理解し,更にその理工学的応用を取り扱う分野である.今年本会100周年とともにTuring賞50周年を迎えるが,改めて受賞者を振り返るとCook,Karp,Hopcroft,Tarjan,…といった本分野のそうそうたる研究者が多数受賞しており,その業績は受賞時もしかることながらその後何十年にもわたって革新的技術を生み出したものも多い.
例えばTuring賞受賞のValiantの計算論的学習理論(1)やYaoの計算量理論に基づく暗号理論(2)は機械学習・情報セキュリティ技術の今日における大躍進の核となっていると言える.理論計算機科学分野の成果から発展した分野の隆盛を見るに計算の基盤理論から革新的技術が産み出されることを待ち望まれているのは間違いなく,この分野の研究を推進していくためのコンピュテーション研専の研究活動は今後とも注目を増していくであろう.
そのような期待に応えて革新的技術につながる研究を行っていくためにはどのような針路を取り得るだろうか.もちろんNP対P問題のように王道の未解決問題に挑んでいくことは重要である.実際NP対P問題への挑戦は計算への理解を大きく深めることとなり対話形証明(3)をはじめとする多くの強力な技術を産み出す原動力になった歴史がある.その一方で前述のValiantやYaoの業績のように新たな分野の核となるべき基盤理論を整えていくことも革新的技術の創出に必要となるであろう.
理論計算機科学分野では1930年代のTuring機械の定義(4)をはじめとした計算可能性の議論から「計算」という人類の重要な知的活動を数理科学的手法から理解するための道筋を得た.そして計算の理解によって更に一般的な知的活動,つまり人類の知,を計算によって理解しようとする人工知能分野が誕生した.今日AlphaGo(5)のトッププロ棋士に対する勝利が象徴するようにValiantが基盤理論を与えた機械学習分野そして人工知能分野における深層学習やモンテカルロ木探索などの強力な技術の登場で機械による知的活動の可能性が飛躍的に成長している.しかし現在の理論計算機科学においてその本質を理解するための道筋を得ているとはいまだ言い難いのではないだろうか.
人類の知の理解とその理工学的応用は人類が希求する技術の最終到達地点の一つである.計算の更なる深い理解とそれによる知に対する基盤理論の構築によって新たな理論計算機科学の地平を望むことができるに違いない.
(1) L.G. Valiant, “A theory of the learnable,” Commun. ACM, vol.27, no.11, pp.1134-1142, 1984.
(2) A.C.-C. Yao, “Theory and applications of trapdoor functions,” Proc. 23rd FOCS, pp.80-91, 1982.
(3) S. Goldwasser, S. Micali, and C. Rackoff, “The knowledge complexity of interactive proof systems,” Proc. 17th STOC, pp.291-304, 1985.
(4) A.M. Turing, “On computable numbers, with application to the entscheidungsproblem,” Proc. London Math. Soc., vol.2, no.42, pp.230-265, 1936.
(5) D. Silver, A. Huang, C. Maddison, A. Guez, L. Sifre, G. van den Driessche, J. Schrittwieser, I. Antonoglou, V. Panneershelvam, M. Lanctot, S. Dieleman, D. Grewe, J. Nham, N. Kalchbrenner, I. Sutskever, T. Lillicrap, M. Leach, K. Kavukcuoglu, T. Graepel, and D. Hassabis, “Mastering the game of Go with deep neural networks and tree search,” Nature, vol.529, pp.484-489, 2016.
(平成29年5月8日受付)
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