解説 手話コミュニケーションのための情報保障技術

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解説

手話コミュニケーションのための情報保障技術

Technology of Information Accessibility for Sign Language Communication

長嶋祐二 加藤直人 山内結子 河野純大

長嶋祐二 正員 工学院大学情報学部情報デザイン学科

加藤直人 正員 日本放送協会放送技術研究所

山内結子 正員 日本放送協会放送技術研究所

河野純大 筑波技術大学産業技術学部産業情報学科

Yuji NAGASHIMA, Member (Faculty of Informatics, Kogakuin University, Hachioji-shi, 192-0015 Japan), Naoto KATO and Yuko YAMANOUCHI, Members (Science & Technology Research Laboratories, Japan Broadcasting Corporation, Tokyo, 157-8510 Japan), and Sumihiro KAWANO, Nonmember (Faculty of Industrial Technology, Tsukuba University of Technology, Tsukuba-shi, 305-8520 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.101 No.1 pp.66-72 2018年1月

©電子情報通信学会2018

abstract

 ろう者の主なコミュニケーション手段は,音声言語とは異なった言語体系を持つ手話である.手話は手の形や運動に表情などが同時に加わり複雑に構成される.このため,言語や認知特性が十分に解明されておらず,認識・翻訳・生成に必要な技術も十分に獲得されていない.本稿では,主に手話を母語とするろう者への情報保障の立場から,手話をめぐる社会的背景,手話を題材とした遠隔情報保障システムの動向を解説する.また,システムの実例として,手話による通訳システムやCGによるサービス例を紹介し,今後の課題について述べる.

キーワード:手話,ろう者,情報保障,画像通信,遠隔手話通訳,手話CG

1.ろう者を取り巻く情報保障に関する社会的背景と課題

1.1 聴覚障害とコミュニケーション手段

 聴覚障害は,聞こえない,聞き取りにくいことなどに起因するコミュニケーション障害であり情報障害と言える.聴覚障害者を分類する用語として,ろう者,難聴者,中途失聴者などが用いられている.しかし,これらの用語の定義は,使用する人の立場によって異なり,統一はされていない.聴覚障害者を分類する方法には,次の3種類があると考える(1)

 (1) 生理的分類:聴力レベルによる分類

 (2) 音声と発話の機能的とコミュニケーションの側面による分類

 (3) 社会的な分類:文化やアイデンティティによる分類で,障害者自身がどのように認識しているかで分類

 本稿では,(2)の分類の考え方を基にろう者と難聴者を以下のように定義する.

 ・ ろう者:音声言語獲得の臨界期以前に失聴しており,音が聞こえないあるいは,聞き分ける能力のない人.

 ・ 難聴者:補聴機器を用いることで音声によるコミュニケーションの補助とすることができる人.十分に音声言語を獲得した以降に失聴し,音声を用いて話をして,手話や筆談など音声以外でコミュニケーションを取る人も含める.

 厚生労働省の「平成18年身体障害児・者実態調査結果」から,聴覚障害者の身体障害者障害程度等級から見たコミュニケーション手段の状況(複数回答)を表1に示す(2).表1から,最も利用されているコミュニケーション手段は,補聴器や人工内耳等の補聴機器で69.2%となっている.手話・手話通訳を利用している人は,18.9%にとどまっている.しかし,障害程度等級の1,2級の人のみでは,3~6級までの合計が2.5%に対して,実に42.3%と割合が高くなっている.更に,1,2級の人のコミュニケーション手段の総合計は173.2%と様々な方法で情報を得ようとしていることが分かる.この理由には,コミュニケーション場面において健聴者で手話を理解できる人が少ないことや,手話通訳者が少なく手話による情報保障(注1)が十分でないためと考えられる.手話通訳技能認定試験に合格し,手話通訳士として登録を行った手話通訳士数は,3,513人にとどまっている(2017/5/1現在).なお,ろう者の多くは,障害等級が1,2級と考えられる.


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