特別小特集 3. 半導体量子ドット結晶が実現する新しい光機能性

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特別小特集 3. 半導体量子ドット結晶が実現する新しい光機能性

村山明宏 北海道大学大学院情報科学研究院情報エレクトロニクス部門

Akihiro MURAYAMA, Nonmember (Faculty of Information Science and Technology, Hokkaido University, Sapporo-shi, 060-0814 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.10 pp.938-941 2019年10月

©電子情報通信学会2019

1.は じ め に

 現代のインターネット社会では光通信の高速大容量化が必須である.同時に,その消費電力の削減が非常に重要である.更に,大規模な電子回路システムの長大で複雑な信号配線の電流熱損失対策として,光による信号伝送を行う光配線も開発が進められている.また,太陽電池の高効率化も持続的社会の構築に向けて重要である.これらの目的に対して,荒川らにより提案された半導体量子ドットと呼ばれる光デバイス材料が非常に注目され一部実用化も始まっている(1)(3).量子ドットとは大きさが数十nm程度以下の半導体単結晶であり,強い量子閉込め効果により極めて少数個の電子を保持することができる.この量子ドットをレーザなどの光デバイスの光学活性層に用いると,電子と正孔を空間的に同じ場所に閉じ込めることで発光再結合確率を高めることができるため,発振しきい電流を下げることが可能である.更に,三次元方向の閉込め効果により電子の状態密度がエネルギー的に完全に離散化するため,pドーピングを併用することで環境温度の変化に対して発振波長が安定になる(3).そのため,消費電力の大きな冷却素子が不要になる.このように光デバイスの消費電力の抜本的な削減が可能になるため,量子ドットを用いる光デバイスの普及が強く望まれている.更に将来的には,量子ドットに単一電子を注入することでオンデマンド型の単一光子の発生も可能であるため,量子エレクトロニクスへの貢献も期待されている.

 半導体量子ドットの作製については,自己組織化法と呼ばれるエピタキシャル結晶成長が一般的である(2),(4).材料としてはGaAs層表面に成長させるInAsやmathmath量子ドットが代表的であり,発光波長は1.1~1.5µm領域にある.自己組織化量子ドット形成の駆動力は積層材料の格子定数差により生じるひずみエネルギーの増加である.そして,量子ドット自体は単結晶であるため光デバイスに致命傷となる欠陥の形成がなく,また層状構造に埋め込むことが可能であるためデバイス形成も容易であるなど,大きな利点を持つ.しかしながら,自己組織化量子ドットの結晶成長においては以下の問題がある.まずドット密度を増加させる必要がある.個々のドット自体は非常に小さく少数個の電子正孔対による発光再結合しか生じないため,ドット集合体を用いるデバイス全体の発光やレーザ強度は弱い.また,自己組織化法ではドットの形状やサイズに不均一性が生じて閉込め効果の強さが不均一となるため,発光再結合エネルギーすなわち発光波長に広がりが生じる.これらの問題については,ドット層の結晶成長条件を最適化することにより面内ドット密度の高密度化とサイズの均一化を図り,更に多層化による密度の増加を組み合わせることで実用的な性能が得られている(2),(3)


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