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解説
シニア向け製品・サービスの開発・評価における認知心理学・認知工学的アプローチ
――様々な加齢変化の影響とリビングラボでの研究活動を中心に――
Cognitive Psychology/Cognitive Engineering Approach in Developing and Evaluating Products and Services for Seniors
abstract
高齢社会においてシニア向け製品・サービスの開発が急務な社会状況となっている.この社会状況において,製品・サービスのシニア対応の開発・評価を実施するためには,高齢者の加齢変化やそのための方法論を理解することが重要であると考えられる.そこで,本稿では認知心理学の観点から高齢者の加齢変化について解説するとともに,その加齢変化を踏まえてシニア対応するための認知工学的方法について解説する.
キーワード:認知的加齢,シニア対応,リビングラボ
日本社会の近年の特徴として,高齢社会の急速な進展が挙げられる.高齢社会白書(1)によると,2016年の65歳以上の人口比率の総計は26.7%である.この高齢化率は,2025年には30%を超えることが予測され,更に日本の「高齢社会」は進むと考えられている.
約10年で人口の約3分の1が65歳以上の高齢者となる社会において,人々の日常生活や仕事を支える様々な製品・サービス(以下,「人工物」と呼ぶ)を利用するユーザ像として「高齢者」の存在感は大きく,今後更に,高齢者(シニア)向けの人工物の新規開発が進むと考えられる.しかし,高齢者ユーザはその人工物を利用することで困難を示したり,そもそも,人工物を利用しないという選択を示すことが若年者と比較すると多い.このような高齢者の特徴の一つの原因として,「加齢変化の影響」が考えられる.加齢変化とは,例えば,四肢の身体機能の低下,視覚・聴覚等の知覚機能,記憶・注意等の認知機能の低下がある.また,高齢者と若年者の人工物に対するメタな知識の差,例えば,高齢期になるまで登場せず学習機会がなかった新しいテクノロジーの知識差の問題など,世代差による問題も一種の加齢変化と考えられる.更には,新しい人工物を利用することが「楽しい」「面倒だ」などという態度の側面についても加齢変化が考えられる.いかなる変化がどのように人工物利用で高齢者にとっての使いにくさを生み出し,その利用を抑制するのかについては単純に理解することはできない.しかし,それらの加齢変化を理解し,人工物利用への影響を検討し,問題を軽減したり取り除いたりすることは,人工物の「シニア対応」にとって重要である.
加齢変化を考慮して人工物のシニア対応を考える場合,正常加齢による機能低下と,軽度認知障害や認知症など疾病が原因の機能低下など複雑な機能低下があり,その加齢変化は多様かつ個人差が大きい.そのため,人工物の開発過程でシニア対応を考える場合,シニア像のある程度の典型化が必要であると考えられる.その典型化として,高齢期を三つのステージに分割する考え方がある.秋山ら(2)は75歳程度までの自立度が高く,活動的に生活している段階の高齢者を「アクティブシニア」とし,仕事をリタイアした後,比較的社会の中で様々な人工物を利用しながらアクティブに生活を営んでいこうとする高齢者としている.この段階の高齢者については,軽度認知障害や認知症など疾病による影響よりも,一般的な加齢変化の影響に注目できると考えられ,ある程度画一的に対応策を考えることができるだろう.また,人工物の市場レベルでの展開を考えた場合にも,アクティブシニアは,日常生活でそれらの人工物を自分で選択し,自立的に利用する可能性が高いユーザであると考えられ,市場の大きさとしても注目できる.
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