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解説
断熱原理による超低消費電力論理回路
Ultra Low-power Logic Circuit Using Adiabatic Switching Principle
abstract
超低消費電力技術の一つである断熱原理を用いた論理回路(以下,断熱論理回路)の概要と集積回路への応用例,及び,今後の課題について解説する.断熱論理回路とは,電源電圧を従来の直流からクロック周波数に同期して緩やかに変化する周期波に変更することにより,トランジスタのスイッチング損を抑制し,かつ電源からの供給エネルギーをリサイクルし,超低消費電力を達成する回路のことである.副産物としてスイッチオフ時の漏れ電流も少なくなる.本稿では,最初に断熱論理回路が低消費電力となる原理を述べ,次に,断熱的論理回路の応用例と課題を解説する.
キーワード:断熱原理,断熱的論理,低消費電力,集積回路
一般に断熱原理(adiabatic principle)とは,カルノーサイクルに見られるエントロピー一定の断熱過程(adiabatic process)が可逆過程(reversible process)になることを指す.一方,回路における断熱原理とは,急激な電圧変化から生じる過渡電流が,電圧の遷移に要する時間を無限大にすると,生じなくなることを指す.この原理は,スイッチを含む回路全体に適用可能な低消費電力化の指針になる.すなわち,スイッチング時の急激な電圧変化から生じる過渡電流が,電圧の変化を緩やかにすると少なくなり,スイッチのオン抵抗による損失(すなわちエントロピー生成)を少なくできる.この断熱動作の原理に基づいて低消費電力化した回路を一般に断熱回路と呼び,特に論理回路の場合には断熱論理(adiabatic logic)と呼ばれる.
スイッチング時に生じる過渡電流を抑制するには,いろいろな方法が考えられているが,断熱的回路では,電源電圧の制御で実現するのが特徴である.すなわち,電源電圧を緩やかに変化してスイッチ両端の電位差をゼロにしてからスイッチをオンオフし,その後,スイッチ両端の電位差を緩やかに規定値に設定する.本稿では,ディジタルCMOS集積回路の低消費電力化の面からこの原理を解説する.
回路における断熱原理に基づく低消費電力化の基になる考え方は古くからあったと見られる.文献(1)では,直列抵抗を持つキャパシタを所定の電圧に充電するのに,1回で充電するよりも2回に分けて充電すると,少ない消費エネルギーで充電できることが紹介されている.これは,後の章で述べるが,電圧が瞬時に変化するとき,変化幅の減少の二乗で消費エネルギーが減少することによる.
CMOSトランジスタによる断熱的論理は,1992年にKollerとAthasによって提案されたLC共振回路と差動論理から成る回路(2)が初出である.しかし,断熱的論理の概念は,文献(3),(4)などにおいて1980年代には既に報告がある.また,CMOS誕生以前の1967年には,nMOSロジックによる断熱的論理の集積回路化と動作報告がある(5).
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