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一般社団法人電子情報通信学会が篠原弘道会長の下で,設立100周年を迎えるにあたり,日本学術会議を代表して祝辞を申し上げます.
学会の歴史を拝見しますと,1917年設立,1987年に現在学会名に変更と,7の付く年を節目として,発展してこられたとの感想を抱きました.東京オリンピック・パラリンピックを3年後に控え,情報通信の役割への期待が一段と高まるこの時期に100周年を迎えられたことを改めてお祝い申し上げます.
日本学術会議は,1949年に設立されました.大きな特色は,人文社会科学,生命科学,理学工学という広範囲の学術分野を含んでいる点です.諸外国の科学アカデミーでは,分野ごとに存在している場合が少なくないのに対して,全分野が統合されているのは珍しい例とも言えます.
しかし,そうは言ってもそれぞれの分野がどれほど社会的なインパクトを与えているかについてはばらつきがあると言わざるを得ません.電子情報通信の分野は間違いなく,現代社会に最も影響を与えている分野です.
私は,日本学術会議会長とともに,政府の総合科学技術イノベーション会議の議員を務めています.この会議は,我が国の科学技術政策を立案することになっており,2016年からは第5期の科学技術基本計画が実施されています.御承知のように,その中の最も重要な用語は「Society 5.0」です.その意味するところは,狩猟社会,農耕社会,工業社会,情報社会の次に来る,5番目の文明社会というわけです.
それは何か,という問い掛けが当然想定されます.私は,情報通信の発達がそれまでの文明社会の隅々に行き渡ることで,あらゆる現象が数値化され情報となって収集されたり,直接つながりのない物質同士に応答関係が生まれたりしながら社会そのものが大きな変化を遂げる時代と理解しています.前世紀の初めに,節目の年ということで,当時のメディアが盛んに未来予測を行いました.100年たって検証してみると,情報通信に関わることは多くが実現されていることが分かります.我々が予測されたようには動物の言葉が理解できなかったり,蚊や蚤が撲滅できていない中で,新聞記事を写真付きで遠くへ早く送ること,外国の友人と自由に対話できること等の情報通信に関わることはことごとく実現され,しかも,既に日常生活に欠かせないものとなっています.
私が学長を務める大学は工学系ですが,その一部で,IT農業ということで,土壌や空気中の炭酸ガス濃度を検知して,植物の生育に最適な環境を作ろうという研究を地元の農業者の皆さんと一緒に行っています.こういう考えはSPA(Speaking Plant Approach)と呼ばれることを最近知りました.物言わぬ植物の声をどうやって捉え理解するか,まさにセンサ等による計測と電子情報通信の組合せが必要です.「Society 5.0」に対して,「Industry 4.0」という用語もできています.こちらは直接には工業,生産工程を対象としますが,「Society 5.0」は,狩猟,農業といった文明や生活のあらゆる側面に,情報通信が一段と大きな変革をもたらす時代を意味していると思います.
その意味で,貴学会の重要性は誰も否定できないところです.社会全体が貴学会のもたらす成果に期待しているといっても過言ではありません.
100周年を通過点に,人類の相互理解,相互信頼,そして相互成長に向けて電子情報通信学会の一層の発展を祈念致します.
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