功績賞贈呈

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Vol.100 No.7 (2017/7) 目次へ

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 本会選奨規程第7条(電子工学及び情報通信に関する学術又は関連事業に対し特別の功労がありその功績が顕著である者)による功績賞(第78回)受賞者を選定して,平成28年度は次の5名の方々に贈呈した.

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荒 木 純 道

推 薦 の 辞

 荒木純道君は,1971年3月に埼玉大学理工学部電気工学科を卒業,1978年3月に東京工業大学大学院博士課程(電子物理工学専攻)を修了され,同年4月に同大学院理工学研究科助手に任用されました.1985年4月に埼玉大学工学部電子工学科助教授に,そして1995年4月に東京工業大学工学部情報工学科教授に就任されました.その後大学院重点化に伴い同大学院理工学研究科教授となられ,2014年3月に同大学を定年退職されました.同大学の名誉教授として,現在もなお電子情報通信分野の発展に尽力されています.

 この間,同君は無線通信システムに関係する電磁波工学,アンテナ及びマイクロ波回路,誤り訂正符号,暗号理論,MIMO伝送理論,無線伝搬モデリングなどの分野において,常に先駆的な研究をけん引することで,学術の発展に中心的役割を果たしてこられました.その主要成果は下記のようにまとめることができます.

 (1) 電磁波回路の設計法に関する貢献:同君は大学院博士課程の研究として,フェライト基板ストリップ線路の片側を短絡する簡単な構造で1オクターブを超える広帯域アイソレータを実現されました.更に回路不変量という概念に基づいてサーキュレータや方向性結合器の性能指数を初めて提案されました.その後テキサス州立大学に博士研究員として滞在されている間,円形パッチアンテナやその多層化構造を,Hankel変換法の考案によりその複素共振周波数と遠方界指向性に関する数値演算的に簡明な解を得ることに成功されました.

 (2) 誤り訂正符号と暗号理論の基礎に関する貢献:同君は埼玉大学助教授のときに,誤りと消失を含んだ場合のブロック符号に対する高速復号アルゴリズムをユークリッド互除法の再帰構造化などによって実現されました.また当時最強力と考えられていただ円曲線上の離散対数問題に基づく暗号法に対して,Fermat-Quotientという数学的道具を用い世界で初めて多項式時間内で解読可能なアルゴリズムを数学者佐藤孝和氏と共同で考案されました.このアルゴリズムはほぼ同時期開発した日露英3グループの名前をとって,SSSAアルゴリズムと呼ばれるようになりました.更に非可換二元数環上に新たなディジタル署名法を提案されました.

 (3) 新たな無線通信システムに関する貢献:同君は,東京工業大学教授時代に無線通信の新たな可能性を目指して,ソフトウェア無線,UWB無線,MIMO伝送に取り組まれました.特にリコンフィギュラブルなRF回路として離散時間系に着目,その集積回路設計や空間資源の再構成直交化技術とも言うべきMIMO伝送技術に理論実験両面から先駆的に取り組まれました.

 (4) 教育及び社会への貢献:同君は大学における教育・研究を通じ優れた人材を育成されるとともに,総務省電波資源拡大のための研究開発委員会副委員長をはじめとして,情報通信に関わる省庁,産業界で多くの審議会,調査会に参画され,日本の通信行政政策や通信事業の安定化に中核的な役割を果たしてこられました.本会においても,マイクロ波研究専門委員会委員長,APMC国内委員会委員長のほか,東京支部長,エレクトロニクスソサイエティ会長,会計理事など,要職を歴任され,指導的立場で学術活動の推進に貢献されてきました.

 以上のように同君が,本会並びに国内外の関連学会,大学における研究教育活動,電気通信行政での活動を通して,電子情報通信分野の発展と日本の活性化に寄与された功績は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈呈するに誠にふさわしい方であると確信致します.


