電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
© Copyright IEICE. All rights reserved.
|
先日,イングランド銀行が,新50ポンド紙幣の肖像にアラン・チューリングを採用したと発表しました.また,コンピュータサイエンス分野のノーベル賞として知られる「チューリング賞」の2018年の受賞者に,ジェフリー・ヒントン,ヤン・ルカン,ヨシュア・ベンジオの3氏が決まりました.受賞理由は,ディープニューラルネットワークがコンピューティングにとって重要な要素技術になるまでに,人工知能(AI)分野における概念及び工学的なブレークスルーを生み出したことです.これらアラン・チューリングに関連するニュースからも分かるように,今日,様々な分野でAIが注目されています.AIは多くの応用例で,人間を凌駕する性能を示しています.囲碁や将棋では,世界トップレベルのプロ棋士に勝利しています.また,画像認識精度の高さから,自動運転や産業用ロボット,医療分野など様々な分野で応用が期待されています.
現在のAIブームは3回目のものです.これまでのAIブームに比べて,今回,AIが実社会で使われ始めたのには,様々な要因があります.その大きな要因として,ビッグデータの収集が可能になったこと,それを処理する深層学習などのアルゴリズムが進展したこと,アルゴリズムの実装に適したGPUが高速かつ安価になったこと,などの技術的発展が挙げられます.AI技術は,情報学だけでなく,脳科学,物性科学,電子工学ほか,様々な学問分野にまたがっています.また,先に述べたように,AIは様々な分野で期待されています.
このように,技術やその応用が様々な分野にまたがっている今日,学際的な取組みがますます重要になってきています.通信ソサイエティでは,昨年度から「革新的無線通信技術に関する横断型研究会(MIKA)」,今年度から「超知性ネットワーキングに関する分野横断型研究会(RISING)」などの,複数の研究会やソサイエティにまたがる研究会を始めました.また,通信ソサイエティを中心として電子情報通信学会全体で,機械学会などと学会をまたがる活動も始めています.本会が引き続き社会に貢献していくためには,今後,このような学際的活動を更に進めていくことが重要です.
最後に,お札と言えば,日本でも2024年に紙幣が刷新・発行されることが発表されました.一万円札の肖像は,福澤諭吉から渋沢栄一に変わります.渋沢栄一は,株式会社制度を普及させるなど,「近代日本資本主義の父」として知られています.大きな社会変革が起きている現在に,正にふさわしい採用と言えるでしょう.また,2024年まで引き続き使われる福澤諭吉も,近代日本の思想的啓発と教育の実践で知られており,その精神は引き続き重要であり続けるでしょう.福澤諭吉は,「学問のすゝめ」の中で,「学問の道に於て,談話,演説の大切なるは既に明白にして,今日これを実に行ふ者なきは何ぞや」と述べています.福澤の言う「学問」とは,「学習」とは区別され,また単なる実用の学ではない「実学(サイヤンス)」,すなわち「科学」であり,知識を単に学ぶことではなく,問題を発見し,仮説を立てて検証し,結論を導いていくという,新しい知識の創造を指しています.
本会が,「談話」や「演説」の場を提供しながら,「学問」そして「人間交際(ソサイエティ)」の発展に寄与できるよう努力していきたいと思います.
オープンアクセス以外の記事を読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード