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知能ソフトウェア工学研専が発足したのは1992年4月であり,活動期間は26年目となる.もっとも,前身となる「知的ソフトウェア開発環境に関する研究会」が,情報処理振興事業協会(IPA)の支援と上野晴樹初代委員長の御指導の下で1988年から4年にわたり計26回開催されており,これを含めれば30年弱となる.本稿の多くは,2015年5月に開催した「知能ソフトウェア工学の伝統と将来に向けて」ミニシンポジウム(注1)の席上で伺った内容に基づく.
本研専では,ほぼ隔月ペースで開催している研究会において「議論を重視し質疑応答の時間を長く確保する」方針を堅持し,研究会以外にもほぼ隔年で国際会議(JCKBSE: Joint Conference on KBSE)を企画運営し(1994年から計11回開催),その英文論文誌(小)特集への連動企画(1995年から計11号刊行)を推進してきた.
本研究会は,「人工知能(AI)の一分野である知識工学(KE)をソフトウェア工学(SE)へ適用する」という初代委員長の発想に基づき,本会の人工知能と知識処理研専から分離独立する形で設置された.発足直前の1980年代のSE研究は海外の研究の追従発展が中心で「プログラムの自動合成/検証/部品化再利用」といった「合成」の側面に注目が集まっていた.これに対し「優れた目標が優れた成果を導く」「海外の後追いではない日本文化の香りのする研究こそが海外からも注目され得る」という初代委員長の信念に基づき,1990年代以降のSE研究の目標の一つとして,人が「原理的で汎用的な深い知識を応用し幅広く問題解決を行う」ように「深い解析」(「プログラムの意味の理解」など)に着目する独自の視点が据えられた.こうしたチャレンジ性から,本研専の対象領域は「AIとSEの融合分野」のみならず,「その一方を探求するものであれば構わない」とされ,研究会という交流の場でAIとSEの双方の立場から議論することで,新しいものを生み出すことが期待されてきた.この伝統は,その後も継承され「人とソフトウェアの関わり」を追求する様々な研究を「人の持つ知識とその運用という切り口」で先導する方向性が保たれている.プログラムの理解に基づく開発支援はもとより,人と人の交渉/議論過程の計算機支援,機能要求ばかりではなく「人」が満足する性能や安全性等の非機能要求を対象とした要求工学,幅広い工学分野の技術専門家が持つ暗黙的知識の抽出/利用の方法論,発想法や発明法のプロジェクト管理やソフトウェア開発への適用,開発者になじみ深いモデルに基づく開発支援,人とコンピュータの接点であるユーザインタフェースの使いやすさの評価などの研究が行われてきた.また,この30年間には我々の「生活」に身近なデバイスやサービスにも様々な技術的変化があり,それを受けてスマートフォン,WWW,Webサービス,RFIDカードやセンサなどが取り上げられてきた.
近年の機械学習技術の発展と普及は,非記号的な知識を扱う技術を我々に身近なものにしつつある.AI技術が車の自動運転等の組込みソフトウェア分野へも適用され始めた.しかし高い安全性要求の保証には記号的な知識との融合も必要となるだろう.社会基盤たる情報システムの複雑化と大規模化は,個別のSystemからSoS(System of Systems)へ焦点を移し,より汎用的・原理的なメタ知識(Model of Models/Knowledge of Knowledge(s))への期待を高める.我々の暮らしを豊かにする社会サービスは「人の生活を背景に持つ知識」に支えられる.生活の場に次々に導入される新技術を生かした新サービスをソフトウェアとして実現し展開するための「知識という切り口」からの議論の場を,本研専は今後も提供していけると信じている.
(平成29年6月16日受付 平成29年6月28日最終受付)
(注1) 初代委員長に基調講演を,歴代第3~7代委員長(古宮誠一,橋本正明,山本修一郎,海尻賢二,廣田豊彦)に御講演を頂いた.2003年に55歳で急逝された第2代委員長(永田守男)にお越し頂くことは残念ながらかなわぬことであった.第8~11代委員長(山口高平,大西淳,中谷多哉子,松浦佐江子)をお招きする第二弾の構想もいずれ実現したい.(以上,敬称略)
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