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本会選奨規程第20条(電子情報通信分野において,学術,技術,標準化などにおいて特に顕著な貢献が認められ,今後の進歩・発展が期待される)に基づき,下記の2件を選び贈呈した.
近接場誘導結合コイルを利用した集積回路の高機能化研究
三浦典之君は,2007年慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程を修了し,同大学にて日本学術振興会特別研究員や特任助教として活躍された.2012年から神戸大学に特命助教として着任し,2016年から神戸大学大学院システム情報学研究科准教授に昇進されて現在に至っている.
同君は,コイルの近接場誘導結合を介した三次元積層ICチップ間の無線通信技術に関する先駆的・包括的な研究を推進してきた.ムーアの法則による限界を突破する鍵技術として,無線通信路の近接磁界モデリングと送受信回路設計技術の体系化に成功した.慶應義塾大学において,基礎研究から実用化研究まで直線的に取り組み,プロセッサやメモリの三次元積層ICの開発とシステム性能の実機実証を成功させている.同技術は現在実用段階にある.
同君は,神戸大学に着任以来,それまでの一連の研究を通じて培った近接場誘導結合コイル技術を発展応用し,ICチップの新機能を探求する研究分野を切り開いている.
一つ目は,ハードウェアセキュリティ機能である.情報の秘匿には暗号化が有効であるが,暗号処理を行うハードウェアに対する物理攻撃により安全性が低下する.暗号回路から漏えいする電磁波から内部情報を盗聴する電磁プローブ攻撃は,非侵襲の物理攻撃として深刻な脅威とされてきた.その抜本的な対策手法として,電磁プローブの接近を場の外乱としてICチップで検知するセンサを考案した.
二つ目は,情報の恒久保存機能である.全世界のディジタル情報は,2020年には40ZByteに達すると言われる.その中には後世へと引き継ぐべき貴重な情報資産が含まれている.近接場誘導結合コイルを利用して,通信と給電を完全無線化することで,高い記憶密度の半導体メモリを安定膜で完全封止し,1,000年を超える寿命の恒久保存メモリを実現できる.IC配線の交点配置型の多層高密度半導体メモリ構造と非接触読出しインタフェース回路を考案した.
同君の電子情報通信分野における貢献は顕著であり,本賞を贈呈するにふさわしい.今後の進歩・発展を期待する.
高精度映像識別技術Video Signatureの開発,標準化,事業化
岩元浩太君は,2003年に早稲田大学大学院理工学研究科修士課程を修了し,同年,日本電気株式会社に入社されました.現在,同社データサイエンス研究所の主任研究員として,画像・映像検索技術の研究開発に注力されています.
同君は,世界中で横行する映像の不正流通問題への対応策となる高精度映像識別技術Video Signatureを確立されました.不正流通したコピー映像を検出するには,まず映像の身元を識別して同一性を判断する必要があります.しかし,従来の電子透かしや色・空間特徴を用いた映像検索技術では,不正コピー映像に多い改変・編集によって信号が変化した映像の識別は困難でした.そこで同君は,多重周波数解析という特徴抽出に多様性を持たせた新たな考えに基づいて,改変・編集に対して頑健に映像の同一性を判断できる映像特徴量方式を考案されました.この技術により,世界で初めて実用レベルの精度と速度で不正コピー映像を検出できるようになりました.
同君は技術開発だけでなく,同技術を映像識別の世界共通の仕組みとするため,ISO/IEC国際標準化にも尽力されました.標準化プロジェクトの中核メンバーとして作業を全面的に主導されたほか,技術提案したVideo Signatureはその圧倒的な識別精度が高く評価され採用に至っています.プロジェクトエディタとして規格文書の執筆も担当され,2010年にISO/IEC規格MPEG-7 Video Signature Toolsの規格発行を実現されました.
同君は,不正流通映像の検出に活用できる同規格に準拠した映像識別ソフトウェアを製品化され,数多くの導入実績を上げられました.それに加えて,CMの放映実績の自動調査システムや,放送局向けの映像管理・検索システムなど,映像を扱う幅広い用途の事業化も実現されています.
以上のように,同君の業績・貢献は極めて顕著であり,今後一層の活躍が期待され,本賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.
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