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秋葉重幸君は,昭和51年に東京工業大学大学院修士課程を修了され,国際電信電話株式会社(KDD,現KDDI)に入社されました.以来KDD研究所において光通信に関する研究開発に取り組まれ,昭和59年に同研究の成果により東京工業大学から工学博士の学位を授与されました.その後,昭和63年から平成2年に掛けて国際機関インテルサット本部に出向され,KDDに復帰後は,平成12年に(株)KDD研究所代表取締役所長,平成14年にKDDI海底ケーブルシステム株式会社代表取締役社長,平成17年に(株)KDDI研究所代表取締役所長,平成18年にKDDI株式会社執行役員兼務となられました.平成23年に(株)KDDI研究所取締役兼東京工業大学連携教授となられ,平成27年に同大学「以心電心」ハピネス共創研究推進機構長に就任され,現在に至っております.
同君はKDDに入社後,長距離光ファイバ通信用の単一波長半導体レーザの研究に積極的に取り組まれました.1979年には,光ファイバの損失が最小となる1.55µm波長帯の半導体レーザの連続発振に世界に先駆けて成功され,半導体レーザの研究開発に先駆的役割を果たすとともに,現在の光通信の基礎を築かれました.本成果は,世界初の1.55µm帯大洋横断光海底ケーブルシステム(第4太平洋横断光海底ケーブル)をはじめ,多くの商用大容量波長多重伝送システムに活用されており,近年のブロードバンド基幹光ネットワークの実現に大きく貢献されました.
同君は更に,光海底ケーブルの大容量化の研究開発を推し進め,光増幅中継方式を用いる世界初の太平洋横断海底ケーブルシステムである第5太平洋横断光海底ケーブルの実現に貢献されました.更に,低雑音光増幅器,低非線形光ファイバの導入により,超高速光信号の波長多重によるテラビット級の超大容量波長多重光海底ケーブル方式開発に世界で初めて成功されました.開発成果は,太平洋・大西洋横断並びにアジア地区の数多くの光海底ケーブルに採用されるなど,同君は,グローバルな大容量国際通信ネットワーク構築,初めての大西洋横断ケーブル全区間供給等の国産技術の国際競争力強化,並びに,約10年間で約1,700倍となる光海底ケーブル容量の飛躍的増大に顕著な功績を上げられました.このように光海底ケーブルのデバイスからシステム設計,実用展開に至るまで正に先導的な役割を果たされました.
本会においては,平成12年に光エレクトロニクス研究専門委員会委員長,平成15年にエレクトロニクスソサイエティ副会長,平成20年に会計理事,平成24年に副会長に就任され,本会活動の発展に貢献されました.また,光エレクトロニクス・光通信国際会議(OECC2000)運営委員長をはじめとして,光通信分野の国際会議の組織委員長やプログラム委員長を歴任され,本会のステータス向上並びに国際協力に顕著な功績を挙げられました.更に,総務省情報通信政策局研究会委員等数多くの要職に就かれ,電子情報通信分野の発展に寄与されました.
これらの業績により同君は,紫綬褒章,文部科学大臣表彰,前島賞,本会功績賞,業績賞,論文賞,学術奨励賞を受賞されています.また本会並びにIEEEからはフェローの称号を授与されています.
以上のように,同君の光通信分野をはじめとする電子情報通信分野の発展への貢献は極めて顕著であり,本会の名誉員にふさわしい方であると確信し推薦致します.
安藤 真君は,昭和54年に東京工業大学大学院博士課程を修了され,同年日本電信電話公社(NTT)に入社されました.横須賀電気通信研究所に勤務された後,昭和57年に東京工業大学工学部電子物理工学科助手となられました.昭和60年に同電子物理工学科助教授,昭和62年に同電気電子工学科助教授,平成7年に同電気電子工学科教授,平成12年に同大学院理工学研究科電気電子工学専攻教授となられ,現在に至っております.
