特別小特集 2. 透明媒質表面の微細構造と光反射

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特別小特集 2. 透明媒質表面の微細構造と光反射

酒井大輔 北見工業大学工学部地域未来デザイン工学科

Daisuke SAKAI, Nonmember (School of Regional Innovation and Social Design Engineering, Kitami Institute of Technology, Kitami-shi, 090-8507 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.10 pp.934-937 2019年10月

©電子情報通信学会2019

1.緒     言

 「目に見えないように透明になりたい」と考えたことはないだろうか? 物体が目に見えるということは,太陽光などの照明光が物体に当たり,拡散・反射した光が,物体の形や色といった光情報として目に入ることである.自然界の生物にとって,自分が他者から見えるということは,仲間に己を認識してもらえるというメリットと引換えに,捕食者などの外敵にも自分を発見されてしまうというデメリットが存在する.光の反射は屈折率の差により生じるため,ガラスなどの透明な媒質でも空気との屈折率差で反射が生じることを身近に体感できる.だが,屈折率差の存在する界面に,波長以下の微細な構造が存在すると,反射が起こらなくなることが知られている(1).蛾の目(モスアイ)などで知られるこの現象は,入射光に対し,媒質間の屈折率差が微細構造により緩やかに変化するよう作用することに起因する.筆者は工学研究者であり,電界処理を用いたガラスへのホログラムや反射防止構造などの微細パターニング法に関し研究してきたのだが,近年,海洋生物の研究者と共同研究する機会が得られた.興味深いことに,透明な海洋生物の表面には反射を低減し得る波長以下の微細な突起構造が存在していた.本稿では,透明生物が海中で生存する中で得た微細構造の光学特性の解析と,そのような構造を工学的にガラス上へとパターニングするために行った研究について紹介する.

2.透明な海洋生物「サルパ」の表面構造と光反射

 話を自然界での反射に戻そう.普段,陸上では余り透明な生物を見掛けることはないが,海中にはくらげやクリオネなど多種の透明な生物が存在している.中でも,今回紹介するサルパは,被嚢(ひのう)と呼ばれるセルロースを主とする繊維状の透明な基質が表皮を覆っている(図1(a)).このサルパのうち,トガリサルパ属(math)やワサルパ属(math)等の種は,1日の行動で非常に特徴的な動きを見せる.太陽が昇っている間は海中深くに移動しており,太陽が沈んでから表層まで浮上してくる(2).日周鉛直移動として知られるこの行動は,多くの動物プランクトンで知られており,光に反応した行動と言える.なぜこのような動きをするか,完全には解明されていないが,その理由の一つとして,日中明るい表層に存在すると,視覚を使った捕食者である魚類や海亀等に見つかってしまうことからの逃避行動であることが示唆されている.


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