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石 田   亨

推 薦 の 辞

 石田 亨君は1976年に京都大学工学部情報工学科を卒業の後,1978年に同大学院修士課程を修了され,同年,日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社,NTT)横須賀電気通信研究所に入所されました.1989年に日本電信電話株式会社情報通信処理研究所主幹研究員,1991年に同コミュニケーション科学研究所主幹研究員を経て,1993年に京都大学大学院工学研究科情報工学専攻教授,1998年に同大学院情報学研究科社会情報学専攻教授になられ,現在に至っておられます.

 同君はマルチエージェントシステム,ディジタルシティ,異文化コラボレーション,言語グリッドなど,多岐にわたって顕著な成果を上げられました.

 NTT入社後,マルチエージェントシステムの研究分野で数々の重要な業績を上げられ,特に,エージェントの自律的な組織構成や,動的環境での実時間探索の研究は高く評価されています.更に研究コミュニティの形成にも精力的に取り組まれ,同分野の最高峰の国際会議AAMASの設立に尽力,初代大会委員長を務められるなど,現在の同分野の発展の礎を築く貢献をされています.

 また,京都大学では,情報通信技術と社会をつなぐことを目的に,基盤研究と現場での実証研究を並行して行うアプローチで様々な研究プロジェクトを推進されました.その一つは,仮想空間上に都市を形成するディジタルシティの研究です.ディジタルシティ京都の取組みでは,実際の都市についての情報を市民や研究組織と協力して集められ,市民や観光客が地理情報システムや3Dインタフェースを通じて仮想的に訪問,エージェントによる支援を受けてコミュニケーションすることを可能にされました.この取組みは,市民や産官学など100名を超えるフォーラムに発展しました.

 同君は更に,言語・文化の違いを超えて相互理解に資するための異文化コラボレーションの研究,協働作業のための多言語環境構築を容易にするために言語資源をサービス化して共有する言語グリッドの研究でも重要な貢献をされています.異文化コラボレーション,言語サービスという概念は同君により発案されたものです.言語グリッドには,現在22か国170組織が参加し,様々な機械翻訳システムや専門辞書を含む220を超える言語資源がWebサービスとして提供されています.また,実証研究の点でも,NPOと協働して,ベトナム農業支援に言語グリッドを応用し,これがベトナム農務省の公式プロジェクトになるなど高く評価されています.

 これらの功績により,IEEE,情報処理学会,本会からフェローの称号を授与されました.また,電気通信普及財団賞テレコムシステム技術賞,文部科学大臣表彰科学技術賞,人工知能学会業績賞,及び,本会業績賞を受賞されています.

 教育面では,京都大学デザインスクールの発足に中心的役割を果たされるなど,情報通信の知識を基に広く社会に貢献する有為な人材の育成に尽力されています.また,社会貢献として,本会では情報・システムソサイエティ会長,本会副会長など要職を歴任されるとともに,日本学術会議会員など科学技術政策の委員としても活動されており,情報通信分野の発展への多岐にわたる功績は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈るにふさわしい方であると確信致します.


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尾 上 誠 蔵

推 薦 の 辞

 尾上誠蔵君は,1982年京都大学工学部電子工学専攻を修了,同年,日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社,NTT)横須賀電気通信研究所に入社されました.2002年にはNTTドコモ無線ネットワーク開発部長,2008年に同執行役員研究開発推進部部長,2012年に同取締役常務執行役員(CTO)研究開発センター所長を経て,2014年に同取締役常務執行役員R & Dイノベーション本部本部長に就任され,現在に至っておられます.

 同君は,日本電信電話公社入社以降,移動通信システムの研究開発並びに普及拡大に尽力され,移動通信システムに関する数々の先駆的な方式・技術の創出や普及推進を通じて移動通信サービスに革新をもたらし豊かなICT社会の創造にまい進してこられました.

 特筆すべき功績は,第3世代移動通信システムの実現に向け,IMT-2000無線アクセス方式としてW-CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)を日本から世界に提案され,新方式・技術に関する研究開発成果を世界に先んじて示すことで,その技術先導性を強力にアピールし,結果,国際標準として採用されるに至る成果を上げられました.

