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解説
手話コミュニケーションのための情報保障技術
Technology of Information Accessibility for Sign Language Communication
abstract
ろう者の主なコミュニケーション手段は,音声言語とは異なった言語体系を持つ手話である.手話は手の形や運動に表情などが同時に加わり複雑に構成される.このため,言語や認知特性が十分に解明されておらず,認識・翻訳・生成に必要な技術も十分に獲得されていない.本稿では,主に手話を母語とするろう者への情報保障の立場から,手話をめぐる社会的背景,手話を題材とした遠隔情報保障システムの動向を解説する.また,システムの実例として,手話による通訳システムやCGによるサービス例を紹介し,今後の課題について述べる.
キーワード:手話,ろう者,情報保障,画像通信,遠隔手話通訳,手話CG
聴覚障害は,聞こえない,聞き取りにくいことなどに起因するコミュニケーション障害であり情報障害と言える.聴覚障害者を分類する用語として,ろう者,難聴者,中途失聴者などが用いられている.しかし,これらの用語の定義は,使用する人の立場によって異なり,統一はされていない.聴覚障害者を分類する方法には,次の3種類があると考える(1).
(1) 生理的分類:聴力レベルによる分類
(2) 音声と発話の機能的とコミュニケーションの側面による分類
(3) 社会的な分類:文化やアイデンティティによる分類で,障害者自身がどのように認識しているかで分類
本稿では,(2)の分類の考え方を基にろう者と難聴者を以下のように定義する.
・ ろう者:音声言語獲得の臨界期以前に失聴しており,音が聞こえないあるいは,聞き分ける能力のない人.
・ 難聴者:補聴機器を用いることで音声によるコミュニケーションの補助とすることができる人.十分に音声言語を獲得した以降に失聴し,音声を用いて話をして,手話や筆談など音声以外でコミュニケーションを取る人も含める.
厚生労働省の「平成18年身体障害児・者実態調査結果」から,聴覚障害者の身体障害者障害程度等級から見たコミュニケーション手段の状況(複数回答)を表1に示す(2).表1から,最も利用されているコミュニケーション手段は,補聴器や人工内耳等の補聴機器で69.2%となっている.手話・手話通訳を利用している人は,18.9%にとどまっている.しかし,障害程度等級の1,2級の人のみでは,3~6級までの合計が2.5%に対して,実に42.3%と割合が高くなっている.更に,1,2級の人のコミュニケーション手段の総合計は173.2%と様々な方法で情報を得ようとしていることが分かる.この理由には,コミュニケーション場面において健聴者で手話を理解できる人が少ないことや,手話通訳者が少なく手話による情報保障(注1)が十分でないためと考えられる.手話通訳技能認定試験に合格し,手話通訳士として登録を行った手話通訳士数は,3,513人にとどまっている(2017/5/1現在).なお,ろう者の多くは,障害等級が1,2級と考えられる.
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