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解説
Webプロトコルの標準化動向
Progress in Standardization of Web Protocol
abstract
エドワード・スノーデンが明らかにした国家レベルの広範囲な盗聴行為は,それまでのIETFの標準化の在り方を一変させた.新しく標準化されるプロトコルは,全て暗号化対応が必須となり,サービス提供者は,全面的に暗号化通信を行うことが求められるようになった.一方で,モバイル環境や動画像の普及に伴い,ネットワークに求められる要件も大きく変わってきた.モバイル端末のWi-Fiと携帯回線の切換は,再接続に伴うネットワークレイテンシの影響を大きく受けるようになった.ネットワークふくそうによるパケット紛失の増加は,動画像通信で必要とされるスループットを大きく低下させる要因でもある.従来の通信仕様では,このように変化してきたネットワーク環境を最適化することは難しく,これらの課題を解決すべく,安全で高速なTLS1.3とQUICの標準化が現在進んでいる.
本稿では,これまでの歴史的な経緯を含めてWebプロトコルの標準化動向について述べる.
キーワード:Web,HTTP,HTTP/2,TLS,QUIC
現在,インターネットトラヒックの大部分はWebプロトコルであると言えよう.国内ISPのIIJが公開した2017年統計によると,光ファイバのブロードバンドサービスでは,Webプロトコル(TCP: 80,443,UDP: 443)の利用が全体の75.5%を占める(1).モバイルネットワークでは,その割合が87.5%にまで増加する.
そのうち暗号化通信のHTTPSのトラヒックは,平文通信のHTTPを超えてきたと報告されている.この傾向は,GoogleやMozillaによるブラウザの利用統計結果とも合致し(2),近年Webプロトコルの使われ方が大きく変わり始めたのである.
従来からWebプロトコルの中心は,TCP(Transmission Control Protocol)の80番ポートの上でやり取りされるHTTPであった.TCPは,IETF(Internet Engineering Task Force)において1974年に規定されたトランスポート層プロトコルであり,現在もTCPの基本的な仕組みは変わらず,TCPは広く使われ続けている.
HTTP(Hypertext Transfer Protocol)は,1990年前半に大量のデータや文書を管理するために開発されたプロトコルであったが,1993年にブラウザの登場とともに急激に普及し,現在ではインターネットの主流プロトコルとなっている.現在使われているHTTP/1.1は1997年に策定された.しかし曖昧な部分が多かったため,2014年に再度詳細に仕様化が行われたものである.
インターネット上でパスワードやクレジットカード等重要なデータのやり取りをする場合,TCPの443番ポートでHTTPS(HTTP over TLS)が利用される.TLS(Transport Layer Security)は,インターネット上で機密性・完全性・真正性を実現するセキュリティ通信である.TLSの最初のバージョン1.0は,旧ネットスケープ社が開発したSSL(Secure Socket Layer)3.0をベースにして,1999年にIETFで規定された.
図1に1999年当時のWebプロトコルのスタックを表した図を示す.下から上に,トランスポート層からアプリケーション層まで使われているプロトコルを表す.HTTPは,TCP上でHTTP/1.1が使われており,HTTPSは,SSL3.0やTLS1.0のセキュリティ通信上でHTTP/1.1が使われていた.HTTPの仕様は,長らく大きく変わらず,多少の機能の追加が行われているだけであった.
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