電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
© Copyright IEICE. All rights reserved.
|
人類は有史以前から洞窟壁画等の記録を残し,文字の発明以降,様々な文化社会の情報を記録し続けている.正に,記録という形を経て,人類の知恵は未来へと橋渡しされていると言えるであろう.
1950年代に登場した計算機の利用目的が,科学計算に続いて,社会活動に付随した記録の保持,管理に焦点を当てられたのも当然と言える.従来,人が専念してきた膨大な情報の記録の成果を「データ」として計算機内に保持し,多くの人々の間で永続的に共用可能とするためにデータベース(DB)が発案され,今や現在の情報社会基盤として必要不可欠なものとなっている.
1960年代,ネットワークDB,階層DB等,対象となる業務に連携したデータ構造を持つDBが実装,利用されるようになった.1969年にCoddにより関係データモデルが提唱されると(1),DBは上位のプログラムとの独立性,汎用性が高くなり,関係DBの利活用に注目が集まった.1970年代以降,関係DBの理論から実装運用まで幅広い研究が世界的に進められ,日本でも多くの研究が開始された.1984年にIEEE第1回データ工学国際会議(ICDE)が開催されたことを契機に1986年4月に初代委員長の酒井博敬氏により,日本のDB研究をけん引すべく,データ工学研専が立ち上げられた.
データ工学研専の対象とする研究内容は,情報技術の発展,社会への情報技術の浸透に伴い,飛躍的に拡大している.関係DBを中心に,DBマシン,並列DBの研究が行われた.植村俊介氏,真名垣昌夫氏,鈴木健司氏,牧之内顕文氏各委員長の下,若手研究者向けのセミナーが催され,1990年からDEWS(Data Engineering Workshop)と名を改め,多くの研究者が育成された.
1990年代半ばには,マルチメディアデータや半構造化データ等のデータの多様化を背景に,オブジェクト指向DBやXMLDB等,関係DBが対象とするコンテンツの枠を拡張するDBが提唱された.データ工学の研究者も着実に増加し,当時の委員長,西尾の主導の下,DEWSは国内研究者による最先端研究の発表の機会を提供するワークショップに発展し,100名を超える研究者が集った.
喜連川,北川,吉川正俊氏,横田の各委員長の下,現在のビッグデータに対する技術基盤としてデータマイニング,Webデータ解析など従来のDBの枠を超えるコンテンツ処理も含んだ研究が行われた.2009年,DEWSはDEIM(Data Engineering and Information Management Forum)に発展し,600名規模の国内最大のデータ工学分野のフォーラムとなっている.データ工学研専は我が国のみならず世界をリードする研究の発表の場を提供するとともに,他学会との連携を強化し,我が国のデータ工学をけん引している.
(1) E.F. Codd, “A relational model of data for large shared data banks,” Commun. ACM, vol.13, no.6, pp.377-387, 1970. doi: 10.1145/362384.362685
(平成29年6月5日受付 平成29年6月15日最終受付)
続きを読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード