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解説
IEEE 802.11無線LANの最新標準化動向
Latest Trends of the IEEE 802.11 Wireless LAN Standardization
abstract
本稿では,最新のIEEE 802.11無線LAN標準化動向について概観しつつ,現在普及しているIEEE 802.11acの後継規格と位置付けられるIEEE 802.11axの検討状況について解説する.IEEE 802.11ax規格の第1の目的は無線LAN機器が高密度に存在する環境におけるエリア当りのスループット向上であり,そのために検討されている主な技術を紹介する.
キーワード:無線LAN,標準化,IEEE 802.11ax
1997年にオリジナルのIEEE 802.11規格が完成してから約20年が経過し,無線LANはスマートフォンやタブレットなどの携帯端末をはじめ,ゲーム機や情報家電など様々な機器に搭載されるようになった.これに伴い無線LANのマーケットも拡大を続けており,全世界での無線LAN機器の累積出荷台数は2015年に10億を超え,最近では年間出荷台数だけで数十億の規模になると言われている(1).今ではPCや周辺機器だけではなく,スマートフォンやタブレットなどの携帯情報端末やゲーム機,情報家電など様々な機器に搭載され,誰もが日常的に利用する通信手段となった.
これまで順調にマーケットを拡大してきた無線LANであるが,マーケットの拡大は時として克服すべき新たな課題も生み出す.例えばモバイル機器への搭載が進み始めると,機器の消費電力低減は重要な課題として認識されるようになり,新たな標準化活動(特に,物理層技術に関するもの)が始まると,必ずスコープの一つとして提案されている.また,従来指摘されていた接続処理の簡易化,高速化も重要な課題である.セルラと比較するとエリアが小さい無線LANシステムは,移動中の端末がエリアに入ったときに素早く接続処理とネットワーク設定を行うことが重要になる.このように,IEEE 802.11 Working Group(以下,802.11 WG)では,課題を克服しながら更なる無線LANのマーケット拡大をもたらすための標準化活動が現在も続けられている.本稿では,現在のIEEE 802.11無線LAN標準化動向について,802.11axの状況を中心に解説する.
現在のIEEE 802.11ax標準化へとつながる議論が始まったのは,IEEE 802.11ac規格の標準化における技術的な議論が落ち着き始めた2011年11月である.当時の状況としては,スマートフォンの普及が本格化しモバイルデータトラヒックが急増し始めた頃であり,そのような中で無線LANはモバイル機器への搭載が進み,セルラデータオフロードといった新たなユースケースが注目されていた.街中では様々な場所に無線LANのAPが設置され,無線LAN機器の間の干渉が急増し,「つながりにくい」あるいは「スピードが出ない」といった声が聞かれるようになったのもこの頃である.実際に無線LANのネットワークを調査すると,人が多く集まる所では幾つもの無線LANネットワークが同じチャネル上で運用されている状況であり,無線LAN機器間の干渉が深刻な状況になっていた.
このような状況の下で始まった次の標準化の方向性に関する議論において,無線LAN機器が高密度に存在する環境における性能の改善が中心的な課題と認識されたのは自然な流れであった.次世代高効率無線LAN規格の標準化を行っているIEEE 802.11タスクグループAX(TGax)では,IEEE 802.11ac規格をベースに無線LAN機器が高密度に存在する環境における周波数利用効率や端末当りのスループットといった性能の改善を行う技術の標準化を行っている(2).IEEE 802.11axの標準化では,従来の高速化は異なる「高効率化」という課題が強く意識されており,そのためにIEEE 802.11ac規格で一部採用されたマルチユーザ伝送機能の強化と,周波数の空間的な再利用を促進するための技術などが検討されている.
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