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手の平を天にかざし,背中を丸めている姿を,いつしかどこでも見掛けるようになった.電車の中,駅のホーム,横断歩道の信号待ち,今や歩行中も.そう,スマートフォンのことだ.ラジオ,テレビ,固定電話…,情報通信の歴史の中で,ここまで私たち人間の姿形を変えてしまったものはかつてあっただろうか.最近そんなことを感じながらも,もう10年以上,ある問い掛けの言葉が私の頭から離れることがない.「IT(情報技術)は人間を賢くするか」(東倉洋一著,ダイヤモンド社刊)である.本書が発刊されたのは2001年9月のことであるが,当時,NTT先端技術総合研究所所長であられた故・東倉先生から,直々にそのお話を聞く機会があり,情報通信分野で研究開発を行う人間の一人として強い衝撃を受けたのを覚えている.ワープロの出現によって漢字を書けない人が増えたように,技術開発は時に人間の能力を退化させる側面がある.ITは,人間が活用することにより自身の様々な感覚を高め,更にその能力を拡張させるためにあり,娯楽や遊びなどの快楽ではなく,人類の存続に関わる問題に対して使っていくことが重要だと提言されていた.
あれから15年余がたち,ITはICT(情報通信技術)と呼ばれることが多くなった.世の中のICT技術の高度化はとどまるところがない.一方で,ICT構成技術の細分化とともに,ブラックボックス化が進み,中身を学べる機会が少なくなってきた.日本語の教科書だけで最先端を知ることは,もはや不可能である.これまで人間が生み出してきた技術の歴史を振り返ったとき,技術が理解できなくなってくると,まず技術に対する興味が減り,その結果,技術の成長は飽和し,やがては衰退していくと言われている.果たして我が国のICTの未来はどうであろうか.今こそ,最先端のICT技術者と研究者を擁する本会が中心となり,専門家はもちろん,将来の技術開発を支えるであろう学生や子供たちに対しても興味を持ってもらえるよう,技術の本質を「分かりやすく」伝えるとともに,その健全な未来について語り合うことが大切だろう.本会は,今年100周年を迎えるが,諸先輩方が築かれた偉業の歴史を学ぶだけでなく,歴史という氷山の水面下に隠れているものを探ることで,ICTのこれからの針路を示す役目がある.
ちなみに上記の本は,残念ながら絶版になっている.しかし,幸いにもAmazonで見つけることができ,古書専門店から僅か三日,ほとんど新品の状態で手元に届いた.正にICTの恩恵である.もう一度読んでみると,驚いたことに,15年たった今でも内容は全く色あせていない.さあ,本会が中心となって,様々な学問領域や異なる専門分野の英知を結集し,これから100年後,1,000年後のICTと人間,社会,そして地球との関わりについて考え,ICTの可能性を引き出し続けようではないか.
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