 更に,第4世代移動通信システムの実現に向けては,第3世代システムの更なる能力向上と第4世代システムへの円滑な移行を狙ったSuper3Gコンセプト(第3.9世代システム)を打ち出され,増加著しいトラヒックを収容できるよう,電波資源の有効利用につながる多くの革新的技術の創出と,国際標準仕様策定,及び装置開発と実用化を統括・指揮され,高速・大容量・低遅延の無線アクセスネットワークであるLTEを完成されました.

 同君は上記前者の功績により既に2001年度本会第39回業績賞,2002年度逓信協会第48回前島密賞,2008年度文部科学省文部科学大臣表彰科学技術賞を,更に,後者の功績により2011年度本会第49回業績賞,2014年度文部科学省文部科学大臣表彰科学技術賞を授与されており,これらの功績が移動通信関連の産業界,学術界へ大きく貢献していることが認められています.

 その後も,LTEの発展形であるLTE-Advancedの国際標準仕様策定と開発実用化,第5世代移動通信システムに向けた次世代無線アクセス技術の研究と実証実験をけん引し,移動通信システムの継続的発展と高度化に大きく貢献されております.

 加えて,本会では,2009年5月~2011年5月に通信ソサイエティ副会長及び通信ソサイエティ国際委員会委員長を歴任するとともに,総務省情報通信審議会電波伝搬委員会専門委員及び衛星通信システム委員会専門委員,一般社団法人電波産業会高度無線通信研究委員会副委員長,規格会議委員長及び普及戦略委員会委員長代理,Next Generation Mobile Networks(NGMN)のBoard of Directorsを務めるなど,国内外の移動通信分野,電子情報通信分野の発展への功績は顕著であり,本会の功績賞を贈るにふさわしい方であると確信致します.


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澤 谷 邦 男

推 薦 の 辞

 澤谷邦男君は,1971年3月に東北大学工学部通信工学科卒業,1976年3月に同大学院工学研究科電気及通信工学専攻博士課程を修了して工学博士の学位が授与されました.同年4月に同大学工学部助手に任用され,1987年12月に同助教授,1993年7月に同教授に昇任されました.この間の1992年8月から10か月間は客員研究員として米国オハイオ州立大学電子科学研究所に滞在されました.2013年3月に東北大学大学院工学研究科を定年退職された後の2年間は東北大学未来科学技術共同研究センターの研究支援者を,その後は東北大学イノベーション戦略推進本部レジリエント社会構築イノベーションセンター特任教授・副センター長を務めておられます.

 同君はこの間,アンテナ工学・電磁波工学に関する幅広い研究に取り組むとともに,学生の教育に尽力し,数多くの優秀な研究者・技術者を学界・産業界に送り出されました.

 プラズマ中のアンテナに関する研究では磁気プラズマ中に置かれ静磁界方向に対して任意の方向を向いたダイポールアンテナの入力インピーダンスを理論と実験で解明,また,核融合プラズマの高周波加熱の一つであるICRF(Ion Cyclotron Range of Frequency)加熱に用いるループアンテナ周囲のファラデーシールドの効果を初めて明らかにされました.更に,プラズマ生成用アレーアンテナの最適給電位相分布を明らかにされ,この結果に基づいた成膜実験により均一な膜厚が得られることを示され,大面積製膜性能の向上を可能にされました.

 移動通信用アンテナ及びその解析手法に関する研究では,携帯機きょう体を考慮できる新しい解析手法を考案するとともに,きょう体寸法とアンテナ指向性の関係を初めて理論的に明らかにされました.また,基地局アンテナ技術としてパッシブな散乱素子を平面配列したレフレクタアレーを配置する方法を提案,市街地におけるビル影等の電波の不感地帯解消に有効であることを実証されました.

