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1. 働き方改革に対する取組み
特集 1-4
研究開発職の健康を守るための産業医学的処方箋
A Prescription for Protecting Health of Researching Professionals by Occupational Physician
先日,2016年に研究所(情報通信医学研究所)のメンバーで執筆した「IT技術者の長寿と健康のために」(1)をお読み頂いた本誌編集委員の方から「会誌で働き方改革のための企画を組むので執筆してほしい.」との有難いオファーを頂いた.最先端の情報通信の研究の後,IT企業の産業医として勤務する中で感じたことを文集のようにまとめた本である.帯に日本学術振興会理事長安西祐一郎先生から「何よりも人が大切.生きろ!」とのお言葉を頂いた.巻頭に道半ばで逝った仲間の名前を列挙した.インターネットや情報処理の発展のために何よりの貢献を残して散った彼らのことは何度思い返してみても口惜しい.
産業医となる前に思っていた「IT技術者はインテリジェンスが高く健康への意識が高いので健康上の問題はさほどではなかろう」という予想は見事に外れた.現場には,肥満,喫煙,大酒飲み,生活習慣病は当たり前.仕事依存,適応障害,睡眠障害から軽い妄想性障害まであらゆる「症候」を持つ人たちがいた.本稿では研究開発職における働き方改革について,技術開発の内容や組織の運営内容を理解した上で彼らの健康を守るための具体的方策について述べる.
表1に本稿で想定する学生,研究者,大学教員,社員の諸相とメンタル疾患(主に鬱病)発症時に彼らが受けられるサポート,鬱病発症のリスクとなる原因などに関し雑ぱくにまとめた.ここで満了日とはメンタル疾患などで休学したり休職したりする場合,無限に休めるのではなく在籍できる年限が異なっていることを示す.また,社会保険に加入する研究者,大学教員,社員の場合,休職し傷病を治療する期間につき無限ではないが収入の補償を受けることができる(傷病手当金).それぞれの場合において少しずつ立場の違いでサポート体制も異なる.本稿をお読み頂く中でこのような差異を前提とする.
筆者はNICT(情報通信研究機構)時代,「我々国立研究所の研究者は,研究の最先端を担っている.命を削ってでも技術や研究の発展に尽くさねばならない.24時間365日実験し論文を書く.事情を理解しない産業医から休暇取得や受診勧奨等と言われても,多忙で受診は無理.完全成果主義の成果が出なかったら誰が責任を取ってくれるのか?」と言い,平気で産業医面談を拒否した.労働契約に違反する行為である.不摂生の末,心筋梗塞を起こしたのは幸い休日のゴルフ練習場だった(2).
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