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小特集
触力覚通信の歩みと高品質化
編集チームリーダー 菅原真司
近年の計算機ハードウェア技術の発展と通信の広帯域化に伴い,インターネットのような大規模ネットワーク上では様々なデータ・コンテンツが交換されるようになった.比較的初期段階からの画像・映像情報,音楽・音声情報などに加え,近年は触力覚情報,すなわち物を手で触ったときの感触や力の大きさをリアルタイムに遠く離れたユーザ間で交換できるようになった.その応用分野はアミューズメントから医療まで非常に多岐にわたることから,産業としてこれから大きく進展する潜在能力があるものと期待される.
触力覚データ・コンテンツの通信技術は,狭帯域のネットワークでユーザインタフェースの選択肢も少ない時代から様々な工夫が重ねられて現在の技術に至っており,この分野に多くの方に興味を持って頂くことで,更なる発展を促すことを目的として本小特集が企画された.
まず第1章では,本小特集全体を俯瞰し,触力覚通信の概要,歴史,特徴に加え,力覚として認知される力の基本的な計算方法や転送方式について解説する.
続く第2章では,人間が感じる触力覚をディジタル情報に変換し,逆に元に戻すインタフェース装置について代表例を挙げ,動作の自由度,制御法の観点から分類,解説する.
第3章では,人間の触力覚に関する知覚特性について,医学的・心理学的見地及び物理的・工学的見地の両面から解説を試みている.
第4章では,触力覚通信における安定化について解説する.この技術は遠隔地にある装置を制御する際に発生する制御情報の遅延やジッタに対処しながらいかに操作を安定させるかという問題に挑むもので,力学的ハウリングや,通信遅延と遠隔制御におけるトランスペアレンシの関係などを説明する.
第5章では,触力覚通信におけるQoS制御について解説する.通常のQoSと同様に,主として物理的な指標で評価される,ユーザの違和感をできるだけ軽減する技術であり,メディア同期制御,因果順序制御,一貫性制御など触力覚通信に特有のものを含め,様々な工夫がなされている.
第6章は,触力覚通信技術の応用事例としての遠隔手術に関する解説である.現時点では遠隔地の手術対象から受ける力を執刀医にフィードバックする機構は必ずしも十分には確立されておらず,これを実現するためには触力覚センシングと通信の二つの課題があることが示唆される.
以上の構成から,読者の皆様には,これまでの触力覚通信の歴史と現状,及び今後の展望について広範囲にお伝えできるのではないかと自負している.編集チームリーダーを務めさせて頂いたことで,少しでも多くの読者に,この分野のパイオニアが語る技術の過去と未来に耳を傾けて頂く機会を提供できたなら大変幸いである.
最後に,本小特集の企画に御賛同下さり,御多忙の中大変貴重な記事を御執筆下さった,名古屋工業大学の石橋豊教授をはじめとする執筆者の皆様,本小特集の実現に御尽力下さった菊間一宏氏をはじめとする編集チームの皆様,そしてスケジュール管理から原稿の校正,編集会議での様々な御助言まで多岐にわたりチームを支えて下さった学会事務局の皆様に深くお礼を申し上げたい.
小特集編集チーム
菅原 真司 菊間 一宏 小林 崇春 齋藤 恵 芝 宏礼 西本 研悟
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