 核磁気共鳴映像法(MRI)装置に用いられるアンテナ設計の研究では,人体やアンテナ周囲に設けられるシールドを考慮できる高精度な設計法を確立されました.この設計技術は医用画像診断装置メーカで実用に供されており,MRIの普及に大きく貢献をしました.

 更に,環境電磁工学における研究では,不要放射の電磁界解析及び可視化について先駆的な研究を行われました.

 これらの成果に対して本会から学術奨励賞,論文賞(2回),通信ソサイエティ論文賞(2回),及び喜安善市賞が,また,本会とIEEEからフェローの称号が授与されています.更に,東北受信環境クリーン協議会における活動に対して中央協議会表彰を受けておられます.

 同君は本会においてアンテナ・伝播研究専門委員会委員長,東北支部長及び通信ソサイエティ会長を歴任,本会が主催した国際会議では1999年環境電磁工学国際シンポジウム組織・実行委員会副委員長,2000年アンテナ・伝播国際シンポジウム実行委員会副委員長,2004年同組織・実行委員会委員長を務められました.また,本会以外では映像情報メディア学会東北支部長,IEEE Sendai Section Chair,東北受信環境クリーン協議会会長及び情報通信研究機構仙台EMCリサーチセンターサブリーダなどの要職を務められました.

 以上のように,同君の電子情報通信分野における功績は誠に顕著であり,本会功績賞を贈呈するのにふさわしい方であると確信致します.


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福 島 邦 彦

推 薦 の 辞

 福島邦彦君は,1958年に京都大学工学部電子工学科を卒業され,日本放送協会(NHK)に入局されました.NHK内では技術研究所,放送科学基礎研究所,放送技術研究所等を経られ,1989年大阪大学基礎工学部教授に任官されました.1999年には同大学を定年で退任され,電気通信大学電気通信学部教授,東京工科大学教授,関西大学客員教授を経て,現在はファジィシステム研究所特別研究員として自由な立場から御専門であるニューラルネットワークの研究を継続されており,関連する国内外の研究会議に参加され若い研究者との交流を深めておられます.

 同君は,1965年頃から,現代の人工知能技術を支えるニューラルネットワークの研究を推進し,深層学習(Deep Learning)の基本アーキテクチャである,「コグニトロン」や「ネオコグニトロン」を世界に先駆けて提案されたパイオニアです.コグニトロンとネオコグニトロンは,階層形のニューラルネットワークモデルで,大脳視覚野の生理学的な構造予想に基づいて構成されています.同君は,脳における神経細胞の特性を整理し,工学的な観点から,画像フィルタバンクのカスケード接続という単位構造を提案され,脳の高次視覚野の機能を実現させるために,この単位構造を外挿していくネオコグニトロンを提案されました.ネオコグニトロンは,手書き文字の認識といったパターン認識の分野において,その性能が検証され,工学的な意味においても十分実用的な性能を持つことが示されてきました.このようなネオコグニトロンの構造は,2000年代後半から,畳込みネットワーク(CNN: Convolution Neural Network若しくはDCNN: Deep CNN)と呼ばれるニューラルネットワーク構造として認知され,静止画像のパターン認識技術のみならず,音声,動画像,自然言語などのテキストの処理においても多大な影響を与えています.

 同君が一貫して追求してきたネオコグニトロンは,特に画像処理の分野において,2012年以降,デファクトスタンダードとしての地位にあり,国内外を問わず多くの研究者や技術者が,DCNNを対象としたモデル構築やシステム開発を行っています.

 これらの業績は,本会からの2回の論文賞,業績賞,フェロー称号のみならず,2003 IEEE Neural Network Pioneer Award, 2005 APNNA Outstanding Achievement Award, 2012 INNS Helmholtz Awardといった数々の賞により国内外から高く評価されております.また本会においては医用電子・生体工学研究専門委員会委員長をお務めになるなど学会の発展に尽力されました.

 以上のように,同君の電子情報通信分野における功績は誠に顕著であり,本会の功績賞を贈るのにふさわしい方であると確信致します.

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