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レントゲンによるX線の発見(1895年)から約120年,ハウンズフィールドによるCTの発表(1972年)から約45年が経過した.また医用画像管理サーバ(PACS)の普及により,過去画像との比較・定量化・統計分析・院外との情報共有といった情報の新しい見方ができるようになった(1).更に100年後には,生まれてから死ぬまでの医用画像やライフログが全て利用可能な個人が多数派となり,また全世界の大多数の匿名化された生体画像を含む健康情報が利用可能になると考えられる.そのような世界観の下,医用画像研究会が取り組む課題や抱負について今後10~20年をターゲットに考察する.
マルチスケール:「医用画像内の異常な部位を見つけ出す」という画像診断支援の研究においては,異常部位の特徴を数理的にモデリングした上で,正常部位(雑音)の中から異常部位という信号を見つけ出すという枠組みで研究が進められてきた.この信号と雑音の関係を逆転させ,正常な人体を丸ごと数理的にモデリングし理解した上で,異常部位を検出・鑑別するという枠組みでの研究が現在進められている(2).正常な人体の数理モデリングとその利活用にあたっては,個体差の数理表現だけでなく,104スケールにわたる画像認識・レジストレーション・微小構造理解・生理機能推定など種々の課題があり,今後も精力的に研究が進められていくと考えられる.詳細は文献(3)を参照されたい.
ヘルスケアサービス:全人類・全生涯の健康情報・医用画像が,ネットワークを通じてAPIをコールするだけでストレスなくハンドリングできる時代はそう遠くないと予想される.医療・臨床医学・公衆衛生に貢献するだけでなく,暮らしを豊かにするヘルスケアサービスとしての社会実装を見据えての,情報共有・認証・プライバシー保護・医療経済・生物統計といった分野と連携した医用画像研究が進められていくと考えられる.
コミュニケーション:従来の社会制度としての医療福祉の枠組みから,個人が自身の健康情報を活用しての自助努力による健康寿命延伸への転換が進むと予想される.そのためには健康情報・医用画像を人工知能に入力し結果を受け取るだけでは不足であり,分析結果をより分かりやすく伝えるコミュニケーション支援技術の発展が欠かせない.グラフィックス・複合現実感・知識工学・認知工学といった分野と連携した医用画像研究が進められていくと考えられる.
(1) 土井邦雄,“医用画像とコンピュータ支援診断,”映情学誌,vol.65, no.4, pp.428-431, 2011.
(2) 文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「医用画像に基づく計算解剖学の多元化と高度知能化診断・治療への展開」,http://www.tagen-compana.org/
(3) K. Mori, “From nano-scale to micro-scale computational anatomy: a perspective on the next 20 years,” Medical Image Analysis, vol. 33, pp.159-164, 2016.
(平成29年4月22日受付)
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