特別小特集 新しい時代の知的財産戦略を考える 編集にあたって

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Vol.102 No.1 (2019/1) 目次へ

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特別小特集 新しい時代の知的財産戦略を考える 編集にあたって

編集にあたって

編集チームリーダー 糸田 純

 2018年,政府は新たな「知的財産戦略ビジョン」を公表した.2025~2030年頃を見据えた社会像と新たに生まれる価値とは何かを示し,それらを支える知的財産システムの在り方と政策の方向性をビジョンとしてまとめた.

 IoT,ビッグデータ,AI,ロボット等の第四次産業革命技術とディジタルトランスフォーメーションを背景とした「Society5.0」と言われる超スマート社会の実現に向け,技術革新と社会実装が急速に進んでいる.我々を取り巻く生活環境,ビジネスの様態,研究開発の進め方にも大きな変化が認められる.

 我々研究開発者はこうした変革を鋭敏に捉え,新しい時代の知的財産戦略を考えていく必要がある.研究開発と知的財産は不可分であり,知的財産の創造・保護・活用に対する理解と実践により練られる知的財産戦略こそが,研究開発成果の普及・展開の成否の鍵を握ることを改めて認識して頂きたいと思い,本特別小特集を企画した.

 第1章は,「知的財産戦略ビジョン」の策定を主導した内閣府知的財産戦略推進事務局長の住田孝之氏に,ビジョンの骨子を概説頂いた.需要主導のイノベーションへの変質,シェアや共感を重視する価値観の広がり等の様々な変化を概観しつつ,日本固有の特徴を考慮に入れた未来社会とはどういうものか,そこに必要な知的財産戦略とは何かを,専門委員会での議論状況も含め解説頂いた.

 第2章は,イノベーションによる新たな価値創出とビジネスの加速度的変革により表出する知的財産面の課題と,それに呼応した制度・政策及びビジネスを有利に進めるための知的財産戦略について,知的財産業界を代表する4人のオピニオンリーダーから提言と解説を頂いた.

 まず,日本知的財産学会の会長である渡部俊也氏に,日本の知的財産戦略の変遷と,第四次産業革命時代におけるAI・データの利活用に関する政策を中心に解説頂いた.加えてグローバルなデータサプライチェーンの確立に向けた政策の必要性や,ブロックチェーンの知的財産管理への応用に関する課題提起もして頂いた.

 鮫島正洋氏には,事業化における特許の重要性と研究開発者が特許を出す目的と意義について解説頂いた.コラムにある必須特許ポートフォリオ論は実に分かりやすいので併せて御一読頂きたい.

 杉光一成氏には,複数の知的財産権(特許・意匠・商標等)を戦略的に組み合わせて,製品やサービス,技術を保護する,知的財産ミックス論について,事例を交えて解説頂いた.

 鶴原稔也氏には,「つながる」社会に不可欠な標準化と知的財産の関係について,無線通信分野を題材に歴史的な変遷と,現在顕在化している課題について解説頂いた.

 第3章は取得した知的財産権(主として特許)の活用事例について大学,企業から3件紹介頂いた.

 まず,山本貴史氏に日本における産学連携活動の状況と大学発ベンチャーの起業について解説頂き,御自身がTLO代表取締役社長を務める東京大学におけるイノベーション創出事例を紹介頂いた.

 工藤周三氏には,iPS細胞技術に特化した技術移転機関として京都大学により設立されたiPSアカデミアジャパンにおける,iPS細胞技術の知的財産に関する取扱いの基本方針と当該技術の普及に向けた展開戦略(ライセンスプログラム)を紹介頂いた.

 最後に,自社で使われていない休眠状態にある特許を広く社会に還元(ライセンス)することで,産業や地域の活性化に貢献する取組みを進める富士通の広瀬勇一氏に,社会共生型の特許活用について「知財マッチング会」を中心に紹介頂いた.

 以上,8編による本特別小特集が,知的財産戦略の意義と重要性を,改めて考えて頂く機会となれば幸いである.

 最後に,本特別小特集の趣旨に賛同頂き,御多忙にもかかわらずお力添えを頂いた執筆者の皆様,企画立案段階から多大な協力を頂いた編集チームのメンバー,及び学会事務局に対し深く御礼を申し上げる.

特別小特集編集チーム

 糸田  純  武永 康彦  菊間 一宏  石黒 仁揮  井ノ上直己  菊池 恵子  豊田 義元  中島 裕美  高野 紀夫  西川 英毅  永田 健悟  小川  禎  沖川  仁 


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