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ソフトウェアを取り巻く環境が,大きく二つの要因から変わりつつある.一つ目の要因は,自動運転やIoT,拡張現実(AR)に代表されるハードウェアや実世界環境との近接化である.これにより,ソフトウェアは従来の安定した環境下でのみ動作すればよいわけではなく,環境の頻繁な変化や不確実性,ハードウェアの部品故障等を扱わなければならなくなってきている.もう一つの要因は,ソフトウェアライフサイクルの変化である.スマートフォンやWeb上のアプリケーションのように,頻繁なものであれば週に1回程度の機能の追加・変更が求められている.これは開発工期が短縮化される一方で,要求の変化に常に追従し,ソフトウェアを変化させていかなければならないことを意味している.これらの変化により,従来のソフトウェア開発・運用方法では,求められるレベルのサービス提供が困難となってきている.
我々はこのような状況にどう対応すべきであろうか? ソフトウェア開発者・運用者にとっては,自らが極力ソフトウェアの開発や運用工程に関与しないこと,つまり,開発や運用の自動化が重要となる.一方,ソフトウェアの利用者にとっては,頭の中で描いている新しい要求を正確に伝達し,ソフトウェアに反映させることが重要となる.
そのためには,「いかにソフトウェア開発プロセスを高度に自動化するか」,「いかにソフトウェアに(適応性をはじめとした)知的性質を持たせるか」,「いかに知的に(高水準で)ソフトウェアを定義するか」が重要となる.これらの知見をまとめた体系は,正に知能ソフトウェア工学(Knowledge-based Software Engineering)と呼ばれるべきものである.
くしくもここ数年KBSE研究会で盛んに議論され,深化しているのは以下のトピックに関する研究である.
・ 要求工学全般,ゴールモデル,ユーザビリティ
・ モデリング,モデル駆動開発
・ 自己適応ソフトウェア
・ 信頼性の分析及び検証
これらは新世代のソフトウェアを扱うための要素技術となるものである.ゴールモデルは,‘ひと’が有する知識や要求を,コンピュータが理解可能な情報へと構造化する技術として期待されている.また,モデル駆動開発は,プログラムの自動生成とも関連する技術である.自己適応ソフトウェアとは,環境の変化に対して,自発的に自身の振舞いを切り替える能力を持つソフトウェアを指し,信頼性を向上させる各要素技術と組み合わせることで,運用面での‘ひと’の関与を排除することができる技術である.
ソフトウェアを取り巻く環境が大きく変わりつつある今こそ,本研専の真価が問われるときである.
(平成29年4月27日受付)
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