同君は日本電信電話公社横須賀電気通信研究所並びに東京工業大学において,長年にわたり,最先端のアンテナ・電波伝搬・電磁界理論の研究に積極的に取り組まれ,多くの顕著な功績を上げられました.また学生の指導・育成に取り組まれ,多くの優れた卒業生を社会に送り出されました.具体的には,まず電磁界理論の研究を推進し,回折現象の解明,反射鏡アンテナの設計に新しい手法と解釈を与えるなど,高周波回折理論の確率に先駆的役割を果たされました.続いて,アンテナ・伝搬の分野で,高能率平面アンテナの開発を推し進め,国際的にも新しい工学分野を確立されました.特に,先進的なラジアルラインスロットアンテナの研究から実用化に至るまで多くの業績を上げられ,その成果は衛星放送受信用アンテナ,プロセス用プラズマ励振アンテナ,惑星探査衛星「あかつき」「はやぶさ2」搭載データ伝送アンテナとして多くの分野で実用に供され,この分野の発展に大きく貢献されました.また後進の指導育成に務められるとともに,現在においても我が国のミリ波無線通信の推進とその普及に主導的役割を担っておられます.
同君の功績は電波科学・電波工学全体の広範に及び,総務省情報通信審議会専門委員,経済産業省総合資源エネルギー調査会臨時委員,日本学術振興会学術システム研究センター専門研究員(電気・電子工学)を務められるなど国の電波行政や学術創成にも多大な貢献を成されるとともに,IEEE Antennas and Propagation SocietyのPresidentや国際電波科学連合(URSI)のCommission B委員長,更にURSIの副会長など,国際的な学術団体の要職を務められ,この分野における日本及びアジアの国際的貢献を世界に示されました.本会においては,研究専門委員会委員長,編集特別幹事,エレクトロニクスソサイエティ会長,本会副会長として,ソサイエティをまたぐ活動で本会の発展に貢献されました.特に本会のアンテナ・伝搬ワークショップシリーズやアジア地域の基幹会議に発展したアンテナ・伝播国際会議(ISAP: International Symposium on Antennas Propagation)など多くの学術会議事業の企画・運営に独創的な発想で取り組まれ,その立ち上げ・定着化に中核的な役割を果たされました.
これらの業績により同君は本会学術奨励賞・論文賞・業績賞・功績賞,電気通信普及財団賞,井上学術賞,電波功績賞大臣表彰,情報化促進貢献総務大臣表彰,NHK放送文化賞などを受賞されました.また,本会並びにIEEEからフェローの称号を授与されています.
以上のように,同君のアンテナ・電波伝搬・電磁界理論分野をはじめとする電子情報通信分野の発展への貢献は極めて顕著であり,本会の名誉員を推薦するにふさわしい方であると確信致します.
伊藤精彦君は,1963年北海道大学工学部電気工学科を卒業,1965年同大学院工学研究科修士課程を修了し,同年4月北海道大学工学部講師に任用されました.1966年同大学工学部助教授,1979年4月同大学工学部教授,その後大学院重点化に伴い同大学院工学研究科教授を経て,2001年4月国立苫小牧工業高等専門学校校長に任命され,2008年3月定年により同校長を退任されました.
同君は,アンテナ工学の研究を推進し,とりわけ,スロットアンテナ,薄形平面アンテナ,及び,パッチアンテナの研究に,以下に示すような多大な功績がありました.
一つには,北海道大学における伝統研究であったスロットアンテナの研究を推進,新たな応用を開拓されました.まず,スロットアンテナとモノポールアンテナを交差させ,電磁界ダイバーシチを実現するエネルギー密度アンテナを発明,都市内の移動通信におけるフェージング軽減に有効であることを提案されました.次に,多数のスロットアンテナをプリント基板の表面に配列し,裏面に配置したストリップ線路で励振する方式の多素子スロットアレーアンテナにより,衛星放送波を受信する世界で初めての薄形平面アンテナを実現されました.
次に,電磁ループによる効率の良い薄い小形平面アンテナを発明,偏波ダイバーシチを容易に実現できることを明らかにされました.この成果はカードサイズページャ用アンテナとして商品化され,270万ユニットを超える生産がなされました.
更に,方形パッチアンテナをマイクロストリップ線路により電磁界結合励振する方式を考案,放射電磁界の偏波面を電子的に容易に制御可能であることを世界で初めて提案されました.これにより,リモートセンシングへの応用が期待されるポーラリメトリックレーダの実現に新たな展望を開きました.また,マイクロ波による電力伝送に用いられる受電用アンテナ(レクテナ)に円形パッチアンテナを用いることにより,整流器で発生する高調波成分の再放射を抑制することが可能であることを示されました.
