特集 2-4 高齢者の社会参加を支えるICT

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Vol.101 No.5 (2018/5) 目次へ

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2. 働き方改革を支えるICT 
【多様な働き方を支えるICT】

特集 2-4

高齢者の社会参加を支えるICT

Accelerating Elderly Social Participation by ICTs

小林正朋 檜山 敦

小林正朋 日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所

檜山 敦 東京大学先端科学技術研究センター

Masatomo KOBAYASHI, Nonmember (IBM Research-Tokyo, IBM Japan, Ltd., Tokyo, 103-8510 Japan) and Atsushi HIYAMA, Nonmember (Research Center for Advanced Science and Technology, The University of Tokyo, Tokyo, 153-8904 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.101 No.5 pp.475-480 2018年5月

©電子情報通信学会2018

abstract

 日本は世界随一の高齢化国である一方,大多数の高齢者は介護や支援を必要とせず,就労や社会参加の意思を持つ「元気高齢者」が多い.クラウドソーシング等,情報通信技術(ICT)を基盤とする新しい働き方の普及により,より多くの高齢者に活躍の場を提供し,就業希望と就業実態のギャップや孤独化といった社会的な課題の解消が期待できる.本稿は,二つの実証実験の事例を通し,ICTを活用した高齢者のオンライン就労(クラウドソーシング)及びオンサイト就労(地域就労/生きがい就労)の可能性を示す.

キーワード:超高齢社会,元気高齢者,クラウドソーシング,生きがい就労,高齢者クラウド

1.は じ め に

 よく知られているとおり,日本は世界随一の高齢化国である.総人口に占める高齢者(65歳以上)の割合は戦後一貫して増加しており,総務省統計局の報告(1)によれば2017年10月時点で27.7%と推計されている.男性の4人に一人,女性の10人に3人が高齢者である.とはいえ,現在のシニア層に「社会“が”支える」という旧来の高齢者観はもはや当てはまらない.高齢社会白書(2)によれば,60歳以上の就業者の約4割が「働けるうちはいつまでも」働きたいと希望している.同年齢の高齢者の身体能力が10年間で10年分若返っているという調査(3)もある.若年者人口の減少と考え合わせれば,こうした「アクティブシニア(元気高齢者)」層の更なる活躍を引き出す場の開拓が今後ますます求められるようになると考えられる.

 高齢者は,就労を含む社会参加に対し収入だけでなく生きがいや健康維持といった多様な目的を持つ.リクルートワークス研究所の報告(4)では,インタビュー調査の分析に基づき「(時間や責任の面で)無理なく」「(社会や若者の)役に立つ」の二つが高齢者の就労ニーズの必須要件とされている.しかしながら,そうした多様なニーズを満たす場が十分に用意されているとは言い難い.一方,クラウドソーシング等,ICTを用いた新しい働き方が若年者を中心に普及しつつある.こうしたテクノロジーの対象をシニア層へ拡大できれば,より多くの高齢者に活躍の場を提供し,彼らの力を「社会“を”支える」力として活用できるようになるだろう.

 高齢者のICT利用を考える際,視力や聴力の低下,心理的なハードルを含め,留意すべき課題は多い.原田ら(5)は認知的高齢化の観点から「使いにくさ」の4層モデルを提唱し,単に身体機能や認知機能だけでなくメンタルモデルやステレオタイプなどより高次の認知過程の影響を示唆している.テクノロジーに対し高齢者は「受け身」の態度を取る傾向にあり(6),トライアル&エラーを避け事前の講習やマニュアルを望む等,学習過程の特徴が若年者と異なることも知られている(7).高齢者向けICTシステムのデザインにあたっては,それらの観点に総合的な注意を払う必要がある.


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