巻頭言 お札

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Vol.102 No.11 (2019/11) 目次へ

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巻頭言

お札 A Note通信ソサイエティ会長 大槻知明

 先日,イングランド銀行が,新50ポンド紙幣の肖像にアラン・チューリングを採用したと発表しました.また,コンピュータサイエンス分野のノーベル賞として知られる「チューリング賞」の2018年の受賞者に,ジェフリー・ヒントン,ヤン・ルカン,ヨシュア・ベンジオの3氏が決まりました.受賞理由は,ディープニューラルネットワークがコンピューティングにとって重要な要素技術になるまでに,人工知能(AI)分野における概念及び工学的なブレークスルーを生み出したことです.これらアラン・チューリングに関連するニュースからも分かるように,今日,様々な分野でAIが注目されています.AIは多くの応用例で,人間を凌駕する性能を示しています.囲碁や将棋では,世界トップレベルのプロ棋士に勝利しています.また,画像認識精度の高さから,自動運転や産業用ロボット,医療分野など様々な分野で応用が期待されています.

 現在のAIブームは3回目のものです.これまでのAIブームに比べて,今回,AIが実社会で使われ始めたのには,様々な要因があります.その大きな要因として,ビッグデータの収集が可能になったこと,それを処理する深層学習などのアルゴリズムが進展したこと,アルゴリズムの実装に適したGPUが高速かつ安価になったこと,などの技術的発展が挙げられます.AI技術は,情報学だけでなく,脳科学,物性科学,電子工学ほか,様々な学問分野にまたがっています.また,先に述べたように,AIは様々な分野で期待されています.

 このように,技術やその応用が様々な分野にまたがっている今日,学際的な取組みがますます重要になってきています.通信ソサイエティでは,昨年度から「革新的無線通信技術に関する横断型研究会(MIKA)」,今年度から「超知性ネットワーキングに関する分野横断型研究会(RISING)」などの,複数の研究会やソサイエティにまたがる研究会を始めました.また,通信ソサイエティを中心として電子情報通信学会全体で,機械学会などと学会をまたがる活動も始めています.本会が引き続き社会に貢献していくためには,今後,このような学際的活動を更に進めていくことが重要です.

 最後に,お札と言えば,日本でも2024年に紙幣が刷新・発行されることが発表されました.一万円札の肖像は,福澤諭吉から渋沢栄一に変わります.渋沢栄一は,株式会社制度を普及させるなど,「近代日本資本主義の父」として知られています.大きな社会変革が起きている現在に,正にふさわしい採用と言えるでしょう.また,2024年まで引き続き使われる福澤諭吉も,近代日本の思想的啓発と教育の実践で知られており,その精神は引き続き重要であり続けるでしょう.福澤諭吉は,「学問のすゝめ」の中で,「学問の道に於て,談話,演説の大切なるは既に明白にして,今日これを実に行ふ者なきは何ぞや」と述べています.福澤の言う「学問」とは,「学習」とは区別され,また単なる実用の学ではない「実学(サイヤンス)」,すなわち「科学」であり,知識を単に学ぶことではなく,問題を発見し,仮説を立てて検証し,結論を導いていくという,新しい知識の創造を指しています.

 本会が,「談話」や「演説」の場を提供しながら,「学問」そして「(じん)(かん)(こう)(さい)(ソサイエティ)」の発展に寄与できるよう努力していきたいと思います.


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