これらの成果により,本会から,米澤記念学術奨励賞,業績賞,功績賞,並びに,通信ソサイエティ論文賞を贈呈されました.また,本会とIEEEからフェローの称号を授与されております.
同君は,本会において,評議員,アンテナ・伝播研究専門委員会委員長,及び,通信ソサイエティ会長を歴任し,本会活動の発展に貢献され,また,アンテナ・伝播国際シンポジウムの組織・実行委員会委員長としてアンテナ工学・電波伝搬の国際的な発展にも寄与されました.
同君は,長年にわたり,大学の教員を務め,電子情報通信分野における多くの有為な人材育成に尽力されるとともに,北海道大学評議員,同大学情報メディア教育研究総合センター長,高専の校長等を歴任,また,学位授与機構学位審査会専門委員として学位審査を担当されるなど,教育に関しても多大な貢献をされ,2015年春に瑞宝中綬章を受章されております.
以上のように,同君の本会の発展と,我が国の電子情報通信分野の発展に寄与された功績は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.
菊池和朗君は,東京大学大学院工学系研究科博士課程を1979年に修了され,東京大学工学部専任講師に着任されました.その後,1984年に助教授への昇任,1986年から1987年にBell Communications Researchコンサルタントとして米国での研究を経て,1993年に東京大学工学部教授に昇任されました.1996年に東京大学先端科学技術研究センター教授,2006年に東京大学新領域創成科学研究科教授,2007年に東京大学大学院工学系研究科教授,2016年に大学改革支援・学位授与機構教授,2017年に同特任教授に着任され,今日に至っておられます.
この間,同君は一貫して光ファイバ通信及び光デバイス・光通信方式の研究と教育を推進してこられました.現在のインターネット社会を支える光ファイバ通信は,そのれい明期から大容量化と伝送距離の拡大が求められていました.しかし,20世紀まではディジタル情報を光の強度に重畳して伝送する強度変調―直接検波方式が主流であり,光の波動としての性質は積極的に活用されてはいませんでした.同君は1980年頃から,光の複素振幅に情報を重畳し,光の干渉を用いて光の複素振幅を検出する,コヒーレント光通信の先べんをつけられ,光ファイバ通信実験を通じてその有効性を実証されました.並行して,半導体レーザや半導体光増幅器の雑音解析,光パルスの発生・伝送・計測・制御などの研究を広範に進められました.21世紀に入り,エルビウム添加ファイバ増幅器と波長分割多重(WDM)技術との組合せによる光ファイバ通信の長距離化,大容量化に限界が見え始めた頃,同君はディジタルコヒーレント通信を発明されました.ディジタルコヒーレント光通信では,ディジタル信号処理によって光の位相同期,復調,信号等化等を行うことにより,光複素振幅の多値変復調が可能となり,光周波数利用効率の飛躍的な向上が実現できます.更に,光ファイバの波長分散や偏波モード分散など,信号伝送に悪影響を与える効果を受信端で補償することも可能となりました.同君が開発されたディジタルコヒーレント通信方式は,2010年以降,本格的に商用化され,現在の100Gbit/s長距離WDM伝送システムに用いられています.現在では光ファイバは無線通信以上に理想的な伝送媒体として認識され,より高度な変復調方式の適用が進められています.最新のマルチコアファイバによる伝送容量拡大の研究においても,ディジタルコヒーレント光通信技術は必須の基盤技術となっています.
また,同君は産学界に多くの優れた研究者や技術者を輩出するとともに,東大発ベンチャー企業であるアルネアラボラトリ社のアドバイザリボードを務められ,大学での研究成果の製品化を進めてこられました.また,ディジタルコヒーレント通信の実用化のための産学連携プロジェクトにおける中心的役割を果たされるなど,産業界に対しても多大な貢献を果たされています.
これらの業績に対し,第8回日本IBM科学賞,第80回服部報公会報公賞,Ericsson Telecommunications Award,志田林三郎賞,第11回産学官連携功労者表彰内閣総理大臣賞,NEC C&C賞,John Tyndall賞,本会業績賞,功績賞などを受賞されています.また,学会からは,2004年に本会,2013年にIEEE,2015年にOSAからそれぞれフェローの称号を受けておられます.
