小特集 回路とシステムの研究を「社会実装」するまで 小特集編集にあたって

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Vol.102 No.11 (2019/11) 目次へ

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小特集

回路とシステムの研究を「社会実装」するまで

小特集編集にあたって

編集チームリーダー 佐藤弘樹

 近年,安価なデザインツールやいわゆるディジタルファブリケーション装置の普及によって,誰でも「作り手」になれるメイカームーブメントが注目されてきている.(ここで言う「メイカー」とは,製造業企業を表す用語ではなく,いわゆるものづくりを行う個人やグループを指す用語である.)例えば,市中に有料のファブスペースがあったり,大学,企業内にもいわゆるものづくり工房を併設したりする例が増えている.このようなアイデアを具現化できる環境は,大学や企業の研究者のみならず,個人若しくは少人数で活動しているメイカーにとっても活動の幅を広げる大きな機会となっており,世界各地で開催されているMaker Faireや主に日本国内の京都や金沢などで開催されているNTイベントなどの,いわゆるものづくりイベントで,メイカーが“とがった”テーマで成果を発表している例が多く見られている.一方で,大学や企業内の研究者といわゆるメイカーとの交流は,フィジカルコンピューティングを用いた教育などでは散見されるが,それでもまだまだ盛んであるとは言えない.

 このような現状を踏まえて,研究者とメイカーを結び付けることを目的に,主にメイカー側の視点で「社会実装」の現状を議論し,研究者と共有しようと,2019年3月の本会総合大会(早稲田大学)において,本小特集と同名のシンポジウムを開催した.本小特集は,このシンポジウムの登壇者を中心にした執筆者に,様々な角度で執筆頂いたものである.

 第1章では,本小特集の概論を「技術の民主化」というキーワードを基に解説している.この「技術の民主化」は,実は研究者,専門家の存在意義,価値を高めるものであり,本小特集の目的である研究者とメイカーを結び付ける意義を示している.

 第2章は,「社会実装」の実例として,近くて遠い関係であった産業としてのエレクトロニクスと,ホビーとしての電子工作とが,実は密接に関係し,新たなイノベーションを生み出している現状を紹介している.

 第3章では,個人レベルのものづくりに関して,特に電子工作に焦点を当て秋葉原と中国深圳との差異に注目し,メイカームーブメントにおける深圳の電子部品販売・電子機器製造の「生態系」について紹介している.

 第4章は,アイデアを具現化し「社会実装」の実践として,眼鏡型補聴デバイスやいちご自動栽培収穫ロボットシステムを学生プロジェクトとして立ち上げた例を紹介している.

 第5章では,研究者,専門家とメイカーを結び付ける有力な媒体の一つである技術雑誌において,専門的な情報を非専門家へ伝える方法を紹介している.

 第6章は,オープンソースハードウェアの観点から,メイカームーブメントが「社会実装」していきMaker Proへと昇華している現状を論じている.

 第7章では,著名なコンピュータサイエンスの研究者でありハードウェアハッカーであるAndrew “bunnie” Huang氏が,専門性の壁に阻まれがちな複数の分野に対して手を動かして作ることで,その壁を取り除き社会実装をしていく様をHuang氏の著書「ハードウェアハッカー」(A.“バニー”ファン,ハードウェアハッカー ~新しいモノをつくる破壊と創造,技術評論社,2018.)の解説を通じて,論じている.

 本小特集で扱っている内容は多岐にわたっているが,是非興味を持たれた読者は,「ハードウェアハッカー」若しくは本小特集の基になったシンポジウムの公開資料(2019年3月19日の電子情報通信学会「回路とシステムの研究を「社会実装」するまで」シンポジウムの関連資料,http://ifdl.jp/IEICEs190319/)を参照して頂きたい.

 最後に,本小特集の企画にあたり,多忙な中原稿を執筆頂いた著者の皆様,編集に携わった小特集編集チーム及び学会事務局の皆様,またシンポジウム及び本小特集に御協力頂いたAndrew “bunnie” Huang氏に深く感謝致します.

小特集編集チーム

 佐藤 弘樹  秋田 純一  武永 康彦  北  直樹  越田 俊介  白木 善史  土屋 健伸  平井 経太  山本 琢麿 


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