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オピニオン
技術者にとって必要な技術力とその育成
Technological Capabilities and Its Development Required for Engineers
日本において大学などの工学系教育を専門とする学校に,技術者教育のグローバル化に対応して“技術者教育認定制度”を導入したとき,卒業後,実務に従事する技術者(研究者を含む)の定義を,「数理科学,自然科学及び人工科学等の知識を駆使し,社会や環境に対する影響を予見しながら資源と自然力を経済的に活用し,人類の利益と安全に貢献するハード・ソフトの人工物やシステムを研究・開発・製造・運用・維持する専門職業に携わる専門職業人」と定めた(1).このように,例えば商品設計においては,目的とする機能と同時にその商品に安全を組み込むようにするのが,技術者としての当たり前の仕事である.上記の定義は,従来の技術者の立場が変わったのではなく現実の姿を明確にしたものである.
CPD(Continuing Professional Deveropment)という考え方があるが,CPDとは企業に勤務するプロの運動選手が普段から自己の能力を維持・進展させるために鍛練するのと同様,学校で習った理工学理論などを,どのような技術的場面に遭遇しても適切に生かせるように,プロとして不断にその能力(技術力)を充実するための努力を忘れてはならないことを示している.CPDのことを継続教育と言っている例を見ることがあるが,技術者個人で異なる技術的要望事項は自己努力で充実させるもので,共通的分野以外の教育をすることは不可能である.セミナーなどに出席したり見本市などを見学したりしても,知識として吸収するだけなら意味がない.
技術者の仕事には必ずと言ってよいほどリスク(危険性など,結果の不確実性)が付いてくる.あらかじめリスクを予想して対策を織り込めるような技術力が必要である.社会的にリスクという用語が用いられる場合,後述するガイド51のように危険事象が起こる確率または相当する評価事項と,危険事象によって損なわれる損害(額)の多寡によって評価する場合が多いようである.
しかし技術社会においては,対象とする“事実自体”が重要なのである.求めようとしている機能に間違いがないか,予想しないような危険事象が発生しないかなど,時間経過と使用される環境条件に対応して,計画する構成に問題がないか,部品故障や運用時の操作誤りなどで危険事象が実現するおそれがないか,といった,確実には実現が予測されないような未来の不確実性をリスクとして捕らえるのが,現実的な用語であると考える.
従来,例えば設計をする場合,目的とする機能を実現するために努力をするのが技術者の仕事で,その商品に必要な安全性は,設計において法規や規格類を守ることで得られると誤解される場合が多かったようである.が,技術者の業務は“人類の利益と安全に貢献する”のであって,安全の問題を考えるのは特別の業務ではない.作られる商品には,求めるポジティブの機能と同時に危険性などのネガティブの機能も作り込まれてしまうおそれがある.したがって,ある商品を作る場合,備えるべきポジティブの機能と除くべきネガティブの機能を同時に考えるのが妥当であり必要なことは当然である.
例えば化学プラントの設計では,危険な反応に移行しないよう努力をする必要がある.そのことが,メンテナンスを含めたコスト的にも最適な商品を提供することを可能にしている.
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