以上のように,同君の本会並びに関連する学界・産業界における研究活動による電子情報通信技術への貢献は極めて顕著であることから,ここに本会の名誉員として推薦致します.
坂庭好一君は,1972年に東京工業大学工学部電子工学科を卒業,1977年に同大学院博士課程(電子工学専攻)を修了され,同年,同大学院総合理工学研究科助手に任用されました.1981年に同大学工学部助手に配置換えの後,1983年4月に同学部助教授,1991年6月に同学部教授に昇進されました.その後大学院重点化に伴い同大学院理工学研究科教授となられ,2014年3月に同大学を停年退職されました.現在は,同大学の名誉教授として電子情報通信分野の発展に尽力されています.
在職中,同君は情報通信理論の基礎である,通信理論,信号理論,信号処理アルゴリズム,誤り訂正符号などの分野において,常に先駆的な研究をけん引されることで,学術の発展並びにこの分野における後進研究者の育成において中心的役割を果たしてこられました.
東京工業大学在学時に,当時ディジタル化が検討され始めた通信システムの重要な要素であるトランスバーサル等化器の新しい設計法を提案・確立することによって工学博士の学位を取得した同君は,大学教員に着任後,信号理論・通信理論の研究に着手し,適応形等化器の新しい構成法と等化アルゴリズムについて多くの重要な研究成果を上げるとともに,ディジタル通信システムの根本原理である標本化定理に関する研究に従事されました.特に,従来の標本化定理に基づく信号復元では,原理上,無限大の遅延を必要とすることを指摘するとともに,ナイキスト間隔より密な過去半無限区間の標本値のみを用いた復元公式を示されました.この画期的成果は,ディジタル通信方式の一層厳密な理論的取り扱いを可能とし,内挿フィルタの設計や予測符号化に新しい知見を与え,この分野の発展に大きく寄与しました.更に,当時普及し始めていたファクシミリ伝送で帯域制限ひずみを受けた信号から元信号を復元する方法を示され,ファクシミリ信号の伝送限界とその復元法を原理的に解明されました.同君は1989年に文部省在外研究員として滞在した南西ルイジアナ大学で,情報通信システムを支える基本技術である誤り訂正符号に関する研究を開始,実数体並びに整数環上の符号,代数幾何符号,LDPC(Low Density Parity Check)符号など,誤り訂正符号の新しい分野に携わられ,当該研究分野の確立と発展に大きく貢献されました.
東京工業大学の研究室における教育活動では28名の博士を含む180名以上の学部・大学院学生を指導され,電子情報通信技術分野の将来を担う優秀な後進育成に尽力されました.また,総務省電気通信紛争処理委員会委員長をはじめ,省庁と産業界の多くの審議会に参画され,通信行政政策や通信事業の安定化に中核的な役割を果たされました.学会においても,情報理論とその応用学会会長のほか,本会の基礎・境界ソサイエティ会長,東京支部長,総務理事,編集長など要職を歴任され,指導的立場で学術活動の推進に貢献されました.
これらの業績により,本会功績賞並びに同論文賞(4度)を受賞されるとともに,本会からフェローの称号を贈呈されております.
以上のように,電子情報通信分野の発展に,研究教育及び社会貢献の両面で多大な貢献をされた同君の功績は極めて顕著であり,ここに本会名誉員として,推薦致します.
田中良明君は,1979年に東京大学大学院博士課程を修了され,同年同大学講師に任官されました.その後,同大学助教授を経て,1996年に早稲田大学教授に就任され,今日に至っています.その間,スウェーデン・ルンド大学客員教授,郵政省郵政研究所特別研究官,日本銀行客員研究員,国立情報学研究所客員教授も務めておられます.
同君は,情報通信分野の様々な課題に関して研究を行い,特に,符号化変調,暗号応用サービス,マルチキャスト通信,QoEとプライシングにおいて顕著な業績を上げておられます.
現在,符号化変調と呼ばれる分野があり,活発に研究が行われていますが,同君は45年前に研究を開始した先駆者です.同君は世界で初めてその方式を提案し,それが変調の特性限界を破ったことから驚異をもって受け止められました.符号化変調方式は,現在無線通信の分野でよく使われています.
