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可視光通信の最新動向
小特集 4.
水中可視光通信
Underwater Visible Light Communications
abstract
これまでの水中無線通信は低速な音響通信に頼ってきた.しかしコンピュータで扱うデータの増大に伴い,より高速な無線通信手段として,可視光を用いた水中可視光無線通信が注目されている.我々は水中移動体との高速無線通信を実現するために,青,緑,赤色の可視光レーザダイオードを送信素子に,光電子増倍管を受光素子に用いた光無線通信装置の開発を進めている.可視光は水中でも空中でも伝搬するため,水面をまたいだ通信も可能である.特に太陽光の届かない深海は光通信に適した環境であることから,水中ドローンへの利用拡大が期待できる.
キーワード:可視光半導体レーザ,光電子増倍管,水中,移動体通信,ドローン
水中での無線通信手段として,現在は主に音響通信が用いられている.しかし音の伝搬速度は水中で1,500m/s程度で,使用される周波数は数kHz~1MHz程度であり,無線通信で使われる電波と比較すると圧倒的に遅く,低い.これは音波による高速通信が原理的に難しいことを意味する.しかし,電波は海水の導電性のため伝搬中に大きく減衰するため,現在の携帯電話のような長距離高速通信を海中で期待することはできない.
水中通信の長距離化・高速化の方法として,レーザが発明された1960年代からUWOC(用語)が注目され,研究されてきた.きれいな水中では,波長450nm付近の可視光の吸収が少ない(1).すなわちUWOCは必然的に水中可視光通信(UVLC)となる.また実験においても,例えば1970年代には国内で,水中における波長ごとの光の減衰が計測されている(2).ただし海中にはマリンスノー(用語)などの懸濁物質が多数浮遊しており,それにより伝搬減衰が増加し,通信可能距離が短くなることが経験的にも理論的にも知られている(3).加えて,船舶や水中ロボットは波や潮流などの外乱を常に受け,指向角の狭いレーザの光軸は容易に受信素子から外れ,通信が途絶する.しかし従来のレーザは,広指向性のUVLC装置として使用するには出力が足らず,実用的ではなかった.
近年,GaN系半導体光源の高出力化により,LEDやレーザダイオード(LD)などの高出力かつ低消費電力の,広指向性ダイオード系光源の開発が進んだ.これにより通信光の受光が容易な広指向性のUVLC装置が実現可能となり,水中通信の長距離化・高速化の研究が大きく進展した.例えば海底ステーションからのデータ回収を目的として,UVLCにより80m距離で10Mbit/sを達成している(4).国内でもLEDを用いた通信試験(5)や,LDを用いての1Gbit/sを超える高速通信試験(6),各種変調方式の評価(7)がされている.
水中の移動体としては,古くは人間が乗って操るHOV(用語)がある.近年は母船から有線コントロールするROV(用語)が普及し,深海における海中作業が大きく発展した.現在はいわゆる水中のドローンに相当するAUV(用語)の開発が進み,無線通信の重要性が高まっている.可視光通信を用いれば,これら水中移動体と海底ステーションや,水中移動体同士で,音響通信では不可能だった大容量データの送受信が可能となる.加えて,もちろん空中でも可視光通信が可能であることから,海面をまたいで空中と水中のドローン同士による通信の道も開ける(図1).これら通信はイーサネット規格に準ずることが期待されており,すなわち水中Li-Fi(用語)の実現を目指した研究開発が各国で進められている.
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