小特集 6. 高臨場感コミュニケーションにおける聴覚的臨場感の階層的印象推定モデル

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高臨場感映像・音響が創り出す新たなユーザ体験の評価技術

小特集 6.

高臨場感コミュニケーションにおける聴覚的臨場感の階層的印象推定モデル

Hierarchical Estimation Model of Sense of Auditory Presence in High-realistic Communication

谷口高士

谷口高士 大阪学院大学情報学部情報学科

Takashi TANIGUCHI, Nonmember (Faculty of Informatics, Osaka Gakuin University, Suita-shi, 564-8511 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.101 No.8 pp.804-811 2018年8月

©電子情報通信学会2018

abstract

 高臨場メディアに対応したサービス品質と視聴者の体感品質を推定するための測定指標として,聴覚的臨場感がある.筆者は,音響コンテンツのマルチチャネル再生における音響特徴量から視聴者の知覚的印象を推定し,そこから更に臨場感や空間的な印象などのより高次で複合的な印象を推定するための尺度として,聴覚的臨場感に関する階層的印象語リストを開発した.また,この尺度を用いて,放送番組で使用されるような各種のマルチチャネル音源に対する聴取評価実験を行い,高臨場感コミュニケーションにおける聴覚的臨場感の階層的印象推定モデルを作成した.これにより,空間や音響の特徴に基づく幾つかの独自あるいは共通の基本印象が各複合印象に寄与し,更にそのうちの少数の複合印象が臨場感に強く寄与するという,聴覚的臨場感における基本印象と複合印象の階層的な関係が明らかになった.

キーワード:聴覚的臨場感,階層的推定,高臨場感コミュニケーション,ユーザエクスペリエンス

1.研 究 背 景

 高臨場感あるいは超臨場感コミュニケーション(High/Ultra-realistic Communication)技術は,臨場感(sense of presence)を高めることで,対象をより深く体験し理解するだけでなく,遠く離れている人との相互理解や感動の共有までも可能とするものである.これを実現するための技術として,映像分野では超高精細技術や立体映像技術,音響分野ではマルチチャネル音響システムや音場再現システムなどの研究開発や実用化が進んでいる.しかし,臨場感あるいは超/高臨場感そのものの概念や,それらに関わる物理的及び心理的な指標は,まだ確立されているとは言えない.

 「臨場感」の辞書における定義は「実際その場に身を置いているかのような感じ」(1),「現場にのぞんでいるような感じ」(2),(心情や環境のディテールが)「その場に居合わせなければとうてい体験出来ないような瑣末な事の描写を通じ,ありありと伝わってくる感じ」(3)などで,実際にはここには存在していない空間や対象がここにある,あるいは,そこにいないはずの自分がその空間に存在して対象に向き合っているという,仮想的あるいは擬似的な感覚体験である.一方で,日常的には,実際にある場面や対象に臨んでいる場合や,正にその体験をしている場合に使用されることもある.また,存在に関わるpresence,‘もの’の確からしさに関わるreality,人の活動的な関わりを重視するactualityなどが混在した概念でもある.更に,フィールドの再現性やオブジェクトの実在感,コンテンツへの感動やシステムの特性など,様々なタイプの臨場感が考えられる(4).臨場感の概念や要因は研究者間で完全に一致してはいないが,ある程度共通するものもある.例ば,Lombard & Dittonは多くの文献を展望して,臨場感を忠実な再現や没入などの六つに分類している(5).Witmerほかは,VR(Virtual Reality)環境における臨場感に寄与する要因として「コントロール,感覚,分離,リアリズム」(6),その後,「自己関与,適合感・没入感,感覚的忠実さ,インタフェースの質」の4因子を提唱している(7).国内では,吉田らが「評価性,迫力,活動性,機械性」(8),あるいは「評価,力量・活動,刺激構造,非日常性」(9)を,山口らは「実物との類似,力動」を挙げている(10).井ノ上は,臨場感は「空間,時間,身体」の3要素で構成され,多感覚情報統合による外的要因と記憶などの内的要因の影響を受けるとしている(11)


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