同君は,通信ネットワークにおける新サービスとして,暗号を応用したサービスを多数検討し,郵便局におけるワンストップ行政サービスにその成果が生かされています.同君が検討を開始した35年前は,暗号応用サービスの検討はほとんど行われておらず,同君の研究が先駆けになりました.マルチキャスト通信の研究も他の研究者に先駆けて35年前から始められたもので,現在のIPマルチキャストにその成果が生かされているとともに,同君が構築したマルチキャストトラヒック理論は同分野の研究において重要な役割を担っています.
同君は更にQoEとプライシングの研究を20年前から開始し,現在も活発に成果を上げておられます.従来ネットワーク品質と言えば物理品質QoS(Quality of Service)でしたが,今日では体感品質QoE(Quality of Experience)が重視されています.体感品質はユーザの満足度であり,ユーザは満足度に対して料金を支払います.同君は,この関係を用いてネットワーク工学と経済学を結び付け,数々の新しい理論,新しいサービスを考案しました.この分野も現在研究が盛んな分野であり,同君がその先べんをつけたと言うことができます.
同君は,本会ネットワークシステム研究専門委員会委員長(1999~2000年度),テレコミュニケーションマネジメント研究専門委員会委員長(2002~2003年度),和文論文誌B編集委員長(2003~2004年度),評議員(2006年度,2010年度),編集理事(2008~2009年度),通信ソサイエティ会長(2012年度)を務められ,本会の発展に多大な貢献をしておられます.また,同君は,情報通信審議会専門委員,日本ITU協会出版編集委員会委員長,日本技術者教育認定機構理事など,社会においても多数の貢献をしておられます.
同君は,30年前から本会主催の国際会議を毎年開催されたり,15年前から大会で英語セッションを毎回開催して4日間英語だけで過ごせるようにされるなど,グローバル化にも尽力されています.同君は教育者としても優れた貢献をされており,これまで多数の人材を輩出され,母国に帰って活躍している外国人留学生も多数います.また,技術者倫理教育の普及を海外にも広げ,健全な技術社会の発展にも尽力されています.
これらの業績に対し,同君は,本会論文賞,業績賞,功績賞,大川出版賞,総務大臣表彰など数々の受賞をされています.
以上のように,情報通信分野の学術の発展並びにグローバル化における同君の功績は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員に推薦致します.
西尾章治郎君は,京都大学大学院工学研究科博士後期課程を1980年に修了され,京都大学工学部助手に着任されました.カナダ・ウォータールー大学客員研究助教授,大阪大学基礎工学部助教授,情報処理教育センター助教授を経て,1992年に大阪大学工学部教授に着任されました.その後,同大学サイバーメディアセンター長,同大学院情報科学研究科教授,同情報科学研究科長,同総長補佐,同理事・副学長を経て,現在,大阪大学総長を務めておられます.
超大量のデータ(ビッグデータ)を社会・学術・日常等あらゆる目的に有効利用するための「データ工学」の研究の重要性がますます高まる中,同君は,ネットワーク環境におけるデータ管理技術,データベースモデル,大量データからのデータマイニング技術の三つの重要課題を中心に,顕著な研究業績を上げてこられました.それらの成果の多くは,定説的な概念を覆し,しかも現実システムに立脚した創造性豊かなものであり,学術及び社会の両観点から重要な指針を与えてきました.
顕著な研究業績の一例として,同君は,複雑な関連を持つデータをより直接的かつ柔軟に格納する能力と,複雑な問合せに対応可能な知識処理機能を有するデータモデルである「演繹オブジェクト指向データベース」の重要性を1970年代後半に主唱し,データベースモデルの確立という根幹的な課題に関して大きな貢献を果たされました.また,ネットワークが急速に高速化する中,データの冗長配置に関する新たな概念や,従来の発想を覆す独創的な概念である「データベース移動」の提唱など,大規模データベース構築の基盤技術に大きな影響を与えられました.更に,現在のIoT(Internet of Things)時代を予見され,情報技術がより深く生活空間に溶け込み,安全で豊かな生活を享受することを目指すアンビエント情報環境を提唱,その基盤技術の創出を先導されました.このアンビエント情報環境は,その後,科学技術政策の重要課題として取り上げられるなど,社会実装に向けて大きく進展しています.
