小特集 4. 触力覚通信における安定化制御

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触力覚通信の歩みと高品質化

小特集 4.

触力覚通信における安定化制御

Stabilized Control in Haptic Communications

三好孝典

三好孝典 豊橋技術科学大学機械工学系

Takanori MIYOSHI, Nonmember (Mechanical Engineering, Toyohashi University of Technology, Toyohashi-shi, 441-8580 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.1 pp.57-63 2019年1月

©電子情報通信学会2019

abstract

 本稿では,触力覚通信におけるシステムの不安定性を抑えるために必要な安定化制御技術と,その効果について紹介する.まず,通信遅延が力学的ハウリングを発生させる原理を説明し,その抑制に有用な受動性の考え方と,それに基づいた様々な安定化方策を紹介する.次に,筆者らが取り組む位置・力バイラテラル制御の基本構造について解説し,Wave filter・位相補償フィルタによって,トランスペアレンシの劣化を抑制することが可能であることを示す.最後に,マルチラテラル遠隔制御の手法について言及し,今後の展望を述べる.

キーワード:通信遅延,力学的ハウリング,トランスペアレンシ,バイラテラル制御・マルチラテラル制御,受動性

1.は じ め に

 ANA AVATAR XPRIZE(1)が始まっている.これは人類に利益を与える技術開発を推進する国際賞金レース「XPRIZE」の一環で,最近の関連事業では民間月探査レースGoogle Lunar XPRIZE(2)(民間が開発したロケット・探査機で月面を無人探査する試み)が耳目に新しい.何千万ドルもの賞金レースの是非はともかく,AVATAR XPRIZEでは,VR・AR(視聴覚),ハプティクス(触覚),ロボティクスなどの技術を複合させて,自分が実際に移動せずとも,現地にいる「アバタ(=分身)」を用いて,物理的に物を動かしたり触ったりできる最先端テクノロジーの実現を目指している.正に本小特集のテクノロジーがキーポイントとなる賞金レースである.

 そのルールによれば,少なくとも100km以上先の仮想遠隔地に存在するアバタを介して,定められたタスクをこなせばよいのであるが,筆者の第一印象は「なぜそんなに近く? 100kmなら名古屋―浜松,東京―熱海で新幹線で30~40分だし,アバタなど使わずに直接行けばよいのに」と思ってしまった.本稿で述べる「安定性」の問題を意識してのことかもしれないが,ならばなおさら1,000万ドルを懸けて,この問題の解決を呼び掛けてほしかったところである.もっとも,お金では解決できない「ハウリング」という物理法則に立脚している課題ではあるのだが….

2.触力覚通信の課題とこれまでの研究

2.1 力学的ハウリングによる安定性の破壊

 ハウリングと聞いて真っ先に思いつくのはマイクとスピーカ間で起こる,あの「キーン!」という音だろう.これがインターネット越しに起きる状況は図1(a)のように描かれる.遠隔地Aのマイクに入力された音が遠隔地Bのスピーカから出力され,それが再び同地Bのマイクに入ってしまう.その音は,当然遠隔地Aのスピーカから出力され,再び同地Aのマイクに入り込んでしまうことによって無限ループが構成され,大きな発振音になってしまうものである.遠隔Web会議等で経験された方もいるかもしれない.


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