同君は学部生・大学院生の教育研究指導にも熱心に取り組まれ,世界的に活躍する多くの優秀な人材の育成に尽力されました.また,同君は,「生物に学ぶ情報技術の創出」という新たな視点から,情報科学,生命科学,認知科学の先進的な融合により,絶えず変化する社会環境を支え,柔軟性,頑強性,持続発展性を有するシステムを構築できる卓越したリーダー人材を育成してこられました.その活動は,文部科学省が推進する世界トップレベルの博士人材を育成する拠点形成プログラムである21世紀COEプログラム,グローバルCOEプログラム,更に博士課程教育リーディングプログラムにおいて実践されています.
更に同君は,政府関係の審議会や日本学術会議,関係学会等において中心的な役割を果たされるなど,学術の振興に大きく貢献されました.これらの業績や学術への多大な貢献に対して,文化功労者,紫綬褒章,文部科学大臣賞,本会業績賞・功績賞,情報処理学会功績賞など多数の栄誉に浴されており,またIEEE,日本工学会,本会,情報処理学会からフェローの称号が授与されています.これらの業績は極めて顕著であり,本会名誉員として衷心より推薦致します.
間瀬憲一君は,1972年早稲田大学大学院理工学研究科電気工学専攻修士課程を修了され,同年,日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社,NTT)武蔵野電気通信研究所に入所され,1994年から通信網研究所通信品質研究部長,1996年からマルチメディアネットワーク研究所・情報通信アセスメント研究部長を務められました.1983年には早稲田大学から工学博士の学位を授与されております.1999年には新潟大学工学部情報工学科教授に就任され,2004年から同大学院自然科学研究科教授,2013年に同大学名誉教授となられ,同時に自然科学系フェローに就任され,現在に至っておられます.
同君はNTT入社後,通信トラヒック制御の高度化の研究に携わられました.この研究の一環として,トラヒックデータベースを用いてう回路の算出を行う集中制御と,各交換機でリアルタイムの経路選択最適化を行う分散制御を組み合わせたダイナミックルーチングを考案され,日本,ヨーロッパ,カナダで特許を取得,その研究・実用化を先導されました.この方式は,1993年からNTTの長距離中継網へ導入が進められるなど,通信網の経済化・高信頼化に大きく貢献しました.また,通信網設計のシンプル化を目指した網設計システムの開発を主導され,その成果は主にアジア各国で使用されるなど,網設計技術の高度化・体系化にも貢献されました.
新潟大学では,同君はアドホックネットワーク・無線メッシュネットワーク分野で先導的な研究開発を推進されてきました.具体的には,ノード数90を超える世界有数の大規模屋外テストベッド,ルーチングシミュレータなどの開発を主導され,実験環境の整備,内外との共同実験,同分野の国際標準化に尽力されました.また,飛行船,電気自動車,無人航空機などを活用する広域展開形アドホックネットワークという新領域を開拓され,実証的な研究開発を先導されました.新潟県中越地震及び東日本大震災の被災地に無線メッシュネットワークを構築し,臨時通信サービスを提供する実践的活動を通して,本技術の大規模災害復旧時の有用性を検証されました.このように,同君は情報通信ネットワーク分野における新領域の開拓を先導され,本会及びIEEEなどの論文誌に多数の論文を発表してこられました.
これらの業績によって,本会から論文賞(1994年),業績賞(2014年),功績賞(2016年)を受賞されるとともに,本会フェロー(2001年),IEEEフェロー(2005年)の称号も授与されています.本会においては,コミュニケーションクオリティ研究専門委員会委員長(1998~1999年度),会計理事(2004~2005年度),アドホックネットワーク研究専門委員会委員長(2007年度),通信ソサイエティ会長(2008年度),信越支部長(2010年度),副会長(2011~2012年度)などを歴任され,本会の発展に尽力されました.また,産学官連携のアドホックネットワークプラットホームに関するコンソーシアムの設立(2003年)に尽力されるとともに,永年運営委員会委員長を務められ,本分野の研究プロジェクト創出,共同研究推進,産業化の促進などに貢献されました.
以上のように,同君の本会並びに電子情報通信分野における貢献は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.
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